第31話 こんなつもりじゃなかったんです

 めちゃくちゃ怒られた。


「そりゃ修坊が悪いわ」

「うん、今のシュウゴの言い方悪いね」

「あ、煽りとしては……百点満点だけど、ふひひ」

「あっ、私はその、仕方ないと思います」

「うん、まあ確かに俺も普通にそう思う」


 全員の意見が一致した。


 子供のやったことだから仕方ない、と本人が言うと火に油を注ぐことにしかならんという典型例だった。


「いや、でもやっていい事と悪い事があるっていうなら、あんたらのやった事は悪い事だろう。ボスモンスターのテイムそのものは悪事じゃないが……。

 モンスターの違法売買、誘拐、そして……未成年の誘拐未遂、淫行未遂、殺害未遂。

 こっちが不可抗力で偶然配信したぶんだけでも、随分とやばいと思うけどな」


 そう、想像していたよりいろいろと凄い事になっていた。


『マジでやばい』

『今株価見てるけど急落してる』

『水テクだけじゃなく水虎グループ全体の株価に影響してる』

『この配信で空売りしたおかげで儲かりましたwwwww』

『↑座敷わらしパワー?w』

『【悲報】水虎グループオワタ』

『証拠めっちゃあるからな、自白動画』

『すげえ拡散されてる』

『すみません水虎テクノロジーの社員だけど何やってんだオイ』

『SNSから来ました』

『トレンド入ってるぞ』

『ニュース速報から来ました』

『テレビでやってる』

『今ダンジョン入り口前すごいことなってんぞ』

『今同接12万なんだがwwwwwwww』

『チャンネル登録七十万だぞwwwww』


「……うーん、あえて言いますね。マヨイガダンジョンに潜ってたら偶然に繋がって迷い込んだだけで、そしたら偶然捕まってしまっただけでそれを偶然配信に映ってしまっただけで、俺は悪くないです! こんなつもりじゃなかった!」


『知ってる』

『知ってたww』

『さすがのキチクもビビリ入ってるwww』

『全部自業自得で草』

『因果応報』

『見苦しい言い訳すんな』

『ええ……』


「く……くくく、くはははははは!!」


 おっさんが笑い始めた。


「ああ、ああ、そうだな! このクソガキが、よくやってくれたよ! 確かに水虎テクノロジーは終わりだろう……

 だぁが!

 私にはね、あいにくと愛社精神なんてものはないのだよ!」

「うわ、修坊あいつ開き直りやがったぞ。ああいう大人にはなんじゃねぇぞ」

「やっかましいわ!

 ククク、私の技術、研究を欲しがる企業はいくらでもある!

 貴様らを殺し、ここを脱出した後に顔を変えて再スタートすればいいだけよ」

「うーん、こんな大人にはなりたくないですね」


 俺は画面にむかってしみじみという。


「人間は確かに間違いを犯すものですし、再スタートだってできます。だけどそれは自分と向き合い罪を認め、償ったからこそできるものではないでしょうか。

 こうやって全てから逃げて再スタートなんて……」

「人の話を聞かんかバカガキがああああああ!!」


 うるさいな。今せっかくいい事言ってるのに。


「もういい、死ねいっ!

 やれ、水虎神!」



 おっさんが叫ぶ。その声に応じて、水虎神が叫んだ。

「グオオオオオオオ!」

「修坊!」

「シュウゴ、気をつけて!」


 タガメと千百合が叫ぶ。そして水虎神が襲いかかってきた。


「うおっ」


 俺は慌てて飛び退く。水虎神は、そのまま地面を殴りつけた。

 凄まじい振動が、地面から伝わってくる。タガメや千百合は耐えたが、俺の仲間はみんな倒れてしまった。


 流石に――強いな。


「みんな、下がれ!」


 俺は仲間に指示を出す。


「キ、キチクさんっ!」

「ああ、おっお前、大丈夫か……?」


 心配してくれる仲間たちに、俺は言う。

 ここからは本気モードだ。


「大丈夫だ、あの水虎は……ここで倒すぞ!」


『大丈夫なのか』

『水テクもう終わりだしやりすごしてよくね?』

『でもあいつ逃げるぞ』

『襲ってくるし戦うとかないだろ』

『キチクなら大丈夫、妖怪退治の専門家だし』

『どうせワンパンでしょわかってる』

『それな』


 俺は走り、水虎神の攻撃をかいくぐり、そして跳ぶ。


 相手は巨大な河童だ。

 河童なら――弱点はと頭頂部の皿だ。あそこらは神経が集中している急所だ。

 そこを破壊すれば、どんな強力な河童だろうと……!


「はああああっ!」


 俺は裂帛の気合いと共に、拳を叩きつける。



 だが――



「なっ!?」


 拳が、弾かれた。


 その瞬間、俺は視認した。


 幾重もの光の膜、文様が重なり、皿を守っているのを。

 これは――!


「そう、物理防御結界の重ね掛けだ!」


 おっさんが叫ぶ。

 これはダンジョンスキルによるものだ。

 奴ら、本当に数人がかりで色々やってるな。流石は企業ということか。


「くっ!」


 もう一度殴る。


 だが効かない。どれだけ重ね掛けしてんだよ!


「これだからダンジョンスキルってのは嫌いなんだ! チートだろ!」


 俺は叫ぶ。


『お前が言うな』

『チート遠野人が何か言ってる』

『草』

『ダンジョンスキルが嫌いとかマジ?』

『スキル無しの不適格者だからなあ……』


 リスナーたちのコメントに応える暇が今の俺には無い。どうする、これじゃあ……。


「っ!」


 次の瞬間、水虎神の尻尾が俺を殴りつけた。


「ぐわっ!」


 俺はそのまま、岸壁に叩きつけられた。


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