第30話 子供のやったことですし
今回色々と悪い事しでかしてるこの会社の名前にもなっている水虎とは、本来は中国の妖怪だ。
中国湖北省などの川にいたとされる伝説上の生き物であり、3歳ぐらいの子供の大きさをしている。水虎という呼び名は、虎に似た要素を体に持っていることに由来しているという。
日本にその名が入って来たのは江戸時代の頃であり、日本での水虎という名は、特定の妖怪を指すと言うよりも、河川などの淡水の水棲妖怪全般を指すものとして使われていた。
『和漢三才図会』などの書物に記されたそれは、特に日本古来の河童の別名としても使われていた。
そして水神信仰にも、その水虎の字が使われるようになった。
つまり、この眼前の巨大な妖怪は……水神とも呼ばれた巨大な水妖ということだ。
「このダンジョンの……ボスか?」
「ああ、そして……オレたちを捕まえた人間たちが支配している妖怪だ!」
俺の言葉に、タガメが答える。
……支配?
「それはまさか、ダンジョンマスターって事か?」
協会の東雲さんが言っていた。
ダンジョンマスターは、ダンジョンのモンスターを支配・使役出来るという噂が無きにしも非ずだと。
「い、いいえ、違います! ……たぶん」
俺たちの会話に、水面ちゃんが割り込む。
「わ、私にはわかります……あれは、ダンジョンスキルの【モンスターテイミング】によるものだと!」
「なんだって!?」
モンスターテイミングスキル。モンスターと契約し、支配・使役出来るレアスキルだ。
しかし……。
「ああいうのってボスモンスターと契約出来たか!?」
聞いたことは無いが……。
そんな時、声が響いた。
「で、出来るのだよ!」
「!?」
俺たちはその声の方向を向く。
そこにいたのは……。
「誰?」
知らないおっさんだった。
おっさんは、白い服に身を包み、眼鏡をかけた小太りのおっさんだった。
「わ、私は……水虎テクノロジーのダンジョン事業部の者だ! 貴様ら、よくもせっかく仕入れた商品を!」
おっさんは顔を真っ赤にしている。
よし、インタビューしてみよう。
「すみません、ボスモンスターはテイム出来ないって聞いた覚えあるんですが……」
「そ、それはだな! テイマー一人が自力で挑戦しても成功例が公式にはない、というだけだ!
彼我の実力差、レベル差というものがあるのだよ!」
おっさんは答えてくれた。
「だが我らは違う、このダンジョンを攻略した時に、このボスモンスターを生け捕りにして弱らせ、その上でバフをかけて強化したテイマー数人で挑めば契約可能になるのだ!
これはまだ誰も知らん、我々だけの最高機密なのだよ!
恐れ入ったか、支配され操られるボスモンスターという驚異! 絶望! これこそ…………
ん?」
おっさんは。
俺の隣にいる千百合に気が付いた。
正確には、彼女が持っているスマホに。
絶賛生配信中である。
「……な、なにをしているのかな」
「あ、自己紹介遅れました。私、菊池修吾というしがない配信者です。ダンジョン探索配信中にここに迷い込んでしまってそれも配信してるんです」
「いや、このダンジョンには通信ジャミングが」
「ああ、仲間のスキルで問題なしです。疑ってます? チャンネル登録はこちらです」
俺は説明する。
おっさんは慌てて、自分のスマホでそれを見始めた。
『どうもこんにちはwwwwww』
『水テクダンジョン事業部のおじさんちぃーっすwwwww』
『見えてますよ安心してください』
『通報しますた!』
『切り抜き拡散してますwww』
『今同接七万越えてますwwwwwww』
『新聞社の方からきますたwww』
『お巡りさんこいつらですwww』
『遠野の民がアップを始めています』
『遠野ちゃんねるにスレ立てしました』
『もう警察動いてるぞww』
『遠野の民が本気出した』
『キチクさんは許さない』
『この書き込みを見た時お前は〇ぬ』
『おめーの敗因はたったひとつ……シンプルなたったひとつだ、お前はキチクを怒らせた』
『ねえ今どんな気持ち?』
「――――――!!!!」
おっさんは固まる。そりゃそうだろう。
ていうかリスナーのみなさん、煽りすぎである。警察に通報とか拡散とか、ちょっと大事になりすぎてないか。
今同接八万行ったし。
ひどい話だ。
おっさんは全身汗だくで、真っ青になって震えている。
「あ、あ、な、なな、な……っ」
仕方ない。
ここはおっさんを落ち着かせるために、伝家の宝刀のあのセリフを言うとしよう。
これさえ言えばみんな笑顔になる必殺技だ。
「あのー」
俺は言った。
「子供のしたことですし、そんなに目くじら立てないでくださいよ」
「やっていい事と悪い事があるだろうがクソガキがあああああああああああああああ!!!!!!!!」
おっさんは絶叫した。
まあ、そりゃそうだろうな、うん。
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