第27話 囚われの友

「――というのが、計画だ」


 俺はマヨイガにて、千百合たちに話す。

 そう。

 私有地である地上部分から立ち入れないなら、別の所から入ってしまえばいいのだ。

 ダンジョンの内部そのものは、実は法的な権利は無い。

 何故かというと、大きさもわからないダンジョン、その内部を資産として認めた場合、税金関係がとても面倒くさくややこしくなるからである。

 だからダンジョン法では、土地の権利と義務はあくまでもダンジョンに繋がっている土地に限られる。


「そこを逆手に取るんだ」


 奴らのダンジョンに――直接乗り込む。

 無論、簡単ではないだろう。これはマヨイガにかかっている。


「――出来るか?」


 内部を自分の意思で自在に組み替えられる、意思を持つダンジョン、マヨイガ。

 彼の返答は――


 こん。


 音ひとつ。

 ――可能か!


「あきれた、君さ、なんつーこと考えるんだよ」


 千百合が呆れている。 


「あくまでも、偶然ダンジョンとダンジョンが繋がってしまい、そこに偶然迷い込んだ俺は偶然にもそのダンジョンで行われている違法行為を偶然撮影してしまい、偶然生配信だったから偶然映ってしまった偶然絶後の配信事故でーす何か問題でもwwwwwwww作戦だ」

「ぐ、偶然って言い過ぎだろ……ふひひ、なんだよ偶然絶後って」


 日狭女が笑う。


 仕方ないのだ、あくまでも偶然だから。


 偶然にも生配信されてしまえばこっちのものだ。あとは世論を味方につける。


 懸念としては、捕まっているタガメ達を見つけて撮影する前に、敵……水虎テクノロジーの探索者に見つかってしまう事だ。

 あくまでも偶然迷い込みましたという体で撮影している以上、見咎められてしまったら帰るしかない。そこは賭けだ。


 しかし――賭けるしかない。



 ◇


 そして俺は、賭けに勝った。な事に。

 そこには檻がいくつも積まれ、そこには色んなモンスターがいる。


「グァオッ!」

「グルルルル……」

「ギゲゲギャッ!!」


 ゴブリン、オーク、スライム、コボルド、ラミア、ハーピィー、ミノタウロス、チョモゲピロピロ……色んなモンスターがいる。


「やややっ、これはもしかして、モンスターを捕獲して取引しているのかなー?

 これはダンジョン法に違反している重大な犯罪ではないかなー、とんでもないものを見つけてしまったー、どうしようー」


『口調wwwwwww』

『わざとらしすぎる棒読みこれかwwwww』

『【悲報】キチクさん演技力壊滅wwww』

『いやまってこれマジでやばくない?』

『どこだよこのダンジョン』

『えっなにここ……』

『マヨイガダンジョンにこんな場所あったの!?』

『いやキチクが今説明しただろ、別のダンジョンに繋がったって』

『そんなことあるの?』

『普通は無いけどマヨイガだしな』

『もっと近づいて』

『これマジなら大変だぞ』


 コメントが騒然としている。そして拡散されているのか、同接もどんどん増えている。

 いいぞ。

 ノってくれているリスナーさんたち最高だ。わかってるじゃないか。


「うーん、これはもっと奥に行ってみないとだね。もしこれがダンジョン特有のトラップとか、そういうダンジョンの可能性もあるしね!」

「う、うん……お、憶測で犯罪呼ばわりは、よ、よくないしな……ふひひ」

「そ、そうですね! 早くタガメさんたち探さないと」


 うん、水面ちゃん減点。それ言っちゃダメでしょ。まあスルーしとくけど。


「そのとおりですねー。ここはしらべないといけないぞー。もし未発見のダンジョンならそれはそれですごいことだしなー」


 そして俺たちは歩き出す。織が詰まれてある中を進むと――


「おい、出せよ出しやがれちくしょー! オレを誰だと思ってやがるこんにゃろー! 尻子玉ぶっこ抜くぞ!!」


 怒号が聞こえた。


 懐かしい声だ。ほんの数日会ってないだけだが、何年もあってないかのようだ。

 俺たちはその光景をそっと見ると……。


 檻に閉じ込められている、俺たちの友達がいた。 


 遠野の赤い河童、タガメだ。


「ちっ、うるせぇ!」


 そして、その檻を乱暴に殴る男がいた。

 探索者だろうか。二人組だ。

 ヘルメットにプロテクターと、探索者というよりは警備員や兵士のような格好だ。

 そして彼らの腕には……。


「おい千百合、ズームで撮って」

「おっけー」


 千百合がカメラを操作する。 

 そこには、


「まあなんてことでしょう。あのダンジョン探索者の服には、なんと! 水虎テクノロジーのエンブレムがついているではないですかー」


 ……ビンゴだ。


『これマジか』

『さすがに草取れるレベル』

『え、待って』

『水テク社がモンスター捕まえてるの??』

『つかあれ、こないだ配信に出てた俺らのエロガッパじゃね』


 そんな俺たちに気づいていないのか、彼らは話を続ける。


「くそ、コイツラまじうぜえ」

「ボヤくなよ、喋るモンスターは高く売れるんだからよ」

「そりゃそうだがよ。こんなの欲しがる奴らの気が知れねぇぜ。モンスターならモンスターらしくしろってんだ」

「金持ちの変態どもの特殊性癖なんぞ知るかよ。上の連中は金になりゃいいんだろ」

「ちっ、現場の人間のストレスも考えろってんだ」


 そして男は乱暴に檻を蹴る。

 タガメに攻撃を加えないのは、商品だから……ということか。

 となると、河童たちの命は、少なくともここにいる間は保証されていることになる。一安心だ。


「おおう、どうやらあの河童は、俺たちの友人のタガメはこいつら水虎テクノロジーの社員につかまっているようです。

 かれらの言葉から、どうやら会社くるみのやべー仕事のようですねー」


 俺は言う。

 コメントには、


『キチク後ろ!』

『おいうしろ』

『後ろにいるぞ』

『うしろ』

『うしろ』

『うしろ』


「ん?」


 その言葉に俺が気づいた時は遅く。


 衝撃と電撃が、俺を襲った。

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