第21話 方針は環境保護運動?

 マヨイガで出された夕食は、鮎の塩焼きだった。


 マヨイガさん、わかってやってない?


 こん、こん。


 家鳴りが二回。いいえ、の意思表示だ。

 マヨイガは喋れない。しかし、家鳴りというラップ音のようなものは出せる。

 なのでそれを使えばはいいいえのような簡単な意思疎通はできるのだ。

 まあ、絶対わかってやってるだろうけど。まあいいや。


「いただきます」


 俺たちは食事を始める。


 食卓に並べられているのは、ご飯と味噌汁、鮎の塩焼き、里芋の煮物、漬物の4品。

 シンプルだけど、どれもこれも美味い。


「鮎の味がしっかりしてるね」

「ああ、やっぱり天然物は違うな……」

「で、でもどうやって獲ったんだろ、こ、この家が」

「ん? 住人の千百合が獲ったんじゃないの?」

「ボクは座敷わらしでインドアだからね。体動かして遊ぶの嫌いじゃないし釣りも好きだけど、この鮎は獲ってないよ」

「……」


 誰が獲って来たのか、用意したのか。

 まあ深く考えないようにしよう。マヨイガは不思議な家なのだ。


 俺は実家とマヨイガを行き来している。


 祖母は基本的に放任主義で、両親も盛岡で働いてて家にはいない。

 まあ、家族仲が悪いというわけではない。ただ、仕事柄、家を留守にしがちなだけだ。

 両親は共働き。

 なので子供の頃は、ずっと一人で過ごしていた。

 寂しいとか、そういう感情は不思議と湧かなかったな。

 テレビもあるしゲームもネットも出来るから退屈しなかった。


 それに……友達もいた。


 あれは……えっと、なんだっけ。

 ……どうにも記憶にもやが……。


「し、修吾。た、食べないのか?」

「……っ」


 日狭女の言葉で我に返る。何を考えていたんだっけ。


「あ、いや、食べるよ。ごめん」

「う、うん……食べないならもらおうと思ったのに」


 鮎を口に運ぶ。

 口の中でほろりとほぐれる食感。そして広がる鮎の風味。


「うまいな」


 やっぱりマヨイガの食事は美味い。




「さて、今夜の雑談配信ですが……」


『きた!』

『待ってた』

『キチク様の雑談聞きに来たぞー』


「今日はですね、皆さんに相談したいことがありまして……」


 俺はリスナーの皆に問う。


「カッパ淵が危ないと聞いたのですが、どうしたらいいと思いますか」


 コメントが流れる。


『カッパ淵?』

『こないだのあれか……』

『カッパおじさんちゃん可愛かった』

『おっぱいでかいよな』

『おっぱい』

『おっぱい』

『おっぱい』

『おっぱい』

『おっぱい』

『おっぱい』


 おっぱい連呼すな。


「おっぱいおっぱいうるせぇ! お前らおっぱいしか言えんのか!?」


 コメント欄にツッコミを入れる俺。そしてコメントが帰ってくる。


『はい』

『はい』

『はい』

『はい』

『はい』

『YES』

『exactly(その通りでございます)』


 お前ら……。


「はあ……ともかくですね。

 あれからもちょっと聞いたけど、河童の目撃証言がどんどん減っているんですね。

 一説では……河童たちも密猟されてるんではないか、と」


『密猟?』

『マジか』

『動物愛護団体が黙っちゃいねえぞ、そういうの』

『妖怪愛護団体では』

『あんのかそんなの』

『カッパって獲ってどーすんだ』

『食うんだろ遠野だし』

『でも密猟だし遠野人じゃないんじゃ』

『そういや聞いた事ある、河童を捕まえてカッパ巻作らせてる寿司屋の話』

『アホくさwwwww』

『カッパ巻きか……』

『カッパ巻き食いてえな……』

『カッパ巻きよりキュウリ巻きだろ』

『カッパ巻き』

『カッパ巻き』

『キュウリ巻き派』


 カッパ巻き推しが凄いな。


「まあそんな都市伝説の寿司屋陰謀論はおいといてですね……。

 遠野の人間として、何とかしたいって思うわけですよ」


『キチクがしっかり宣伝すれば人は来るだろ』

『チャンネル登録40万超えだぞ』

『マヨイガダンジョンのため遠野行ってる人間も結構いるらしいしな』

『千百合ちゃんと日狭女ちゃんに会いたいロリコン多すぎ』

『いや美少女妖怪が実在するんだしリアルに会いたいだろ』

『妖怪といえば喋る赤カッパも実在したしな』

『あのエロガッパは信頼できる』

『あいつは良い奴だった』

『また見たい』

『つーかコラボして』

『タガメっちとカッパおじさんちゃんまた見たい』


 ふむ。


 確かに、またタガメに配信に出てもらうのもいいかもしれない。

 都会の人間って河童を中々見た事がないらしく、こないだの配信は人気だった。


 あれでまたチャンネル登録者数増えたしな。


「そうですね……じゃあ、今度またカッパ淵に行って、タガメに配信に出てもらいますか」


『それでこそ』

『たのしみ』

『カッパおじさんちゃんにも出て欲しい』

『キュウリ大食いとかやってほしい』

『キュウリ食ってるところ見てえ』


「……なるほど。とりあえずの方針は、タガメとカッパおじさんちゃんにまた出演してもらって、カッパ淵の現状を訴える配信をしていく感じですかね。

 ……なんか俺、環境保護運動みたいなことやってますね。そんなつもりじゃないんですが」


『別にいいだろ』

『地元を守ろうとするのは尊いこと』

『問題ない応援する』

『収益化できてたら寄付としてスパチャするんだが』

『それな』

『俺らも遠野守りたい』


「みんな……」


『遠野人怒らせたら世界がヤバい』

『そうそうそれそれ』

『マジでな』

『遠野人の暴力が妖怪じゃなくて俺ら人類に向いたらヤバい』

『まだ死にたくない』


「お前ら!?」


 その誤解改める気ないというか、わざとやってない?


「……はあ、もういいです。

 んじゃ、次は千百合と日狭女のゲーム実況、雑談配信のコーナーで」


『待ってた』

『待ってた』

『待ってた』

『待ってた』

『待ってた』

『待ってた』


「ありがとう。ではお楽しみください」


 こうして、今夜も配信は盛り上がっていった。


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