第19話 赤い河童と四代目カッパおじさん

「あっぶねーな、川に石を投げる時は一言言うのがマナーだぞ!」


 そう叫んで川から現れたのは……赤い河童だった。


「殺す気かよ! ……ん?」


 その河童は、俺をじっと見る。


「……お前、修坊か?」


 その呼び方で俺を呼ぶ河童は……。


「あ、もしかしてお前、タガメか?」

「おうよ! 久しぶりだな修坊、元気してたか?」


 そう言って、河童は笑った。


『え? 誰?』

『河童が喋った』

『妖怪三人目か』

『マジで喋ってるわ河童』


「彼は河童のタガメです。俺が小学校の頃に知り合った……幼馴染って所でしょうか」

「ん? これあれか、動画配信ってヤツか。お前そんなんやってんのかよ。

 って、座敷わらしもいるじゃねえか。あと……怨霊!? ……じゃねえな、黄泉の住人か。

 しばらく見ない間にどうなってんだよお前」

「まあ、いろいろあったんだよ」


 俺は苦笑いする。


「そっか。まあこっちも色々あったぜ。カッパおじさんも引退したしな、ほら三代目のおっちゃん」

「マジで?」


『カッパおじさん?』

『何者なんだ』

『カッパおじさん…』

『人間なの? カッパなの?』


「あ、カッパおじさんというのは観光協会が今の形になった時に就任した、河童ハンターの元締め……みたいな人ですね。

 河童の保護、環境保全、外来河童の駆除、観光客の案内なんかをしてくれてます。

 俺が知ってるのは三代目のおじさんだったんですが……引退してたとは」

「ああ。んで今はその子供が四代目を継いでる。

 しかし結構大変だからな。最近、よその奴らも増えてるし、仲間たちも減ってるんだよ」

「そうなのか」

「ああ。全国的にどんどん減ってるんだとよ、俺らみたいな喋れるインテリ河童はよ。四代目が言ってたぜ。

 あ、噂をしたら四代目だ」


 タガメは指を指す。その方向には……。


「ふー、疲れたぁ……あ、お客さん来てる? こ、こんばんわー」


 女の子がいた。


 麦わら帽子にツナギに軍手、長靴。手には竹の釣り竿。

 たしかにその服装いでたちは、俺の知っているカッパおじさんだったが……

 女の子だった。


 赤いほっぺにそばかすのある、いかにも田舎にいそうな可愛い、中学生くらいの女の子だった。あと胸がでかい。


『ん? この声』

『女の子やんけ!』

『女?』

『おじさんじゃないの?』

『カッパガールきたな』


 コメントが、彼女の声だけで盛り上がる。

 わかりやすいなお前ら。


「っと、やばい、無断撮影になってしまう」


 俺は千百合に、スマホのカメラの方向を変えてもらう。

 流石に他人を、しかも女性を無断で配信には出せない。これが録画して編集する動画配信ならともかく、生配信だからな。


「えっと、すみません。カッパ淵について動画配信をさせてもらってて。撮影いいですか?」


 俺は四代目カッパおじさんの少女に伺う。


「あ、はい。かまいませんよー……ん?」


 少女が俺を見る。そして、千百合と日狭女に視線を順々に移し、また俺に。


「えええええええええええええええええ!? きっ、キチクさんんんんんんんんんんん!?」


 そして叫んだ。


 いや、キチクと叫ばないでほしい。おまわりさんが近くにいたら飛んできて俺逮捕されるじゃん。


『絶叫wwwww』

『知られてたかwww』

『そりゃそうなる』

『初対面でキチク呼び絶叫いただきましたwwwww』

『やめてwwwおなかいたいwwwwww』


 他人事だと思いやがって。


「……はい、あの、その通りですが……」

「やっぱり! 配信見ました! えっ、もしかしてこれ、今キチクさん配信してるんだど!? おら出るのんが!?」


 方言出てますよ。


「あっ、そのすみません、私ったら。つい興奮してしまって。

 はい、私がカッパおじさん四代目の、若生水面わこうみなもです。よろしくお願いします!」


 すごい勢いで頭を下げる。


「あ、はい、こちらこそ」


 俺もお辞儀する。


「そっ、それで……さっ、サインください!」

「あ、はい」


 俺はペンと勢いに気圧され、そのままペンと色紙を受け取り、名前を書く。


「ありがとうございます! 一生大事にしまっす!」


『完全にファンやないか』

『なんだこの流れ』

『おじさんが出るとおもったら女の子でキチクのファンだった』

『なんでやねん』

『いいよね……田舎っ娘……』

『落ち着けみんな、この娘も遠野人だ』


「いやあもうびっくりです! あっ、河童退治してくれてたんですか、流石です!」


 俺が持っていた河童を見て彼女は言う。


「むう……見事に一撃だぁ……さすが鮮やかです」

「そ、そうか?」

「はい! この遠野に暮らす者として、とても誇らしいです!」

「いや……そんなに褒められると照れるな」

「いえいえ、本当のことですから」


 そう言ってにっこり笑う彼女。

 可愛い。


「でも、今日はどうしてここに?」

「ああ、さっきも言ったけど、配信をね。遠野についてリスナーがちょっと誤解してるんで、それを解いて、遠野の魅力を伝えたいなって」

「な、なるほど、流石です! キチクさん、チャンネル登録20万ですもんね! 遠野のすごい宣伝になると思います、あ、どうしよう、そういやおらキチクさんの配信に出でるんだ、こんな芋っぽい恰好で!」

「いや、充分可愛いと思うよ」

「な、ななななな、何言ってんだど! お、おらがめんこいなんて!」


『方言かわいい』

『テンパってるテンパってる』

『リアルでめんこいとか初めて聞いた』

『めんこいのうwwww』

『自信もって、充分めんこいから』


「それで、俺が異常じゃないという事を、遠野の紹介の配信を通じてみんなにわかってもらえればと……」


 その俺の言葉に、


「キチクさんはいい意味で普通におかしいと思います」


 水面ちゃんは普通に断言した。



 ……あれ?

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