第18話 カッパ淵と外来種
「どうもみなさんこんにちは、キチクじゃなく菊池修吾です」
『やあキチク』
『おっキチク来た』
『やあキチク』
『ん? 今日は家じゃない?』
『ダンジョン配信かな?』
『キチクのダンジョンか……』
『キチクのダンジョン』
「違いますよ?」
今日は土曜日。遠野は休日だ。
なので配信をしようと思ったわけだが、マヨイガダンジョンの配信も確かに考えたけど……
だけど思ったわけだ。
遠野は何か誤解をされている。
リスナーたちは、遠野を魔窟か何かと思っているふしがある。都会人の田舎への偏見なのだろうか、なぜこうなってしまったのかわからないが……。
なので、ちょっとは遠野の正しい姿を説明、宣伝しようと思ったわけである。
俺はそれをリスナーたちに説明した。
『元凶お前だろ』
『ゴカイ……? ああ釣り餌の虫ね』
『それは沙蚕』
『キチクが悪いよ』
「ええ……そんな」
俺はがっくりとうなだれた。
「うう……そんなこと言われても、俺はただ普通に探索しているだけなのに……」
『それだよ』
『それがいけないんだと思うよキチクくん』
「ええ……?」
どういうことだ? 俺は普通にしているだけだぞ?
お前らは本当の強者、バケモノを知らないだけだ。
「……まあそれはともかくー。
そんなわけで、今日はここ、土淵にある……カッパ淵と呼ばれる場所です」
俺はそう言いながら、画面に地図を表示する。
「かつてカッパが多く住み、人々を驚かしたという伝説が残る場所です。
全国唯一、カッパ狛犬というものがある寺の裏手を流れる小川の淵ですね」
『カッパ狛犬?』
『なにそれ』
「寺が火事になったとき、河童が水を吹いて消防車のように火事を消したので、それを讃えて作られたという像ですね。
本当に河童のような狛犬がいた、というわけじゃない……はずです。
一説にはその寺を守った功績で、神仏の力で河童が狛犬に進化したって話もあるようですけど」
実際にどうかはわからない。
『カッパ狛犬って他の地域にもあるよ』
『えっ』
『マジか』
そんなコメントが届く。
……マジか。
「……まあ、河童って全国区にいますからね。そういう狛犬他にあってもおかしくないでしょう……。
いや勉強不足でした、すみません」
俺は謝罪する。
東京と遠野しか知らないからな、俺。こんな変なのがあるのは遠野くらいだと思ってた。
まあ河童だからな。
『ドンマイ』
『間違いは誰にでもある』
『謝れてえらい』
『キチクにも間違いはあるんだよ……』
『まあ脳筋だしな』
……なんだろう。許されたと思っていいのかしら。
まあ今後気を付けよう。
俺たちはカッパ淵を歩く。
「けっこう浅い川だよね、せせらぎというか」
千百合が言う。
「ふ、ふふふ。きれいな光景……黄泉にはなかったなあ、し、新鮮だな」
日狭女も感心しているようだ。
「うん。そしてここには、河童釣りの釣り場があります」
『ん?』
『んん??』
『????』
『カッパ釣り?』
『またおかしい言葉が出てきた』
『そういやキチクは河童食べると言ってたな』
『遠野人は河童を常食してんのか』
コメントが騒ぐ。ここでも誤解が生じているようだ。
ちゃんと説明しないと。
「えーと、釣りといっても子供の遊び、アトラクションみたいなもんです。こっちですね」
俺は手でそこを示す。
小屋があり、釣り竿が並んでいる。
その釣り竿は竹で出来ていて、糸はタコ糸。そしてそこには……きゅうりがくくりつけられていた。
『ん?』
『なにこれ』
『なんできゅうりが』
『いや意味わからん』
『なんできゅうり?』
『なんでそれで河童が釣れるの?』
「言ったでしょう、アトラクションだと。
カッパ淵には、遠野の河童が現れます。これはダンジョンで出てきた、知能の獣並みな連中とは違って、知性があって喋るタイプです。
さっき言った、寺の火事を消火したのも知性があり、人助けをしたわけです。
遠野の河童は赤いのが特徴で、かつては馬を襲ったり、人間をからかっていたずらしてたんですが……
そのいたずらにぶち切れた遠野の人間たちが、河童を捕まえて締めあげ、二度と悪さをするなと誓わせたわけです。
それ以降、遠野の河童と人間たちは共存共栄しているわけです」
『流石遠野……昔から脳筋か』
『やっぱり遠野じゃねえかwwwwww』
『平常運転』
『やっぱ遠野だった』
『共存(脅迫)』
『しつけたか……』
『河童は遠野人の奴隷なんです???』
「だからそんな物騒なもんじゃないですよ?
んで、遠野には河童ハンターの協会があるんですが……
そこで配ってる「河童捕獲許可証」というお土産もあってですね」
俺はカードを見せる。一枚220円(内税)で売っているものだ。
裏面にはこう記されてある。
カッパ捕獲七ケ条
1 カッパは生捕りにし、傷をつけないで捕まえること。
2 頭の皿を傷つけず、皿の中の水をこぼさないで捕まえること。
3 捕獲場所は、カッパ淵に限ること。
4 捕まえるカッパは、真っ赤な顔と大きな口であること。
5 金具を使った道具でカッパを捕まえないこと。
6 餌は新鮮な野菜を使って捕まえること。
7 捕まえたときには、観光協会の承認を得ること。
『おいやべーぞ遠野wwwww』
『ひでえ……売ってやがる』
『もう遠野は人間の住む世界じゃない』
『ハンターライセンスを200円で売る町……』
『世紀末か?』
「いやだからあくまでも子供用、観光客用のお土産でしてね?
これを持ってる人がこのきゅうりを垂らすと、運が良かったら河童が来るわけです。
そして彼らは捕まったら、一緒に遠野観光協会に行ってですね、釣った人はお菓子をもらって記念写真とか撮ったりするわけです」
観光客用のアトラクションなのだ。
遠野の赤い河童は、観光業に協力し、観光客を楽しませているわけだ。
「遠野の河童は赤くて、知性があって人間と共存している隣人、友達なんですよ。
別の地域にも、知性のある河童はいますが、遠野にはいませんね。縄張りってやつです。
たまに、別の地域から知性ある緑の河童が来るときもありますが……そういう時は、遠野の河童を窓口にして同行してますからね。
問題は、そうでない連中です」
俺はこの間のマヨイガダンジョンを思い出す。
あそこに沸いてた河童たちだ。
「知性も無く、故に縄張りとか気にせずに入り込んでくる、いわば特定外来種みたいなもんです。まあ国産ではありますが。侵略的在来種、とでもいうべきでしょうか?
あいつらは家畜や人間襲うし田畑も荒すんで、見つけたら駆除対象ですね……」
俺は小石を拾って、川に投げる。
「ギャバッ!」
悲鳴が聞こえ、そして……河童が水面に浮かんだ。
緑色で、全長1メートルくらいだろうか。
『ん?』
『ちょっとまってここダンジョンじゃない、外だよね』
『今投石で殺したの? 陸上から水中のを?』
『一撃wwwww』
『ええええええ!?』
俺はざばざばと川に入り、河童を引き上げる。
皿は割れていた。
「こいつは観光協会や猟友会に引き渡したら、お金もらえます。
これくらいだと千円から三千円くらいかな。
遠野の河童ハンターは、赤い河童の保護と、外来河童の捕獲・駆除が仕事ですね」
これでちょっとはみんな理解してくれるだろう。
河童ハンターは遠野では立派な、普通の仕事だ。
俺が異常でも遠野が魔窟ということでもないのだと。
外来種の脅威はどこの地域でも問題になっているしな。
俺がそう思っていたら……
「あっぶね~~~!!」
川の中から、声が聞こえた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます