第16話 俺たちの探索は始まったばかりだ

 俺は東雲さんとの会話をみんなに話す。


『すげえな』

『つか言っていいのかそれ』

『極秘事項じゃないの?』

『あっちでもキチク呼びwwwww』

『ダンマスって儲かるんだな』

『国ももてあましてる感すごい』

『まあ特別で特例だからな色んな意味で』

『スキルなしステータスなしの不適格者が意志を持ったダンジョンのマスターになりました、これって世界初じゃないか』

『異例すぎんだろwwwwwwおかしいわwwwww』


「ええ、とにかくそういう話で進みました。

 マヨイガダンジョンですが、入り口を遠野市のどこか……それは市と協議して決めますが、そこに固定する感じで話が進んでいます。

 色々とまとまり次第発表しますけど……。

 みなさんも、挑めますよ、マヨイガダンジョン!」


 俺は言う。


 その言葉に、コメントの流れが――止まる。


 そして。


『うおおおおおおおおおおおおおお!!!!』

『キタアアア!』

『キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!』

『マヨイガダンジョンきたあああ!!!!』

『マジか! まじか!? うおおおやったあああ!!』

『絶対行く!』

『いくぞおらあああああ!!』

『マヨイガの妖怪退治とかなにそれ燃えるんだけどwwwww』

『モンスターは倒してきたけど妖怪は初めてだ』


 流れ出した。狂喜乱舞のコメントがいっせいに流れ出す。

 これは嬉しい。

 マヨイガダンジョンを攻略し、そして……ダンジョンとして残した甲斐がある。


「先程も説明しましたが、マヨイガダンジョンを下層まで攻略したら、ここ……今、俺や千百合やシコメがいるマヨイガ邸宅への道が開けます。

 そう、遠野物語にある、あのマヨイガに来れるわけです。そこでメシ食って風呂入って一泊まで可能です、お土産付きで」


『すげええええええ!』

『ん? 生千百合ちゃんに会える?』

『い、いくししかねえ……』

『お前らお触り厳禁だぞ、推しに触れるのはファンクラブ会員としてご法度』

『わかってる』

『わかってるさ、俺たちは紳士だぜ……』

『仮に紳士だとしても変態と名の付く紳士だよ』

『ダメじゃねえか』

『むしろ紳士だからこそ触れてはいけないのでは?』

『わかる』

『そうだね』


 盛り上がっておられる。

 まあ千百合は消えられるんでお触りは無理だろうけど。


「その時に千百合がいれば、ですけどね。

 千百合は結構遠野を遊び歩いているみたいなんで」


『十年ぶりに出られたんだっけ』

『なら仕方ない』

『子供は外で遊ぶべき』


「まあ、外で会った時はよろしくお願いします。

 ともあれ、マヨイガダンジョンはそんなかんじですね」

「もう話終わったー?」


 千百合がすっと現れる。

 その瞬間、


『千百合ちゃああん!! 愛してるうううう!!!』

『可愛いよおおおおおおお!!』

『結婚してくれええええええええ!!』

『千百合様あああああああ!!』

『俺と結婚してえええええええええええええ!!!』

『千百合たんprprprprprprprpr』

『ブヒィイイイイイイイ!』

『千百合ちゃんのおかげでガチャでSSRでました流石座敷わらし!』

『ええいシコメちゃん! シコメちゃんはいないの!?』

『キタアアアアアアア!』

『この子を見に来た!!』


 一気にコメントが加速した。お前らさあ……。


「わ、わわわ、私か? い、いるけど……」


 シコメが横から画面に顔を出す。


『ホアアアアアアアアア!!』

『やっぱりかわいい』

『明るいところで見るとマジ美少女』

『この子ブスって言ったやつ出てこいや』

『シコメちゃんのスレ見てきたけど性格もいいらしいな』

『優しいのか……いいなあ……』


「……な、なんだこいつらは……」


 シコメが引いている。

 さもありなん。


「で、でも……そうかぁえへへ、今の地上の人間にとって、私本当に可愛いんだな……うへへ、わ、私の時代来たね」


 シコメが照れている。まあ、今まで数千年ずっと引きこもりだったわけだしな。


 あまり調子に乗らせるなよ頼むから。


『シコメちゃんの時代到来』

『あんたがヒロイン』

『シコメちゃんシコシコ』

『シコメたんペロペ……おっと誰か来たようだ』

『シコメちゃんは俺たちの嫁』

『いや俺のだ』

『シコメはみんなのもの』

『いやまだロリじゃないからセーフ』

『いやアウトだろ』

『いやいやセウトだろ』

『いやいやいやいやいや』


「あ、あのう!」


 シコメが叫んだ。


「そ、その、だな。シコメって言うの、や、やめてほしいっていうか……ほら、それって、醜い女って書くじゃない、わ、私とは違うっていうか」


 つい先日は、わたくし醜い女です生きててごめんなさいみたいな事言ってたのにな。まあ自分に自信ついたのはいいことだけど。


「豫母都志許賣の、べ、別名に、泉津日狭女ってあるから……こ、これからはそっちで読んで欲しいかな、って……だ、ダメかな」


『ヒサメ?』

『ヨモツヒサメか』

『いい名前じゃん』

『シコメちゃんシコシコからヒサメちゃんヒサヒサになるのか……うむ』

『意味不明では』

『じゃあ千百合ちゃんチユチユか』

『それは卑猥』


 豫母都志許賣改め泉津日狭女か。問題ないと思う。

 意味が通じにくいとはいえ、ブスブス言うのもあれすぎるしね。


「え、えへへへへへへ、お、お前ら……ものわかりよくてちょろいな、素敵」


 お前が言うかと思ったけど口には出さないでおいた。

 千百合も同じ顔をしていた。


「まあ、いいんじゃないかな、日狭女ちゃん」

「うん、いいと思う。リスナーさんたちにも好評だし」

「あ、ありがとう……みんな」


 日狭女が微笑んだ。


 そして雑談に入る。


『そういえば千百合ちゃんの配信見ていい事あったんですけど』

『俺も』

『宝くじで3000円当たった』

『ガチャでSSRが出た』

『仕事決まった』

『彼女出来た、いやマジで』


「……マジですか?」


 いい事が起きているリスナーさんたちがちらほらいた。


「あー。まあボクって座敷わらしだからねー。

 よくあるでしょ、座敷わらしがいる宿で座敷わらしを見たら幸運が訪れるってやつ。配信画像ごしでも効果あるんだね」


 ……そういうもんなのか。


『運気がアップしてるんでしょうか』

『宝くじ当たれとは願ったけど』

『ガチャでSSR出るの初めて見たかも』

『リアルラックあがるってのは本当だったんやな……』


「多分ね。あはは。

 ただ、過度な幸運とか期待しないでね。

 ボクたち座敷わらしは、因果律の流れをよい方向に導くだけなんだ。

 因果律っていうのは、因果応報。原因があって、それにふさわしい報い、結果が起きるっていうそれだけなんだよ。

 たとえば、家で寝てたらいきなり見知らぬ石油王が遺産をくれる、とかは因果律の道が全く成り立っていないから、起きようが無いってこと。

 頑張ってたら頑張った分だけ、そのご褒美がある……その流れの手助けをしてるだけなんだ。

 だからみなさんにいい事がおきたっていうんなら、それはみなさんが頑張ったから、行動したからなんだよ」


『なるほど』

『納得』

『そう言われると確かに』

『ラッキーなことがあってもそれが当たり前だと思わないようにします』

『俺たちが頑張ったから幸運があるとか、ほめ過ぎじゃない』

『千百合ちゃん女神か』

『女神では?』

『女神だね』

『女神』

『女神』


「あ、あはは、そこまで褒められると恥ずかしいなあ」


 千百合が照れている。


「幸運は自分の行動の結果……か。

 今俺がこうしているのも、地道に頑張って来たから、千百合やリスナーのみなさんと会えた……ってことなんでしょうかね」


『それはそう』

『フェイク扱いされ続けてたのによく耐えたよキチク』

『俺なら心折れて配信やめてたわ』

『キチクはすごいよ、本当に』

『ほんとそれ』

『俺も頑張ろうって思える』


 俺はしみじみと言う。


「……なんか照れますね。でも本当にありがたいと思ってます。俺、自分の力なんて全然ないのに、ここまでこれたのは、応援してくれる皆さんがいたからだと思います。

 本当に、ありがとうございます」


『こちらこそ!』

『お礼を言うのはこっちの方です』

『俺も』

『ちょっと待って力が無い?』

『いちおうスキル無しの不適格者だから(震え声)』

『お前のような無力がいるか』

『こいつ謙遜じゃなくて本気で自分がダメと思ってるからな』

『まあ自称っていうより協会から不適格者の烙印押されてるからしゃーない』

『ダンジョンに潜ってもスキルもステータスも無く不適格者と呼ばれ、配信してもずっとチャンネル登録無しで不人気数年、これじゃ自己評価最低にもなるだろ』

『みんな見る目なかったんだな』

『いやこいつ過去動画でドラゴンをびりっと破いてたぞ、フェイク扱いされるわリアリティが息して無い』

『ん?』

『びりっと?』

『ちょっと待って日本語で』

『擬音がおかしい』

『ドラゴンを倒すのにそのオノマトペおかしいぞ』

『破くってなんだ』


「ああ……あれレッサードラゴンでしたし、大鰐とか化け蛇みたいなもんでしょ」


『ん?』

『は?』

『えっ』

『は?』

『えっ』

『は?????』


「え?」

「ん?」

「はえ?」


 みんな疑問符を浮かべる。うーんどうにも何かズレているようだ。

 ここは妖怪退治の基本をひとつ説明しておこう。


「鰐って噛む力は強いけど、開く力は弱いんですよ、口。

 だから口を押えれば簡単に倒せますよ」


 俺は手で表現して説明する。

 ぐいっと抑えて、そこから一気に引っ張るのだ。


『そういう話じゃない』

『違う』

『ええ……』

『何言ってるかわからない』


「ええ……」


 どうやら遠野の常識は通用しないようだ。

 都会と田舎の壁を感じる。


「こほん。ともあれ……そろそろ時間ですし、行きますか」


『ん?』

『どこへ?』


「さっき言ったでしょう。マヨイガダンジョンを一般開放すると。

 マヨイガもね、みんなに見て欲しがってます。

 全力でもてなすぞって。

 そのお披露目です」


 移動して、俺はマヨイガの扉を開き、階段を降りる。


 そこには……


 巨大な歯車や水車が回り、そこを潜り抜けていかねば進めない部屋。

 まさしく、アトラクションのような感じだった。


『なにこれ』

『S〇SUKE?』

『風雲た〇し城かwww』

『和風アスレチック……』

『えっなにこれ』

『マヨイガが用意したの?』

『すげえ』


 コメント欄は驚きでいっぱいだ。


「あはは。びっくりしました? まあこんなかんじで、このダンジョンにはいろんな仕掛けが用意されています。それを突破しながら進んでください。

 ちなみにどんな仕掛けがあるのか、俺も知らないし、それに……週替わり、下手したら日替わりで変わっていくそうです、仕掛け」


『おお』

『面白そう』

『わくわく』

『マジか』

『攻略情報作っても役に立たねえwwwww』

『楽しそう』

『ギミック全部把握するのは無理ゲーか』

『初見で突破出来る奴いるんだろうか』

『がんばろ』

『いやあこれはきついんじゃ』


「さて……それじゃ、早速俺が、今度はゆっくりじっくりと探索に挑戦してみますか」


 そう言って、俺は一歩踏み出す。


 そして……


「…………あっ」


 床のスイッチを押してしまい、爆発が起きる。


「あぁあああ!!??」


『おいwww』

『大丈夫かキチク!!』

『ドジっ子か』

『しっかりしろよ』


「ううう……だ、だいじょうぶ……派手だけど殺傷力の無い子供だましの罠みたいです」


 空気圧の衝撃で小麦粉を盛大にまき散らすタイプの爆発だった。


 周囲が真っ白だ。


『コントかwwwwww』

『これがマヨイガの本気……』

『そんな……全力で遊びに来てやがる』

『俺も行きてえええええええええ』

『俺も行く』

『俺も』


「マヨイガが言ってるよー。前回のは自分じゃない、あれが本気だと思ってもらっては困るって」


 千百合が言う。なるほどね。


「……ふう」


 俺は小麦粉をぬぐい、気を引き締める。


「相手にとって不足なし、って事だな。ここからは俺も本気でいかせてもらう!」


 そう。


「俺たちの探索は……始まったばかりだ!! うおおおおお!!!」




 かちり。


「あっ」

「あ」

「あっ」


 次の瞬間。


 横の壁が開いて、鉄砲水が流れてきた。


「うわあああああああああああああああ………………」



 そして俺たちは流される。


 俺たちの探索は、始まったばかりである。





 どんとはれ。


  第一章 座敷わらしとマヨイガダンジョン 編

           ~完~

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