第15話 ダンジョンの活用法

「初めまして、私は東雲西瓜と申します」


「あ、どうも、菊池修吾と言います」

「ようこそ、全日本ダンジョン探索者協会へ。歓迎しますよ、キチク様」

「……」


 俺が連れていかれたのは、都内にある高層ビルだった。


 そこにあった応接室で、俺はスーツを着た女性と対面する。

 まだ若く、成人はしているのだろうけど、俺とそう変わらなく見える。

 ショートヘアーで、眼鏡のいかにもキャリアウーマンといったかんじだった。あと、胸がでかい。背も低く童顔なのにその巨乳はいっそ武器だった。


「さて、まずは先日のダンジョン攻略、誠におめでとうございます。

 未発見未踏ダンジョンの初攻略は実に素晴らしい功績です。

 そして……配信で拝見せていただいてましたが、あのダンジョン……」

「マヨイガですね」

「はい、単刀直入にお聞きいたしますが、妖怪だって本当ですか?

 現実には存在しない、どこにも無い、そしてどこにでも現れる家……」

「どこにでも、はどうでしょう。東北、岩手の伝承ですからね。ああいうのって土地に根差したものですから。

 ええ、マヨイガって物理的に地図上に存在してるわけではないんですよ。迷わせる家であり、迷う家、それがマヨイガですから」


一種の浄土、隠れ里だ。


「となると……元々の土地の所有者は、いないと」

「そうなりますね」

「では土地権利者とお話しして、地上げ……もとい、譲っていただく面倒は省けるわけですね」


 いまさらっと怖い事言ったな。


「となると、第一攻略者であるキチク様に、ダンジョンの権利があるわけですね」

「権利というのは……?」

「ダンジョンの地主と第一攻略者が持つ権利であり、要するに場所の使用料を徴収したり、またダンジョンの探索者を選ぶ権利もあります。普通の建物の権利者とだいたい同じと思っていただければかまいません。

 もちろん、財産でありますので、税金も発生します」

「俺、未成年ですよ」

「ですね。しかしダンジョンから得られる資源などのマージンなど、権利所有者の権益は大きなものですので、税理士などを雇えば問題ないかと思われます」

「……面倒だなあ」

「はい。ですので面倒を嫌って、国に権利を譲渡する攻略者様も多いのです。

 探索者なら探索に集中したいと言う方も多いし、第一攻略を成し遂げる方々はすでに探索で稼いで金に困らない方も多いですから。

 なので現在我が国にあるダンジョンの七割以上が国営ですね。二割が企業、一割が個人所有です」


 なるほど。まあこういうのは売るのが一番なんだろう。


 ……マヨイガでさえなければ。


「マヨイガは、意思を持つ家、妖怪です。確かに俺が第一攻略者ですけど……権利なんて無いと思います。それはあくまでも、人間が決めた物差しですから」


 マヨイガは妖怪であり、怪異であり、そして……神だ。

 人間が勝手にどうこうできるものじゃないだろう。


「はい、我々もマヨイガについて調べさせていただきました。そういった妖怪、怪異が実在するのは驚きですが、まあダンジョンだってありますし今更ですね。

 神職の方や岩手の方にも話を聞きましたが、あれは……人間が完全管理するのは難しい、いえ不可能でしょう」

「ものわかりいいんですね。人間が攻略した以上は人間のものだ、我々が管理し支配する……とか言い出すかと思いました」

「そんなこと言い出すのは漫画やラノベの中の政府だけですよ。

 我々に出来るのは、わかる範囲で有効利用させていただく、それだけです。

 そしてそれが出来るのはおそらくキチク様だけ。我々が権利を購入、譲渡いただく事など不可能でしょうね」

「まあ、相手は神様ですからね」


 神な家と、座敷わらしと、黄泉の女だ。普通に考えて手に負えないだろう。


「それらを踏まえた上で。キチク様には何が出来るのでしょうか」


 暫定的なダンジョンマスターとして、どこまで出来るのか。


 千百合たちとも聞いたが、おそらくは……。


「ダンジョンと化したマヨイガのモンスター……妖怪が地上に出てくることの阻止、封印。

 ダンジョン入口を地上……つまりこちらの世界に固定化させる事。

 マヨイガ内部構造の変化。

 マヨイガダンジョン深層……黄泉平坂の封鎖。

 あとは……ダンジョン内部で傷ついた探索者、危険な状態の人間の強制排出、を……「お願い」することですかね」


 そう、お願いだ。マヨイガにあくまでも提案し提示し、頼むだけなのだ。

 まあ、マヨイガ本人は快く了解してくれたけど。


「聞いていた話と違いますね。モンスターの支配と操作、資源活用は出来ないわけですか。

 というかそれはいいんですが、最後の……」

「強制排出ですか。マヨイガって、人間が好きらしくて。もちろん悪党は嫌いだそうですけど、それでもなるべく死んでほしくないと。

 なので、ダンジョンの侵食が止まり、ある程度自由に出来るようになったから、「迷わせる」力を利用して、一瞬で外に追い出すことも出来るとか」

「す、すごいですね……というかそれって」

「ええ……比較的安全なダンジョン、です」


 ダンジョンが助けてくれるダンジョン。もちろん出てくる妖怪は危険で、完全に安全保障されているわけじゃないけれど。


 それでも……これはきっと世界初ではないだろうか?


「安全にモンスターのドロップ品という資源取り放題じゃないですか!」

「だから比較的安全、ですよ。事故はつきものですから。

 それに……たしかモンスターのドロップ品って、一説にはダンジョンが殺して食べた探索者のエネルギーから生まれてる、という話もあるんでしたよね」

 公式には否定されているが。いや、気分的に否定しておきたいのだろう、とネットでは言われているな。

「それがもし正しいなら、マヨイガダンジョンの発生する妖怪からはドロップアイテム取れなくなりそうですけどね」

「あ、はい。それはそうですが……すごいですよこれって。

 そしてそのマージンがキチク様に入るわけですね」


 そう。


 ダンジョンから出たアイテムは、換金できる。未成年が換金できると、それを目的に貧乏な若者が命を散らす危険が大きいと言うので未成年はドロップ品をダンジョン外に持ち出すことは禁止されているのだが……


 換金は、アイテムの価値を金銭換算し、協会が買い取る。買い取り価格は価値の五割が相場であり、三割が拾得者、二割がダンジョンの権利者に渡されるという。

 今回の場合、権利者は俺一人になる。まあ実際には千百合と山分け……となるのだろうが、座敷わらしがお金を必要とするのだろうか。


 ……するな。ゲーム機いろいろ持ってたし。あれは町に出た時に買ったり、もらったりしたものらしい。


「……大金ですね」

「はい。ですから皆、未発見のダンジョンを必死に探すわけです。

 最初に攻略してしまえば大金持ちですから」


 企業なんかはダンジョンの権利を買い取って関係者以外立ち入り禁止にして、自社で雇った探索者を使って利益独占しているところもあるらしい。


「でも、正直……妖怪ですからねえ。ドロップ品にどれだけの値が付くか。売れないものばかりかもしれませんよ。

 新鮮な河童肉は売れるかもですけど」

「……やっぱり食べるんですか」

「美味しいですよ。鍋にしても」

「すっぽんじゃないんですから。まあそれはいいですけど……そこは調査次第ですね。我々からも調査チーム派遣させていただきます」

「はい、それはいいですけど……ただひとつ、いやふたつ注意点が」

「なんでしょう」

「マヨイガそのものには行けません。あくまでも偶然、あるいはマヨイガの意思で人前に現れる家なので。

 ただ、下層を突破して攻略したら、道がマヨイガに繋がるということです」


 俺は説明する。


 マヨイガにはマヨイガのルールがあり、そこは変えられない。

 しかし逆に言えば、ダンジョンさえクリアすればだれでもマヨイガにいけるということだ。これはすごいことだ。


 そして、もうひとつ……。

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