第14話 全日本ダンジョン探索者協会

「こ、こんばんわー。菊池修吾です。ふたたびマヨイガから配信してますっ」


 俺は機材を立ち上げ、配信を開始する。


『おっキタキタ』

『待ってた』

『待ってた』

『おっす』

『待ってた』

『おっす』

『待ってた』


 コメント欄を見てほっと一息つく。三日ぶりだが、みんなちゃんと待っていてくれたらしい。


 同接は……三千人?


 いきなり凄い。

 やはり夢じゃないよな、これ。

 どんどん増えている。


「本当は昨日も配信したかったんですが、とても忙しくて……。

 実家に帰って叱られて、その後役所から呼び出しとかあってもう大変でした」


『だろうね』

『知ってた』

『テレビで見たぞキチク』

『え、マジで?』

『ニュースになってる』

『やっぱダンジョンマスターってすごいな』

『めっちゃ切り抜き動画もバズってた』

『チャンネル登録数もすごい増えてる』

『キチクが有名になって俺も鼻が高いよ』

『古参気取りキタ』


「あはは……」


 苦笑いしか出ない。

 どうでもいいけど俺の呼び方がキチクで決まっているのは抗議したいけど、しても無駄なんだろうなあ。


「さて、今日はですね。

 先日のお礼と、あれからあったことの説明報告、これからについて、そして雑談しようと思ってます。

 あ、雑談の時は千百合とシコメもちゃんと参加します。

 ぶっちゃけみなさんの目当ての大半は彼女らでしょうし」


『当たり前だ』

『いや最初はそうだったけどお前の戦いにも魅せられたぞキチク』

『強い奴が戦うのは見てて気持ちいい』

『強すぎて引くけどな』

『でも戦いは楽しかったぞ!』

『千百合ちゃんとシコメちゃんの絡みをもっと見たい……』

『確かにきっかけは座敷わらしだったけどそれだけで一日でこうはならない』

『かわいいは正義だけどかわいいだけでチャンネル登録20万行くほど大ダンジョン時代は甘くないぞ』

『自信持てよキチク野郎』


「あ、ありがとうございます……!」


 俺は頭を下げると、カメラに向かって話す。


「今まで東京にいた時は人気マジで無かったですからね……。やってる事は変わってないんですよ、やはりきっかけって大事なんですね。

 座敷わらしの千百合と、そしてマヨイガ。このふたつの要素が無かったら本当にどうなっていたやら。

 さて、昨日はあれから、ダンジョン攻略して、無事に地上……このマヨイガ屋敷に戻ってきました。そして外にも出られるようになりました。

 それで俺は家に帰ったんですが……」




「なんだ、まだ神隠しにでもあってらったのが」


 家に帰って一番目に言われた言葉がそれだった。

 まあ遠野だしな。

 そんな反応にもなるわな。

 朝に帰ったのに女性関係を疑われないというのは、信用されすぎていて悲しい。


「いやまあ、そういうわけで、その……色々あって……」

「ふうん?」


 祖母は少し不思議そうな顔をしていたけれど、「まあいいか」と言って居間に消えていった。


「はぁ~、なんか疲れたなあ」


 俺は自室に戻り、ベッドに倒れ込む。


「明日から学校か……だりぃな」


 俺は明日からのことを考えると、憂鬱になった。

 故郷とはいえ五年も離れていたのだ。知ってる人間がどれだけいるやら。それに俺には友人と呼べる人間がいない。


 ……なんでだったかな。別にコミュ障ニートというわけじゃないけど。

 そんな人間だったら配信なんてしようと思わないし。


 その時、俺のスマホが鳴った。


 誰だろう。知らない番号だ。

 取ってみると、その相手は……。


「全日本ダンジョン探索者協会……?」


 全日本ダンジョン探索者協会。通称も探索者ギルドだ。


「初めまして、私は日本ダンジョン探索者協会の東雲と申します。実は、あなたのダンジョンマスター認可についてお話させていただきたく、お電話いたしました」

「……はい??????」


 ちょっと待って。

 マヨイガの話、まだ誰にもしていないんだけど。今帰って来たばかりだし。


「配信、見せていただいてましたので」

「……あ、そうですか、それはありがとうございます」


 俺は少し恥ずかしくなって、頭を掻く。


「それで、その、ダンジョンマスターって、あの、つまりダンジョンマスターのことですよね? ダンジョンのマスターっていう」


 何を言ってるんだろう俺は。


「はい。ご存じかと思いますが、ダンジョンマスターは世界に五人しか確認されていない、稀有な存在です。

 ダンジョンマスターは、ダンジョンを支配し、意のままに操ることが出来る。

 モンスターを自在に産み出し操り、ダンジョンの構成すら作り変え、異界からの資源も自由に得ることが出来、ダンジョンから強力な魔力とスキルを与えられる……

 かもしれない、といわれています」

「かも?」

「何分、日本にはダンジョンマスターは存在せず、各国はその仔細をひた隠しにしていますので」

「まあ、そうでしょうね……」

「それで、ダンジョンマスターになったかもしれないキチク……菊池様に是非、仔細をお話しいただければと思いまして」

「今キチクって言いましたよね?」

「電波が悪いんだと思います」


 嘘だ。確かに聞こえた。


「それで、東京に来ていただけますでしょうか?」

「うーん、明日学校があるので……」

「一日ぐらい休んでも出席日数に影響ないのでは?」


 すごいこと言い出したな。


「明日、転校初日なんですけど……」

「なるほど、じゃあ学校にこちらから連絡して転校の日をずらしてもらいますね」

「……」


 すげえな。やたらグイグイ来るというか容赦ないと言うか。

 断わったら厄介な事になりそうだなあ……。


「分かりました、行きますよ。どこに行けばいいんですかね」

「ありがとうございます。では、御迎えにあがりますね」

「いや会話してください。どこにいけばいいのかと……もしもし?」


 電話は切れた。

 その直後。


「どうも」


 いきなり部屋の窓が開いて、黒服にサングラスの男性が現れた。


「うわっ!?」

「全日本ダンジョン探索者協会の者です」

「全日本ダンジョン探索者協会の者です」

「全日本ダンジョン探索者協会の者です」

「御迎えに上がりました、菊池修吾様」


 他にも廊下から黒服の人がやって来た。総勢五人だ。

 いつ家に上がって来たんだ。


「ちょ、ちょっと待ってください! 準備が……!」

「大丈夫です」


 何がだよ……!!


 しかし俺は半ば無理やり車に乗せられた。


「えっと、どこまで行くんですか……?」

「東京です」


 それは電話で聞いた。


「ご安心ください。怪しい場所ではありません。全日本ダンジョン探索者協会本部ですから」

「はあ……」


 わざわざ連呼されると不安になるのだが。


「あ、それと、菊池様は今後キチクと名乗るようにお願いします」

「え、なんでです?」

「本名での活動では支障が起きるでしょう。芸名、コードネームと思っていただければ」


 無表情で言う黒服さん。


「それにしたってもっとあるでしょう!? なんでキチクなんだよ!」

「ネットではもう菊池様はキチク呼びが固定されていますので」

「理不尽だ!」

「ネームド探索者の宿命です、キチク様」


 叫びながら、俺は東京へと連行された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る