第11話 ダンジョンコアを前に

「そ、それを壊されたら、こ、ここは……地上と繋がらなくなってしまう」

「いいことだな」


 マヨイガのダンジョン化は止まる。


「だ、だけど……そ、そうなるとだな。わ、私が地上に……出れなくなる」

「なんだ、お前地上に出てるの?」

「い、いや。出た事ない。だけど地上ってアレなんだろ、わ、私がとても綺麗でかわいい美少女でちやほやされるくそちょろい世界なんだろ、い、いきたい……」

「……」


 自己評価が肥大化してるなこいつ。

 卑屈なのか傲慢なのかどっちかにしてくれ。


「つ、連れてって。お願い、地上にいきたい! その後なら要石ぶっ壊してもいいから!」

「お前本当に責任感とかそういうの無いのな!?」

「あ、あのババアに押し付けられた仕事とか、知らない知ったこっちゃない」


 笑う豫母都志許賣。

 だけど……。


「連れてけって無理だな。法律で、ダンジョンから何かを持ち出すことは未成年の俺は無理なんだ」

「に、人間の作った法律なんて……わ、わたしには関係ないし、黙ってればいい」

「いや駄目だよ? そもそも今の会話も生配信してるから記録残ってバレるし。そもそもお前妖怪なんだからバレたら色々と大変だぞ」

「ひっ……わ、私を殺すの?」

「俺は別にそうするつもりはないけど……ヤバいハンターに見つかると狙われるだろうし、ダンジョンから出てきたモンスターだ、と思われてもやばいぞ」

「そ、そんな……せっかく我が世の春きたと思ったのに……ううう……」


 めちゃくちゃ凹み出した。

 どうしようこれ。


『流石に可哀そう』

『喋るダンジョンモンスターってレアだしいいんじゃない?妖怪だし』

『それ判断するの国では』

『出してやれよ』

『俺がかくまいたいです』


 コメント欄が豫母都志許賣の擁護に回っている。

 まあ……庇護欲は沸くだろうな。同時に嗜虐心も刺激されそうだけど。


『モンスターテイマーいたらいいんだけどな』

『テイマースキルだっけ』

『うむ。ダンジョンのモンスターは原則外に出せないけど、テイマースキル等で支配下に置けば外に出すことも出来る』

『でもキチクはスキル無しだしな』

『それな』

『じゃあ無理じゃねえか』


「うーん……いや、でも。

 テイマースキル「等」によって支配したモンスターなら、だろ」


『?』

『どういうこと?』


「いや、普通に拳っていうか? 無理矢理力づくで言う事聞かせた形にすれば大丈夫なんじゃないかなって」


 幸いにも会話可能、意思疎通出来る知性があるわけだし。

 外でモンスターが暴れるのがダメというのがこの制度の根幹なのだから。


『脳筋wwwwwwww』

『さすがスキル無しその発想はなかったwwwww』

『モンスターテイム(物理)』

『鬼畜すぎるwwwww』

『そんなんできるのお前だけや』


「いや、遠野物語の河童淵とかの話だって、悪戯した河童をこらしめて言う事聞かせてるわけだし、普通だろ」


『そう言われればそうだが』

『論理のすり替えでは?』

『やはり遠野がおかしいだけでは?(ぐるぐる)』

『もうそれでいいです』

『もうお前妖怪テイマーだわ』


 そんな俺たちに対し、豫母都志許賣は……


「そ、そそ、それでいいです、従いますので連れてってください、えへへ。く、靴舐めればいいですか」

「……」


 もうちょっとプライド持とう?


 痛々しくて泣きたくなってきた。どれだけ今まで底辺人生だったんだよ。

 いや、昨日まで底辺配信者だった俺としてはすごく共感するし同情するが、だからこそやめてほしい。もっと胸を張ろうよ。


「じゃあ、改めて……あとはダンジョンコアを破壊するだけか」


 そうすれば、マヨイガは解放される。


『ちょっと待って、マヨイガがダンジョンじゃなくなるって事は消える?』

『もったいなくない?』

『確かにもったいない』

『ダンジョン消すのって罪にならなかった?』

『ならない。権利は最初の攻略者にあるからな』


 ダンジョンは本来誰のものでもない。

 しかししいて言うならば、ダンジョン入口が現れた土地の所有者のものであり、そして最初に攻略した探索者のものである……となる。


 ダンジョンコアを破壊したなら、ダンジョンは消える。ダンジョンによって違いはあり、ゆっくりと朽ちていくものもあれば、盛大にその時点で倒壊していくダンジョンもあるという。


 だが、ダンジョンは危険であると同時に、莫大な資源と富を生み出す。

 それゆえに、探索者はダンジョンを攻めるのだ。


 もし未踏未掘のダンジョンを見つけてそれを最初に攻略して自分のものにすれば莫大な富が手に入る。ダンジョンの権利をそのまま国に売ってもいい。それで一気に大富豪になった探索者もいる。


 しかし俺の目的は、マヨイガを開放することだ。


 そのためには、ダンジョンコアを破壊するしか……。


「いやまあ、いち探索者としては確かにもったいないとも思うのは事実なんですが」


 必死に一直線で突破してきたけど、でもこういう入り組んだ和風秘密基地みたいなダンジョンは初めてだったし。


『確かに』

『俺も挑んでみたい』

『マヨイガダンジョン探索したい』

『キチクだけが探索して終わりとかもったいなさすぎる』

『アーカイブみて文句言う奴絶対出てくる』

『国ブチキレ案件では』


 俺の言葉に、リスナーたちも賛同する。

 リスナーにもダンジョン探索者はいるし、興味を持ってる人も多いのだろう。


 さて、どうしたものか……。


「え、えっと……いいですか」


 悩んでいた俺たちに、豫母都志許賣がおずおずと口を開いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る