第12話 ダンジョンマスター

「ち、地上のその建物……マヨイガ? が迷宮になってるのは、黄泉平坂に繋がって、黄泉の……異界の力が流れ込んで、お、おかしくなってるからだと思うんで……」

「まあそうだな」


 ダンジョンは異界からの侵食だと言われている。

 ファンタジーでしかなかったモンスターたちがダンジョンにいるのが何よりの証左である、だとか。

 まあ妖怪がいるんだから、海外にはモンスター普通にいそうだけどな。


「か、要石を壊せば、侵食は確かに、止まる。だけど要石を支配しても、まあ……に、似たような結果になるかと、ふひひ」

「……なるほど。要するに普通に攻略しても大丈夫なのか?」


 ボスモンスターを倒し、ダンジョンコアに名前を記す。第一攻略者として名を刻む事で、権利が得られるとは聞くが……しかしそれはダンジョンを自在に出来るということではない。

 あくまで記されるのと、権利を国や他の探索者に主張できるだけだったはずだが。


「……うん、それでも大丈夫だと思う」


 千百合が言う。


「マヨイガはダンジョン化に抵抗してる、それは異界……今回の場合は黄泉だって判明したけど、その力が強いからだね。

 その力を封印しコントロール出来るなら大丈夫だと思う。

 あれだね、つまり……ダンジョンマスターになるって事だよ」

「……ダンジョンマスター……か」


 ダンジョンマスター。それは伝説の存在だ。


 ダンジョン初攻略をソロで成し遂げた上で、ダンジョンコアを支配し操る魔力、知識、スキルを兼ね備えていなければならない。

 ダンジョンマスターはダンジョンを支配し、モンスターすら自在に操れると言う。


 故に伝説。


 この国に実在するかもわからず、仮に実在したとしても危険すぎて命を狙われるとすら言われている。

 俺には無理だろう。


「そもそも俺にはそんなスキルもステータスも無いし……」

「ちっちっち、忘れてるよシュウゴ。

 マヨイガは、意思を持つ不思議な家だよ。そしてここには幸運をもたらす座敷わらしもいる。あと、元々黄泉の住人だった豫母都志許賣もいるじゃん」

「というと?」

「君にだけダンジョンマスターをさせるって事じゃない。ダンジョンマスターはマヨイガ本人、そしてボクたちさ。

 シュウゴは名義貸し? みたいな、とにかくそれっぽくどーんと構えたら、あとは何とかなるよ」

「そ、そういうものなのか。しかしそれなら、マヨイガは危険なダンジョンにならず、かつ自由に出入りできるダンジョンとしては存続できる……ということなのか」

「そういうことだね」


 千百合が言う。そういうことなら……大丈夫なのだろうか。


『え、ちょっと待ってもしかしてダンジョンマスター誕生の瞬間?』

『ありえなくね歴史的だぞ』

『国動くレベル』

『いやダンジョンマスターもどきでは?』

『不適格者だし無理だろ』

『話聞いてたか、マヨイガくんと千百合ちゃんとシコシコちゃんがダンジョンマスターの業務肩代わり』

『シコシコ言うな』

『どっちにしろ凄い出来事……リアタイできて感激』

『えっと岩手に行けばマヨイガ挑戦できるん?』

『いや、国が黙ってないだろ』

『そもそも資格あるのか?』

『うわあああああ』

『おい落ち着けよ』

『やっぱ無理じゃねえかな』

『マヨイガダンジョン攻略とか無理だろ』


 コメント欄が盛り上がっている。

 俺も不安だ。俺がダンジョンマスターなんて。

 ただの不適格者だからな。


 しかしそれでも……いち探索者として、マヨイガのダンジョンは残せるなら残しておきたい。


「俺、思いましたからね」


 俺はリスナーたちにいう。


「みなさんもマヨイガダンジョン行きたいって言ってたように、本当にもったいないって。もしここが、普通のダンジョンとしてみんなが挑戦出来たら……。

 いや、マヨイガが、マヨイガとして、ダンジョンとしてみんなを楽しませることが出来たら……それは」


 とても素晴らしい事なんではないだろうか、と。


「あくまで理想論ではありますけどね。元々、マヨイガって人を惑わして、もてなす家だから。人を傷つけるダンジョンとは相反する存在なのはわかってる。だけど、うーん……」


 なんといえばいいのだろう。


 そう思っていた時、千百合が言う。


「マヨイガもね、やきもち焼いてたよ」

「やきもち?」

「ダンジョン化してた自分自身にやきもきしてたっていうか。

『もし自分が自由に動けたらここはこうする、そこは違う、もっとこうやって……』

 って感じで」

「あー」


 なんとなくわかる。


「そっか。マヨイガもやっぱり……俺と、いや……俺たちと」

「うん、遊びたいんだよ」


『俺も!』

『突撃したい』

『ダンジョンっていうよりテーマパーク?』

『もしかして安全なダンジョン来る?』

『意思もったダンジョンとか天然記念物もの』

『行く価値しかない』


「じゃあ、決まりだな。

 ダンジョンコアは破壊しない。俺は……未熟で不適格者だけど、それでも……このマヨイガのために、そしてみんなのために……」



 そして俺は、ダンジョンコアである水晶に……手をかざした。


「ダンジョンマスターになる」



 その日、マヨイガダンジョンは攻略された。



 しかし俺は理解していなかったのだ。


 結局の所、俺はずっと底辺の零細配信者でしかなかった。

 未発見未踏のダンジョンを世に知らしめ、そしてその日に攻略した事。

 ダンジョンマスターになるということ。


 そしてそれを、バズった勢いでうかつにも生配信してしまっていたこと。

 それがどんな事になるかを、理解していなかったのだ。



 同接数は、十万を突破していた。

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