第8話 【深層】死霊の群れたち
『二時間かからず深層とかwwwwww』
『わかってたけどおかしい』
『このペースで探索できるのなら、攻略目前』
『千百合ちゃん撮影だけで解説とアシスタントだし、ほぼソロ』
『遠野人つええええええ』
ついに深層だ。
コメントも盛り上がってきた。
『遠野人ってなんなの』
『マジで妖怪食ってそう』
『妖怪の天敵じゃん』
今回の配信でみんな喜んでくれてるのはいい。
だけど遠野に対する誤解、風評被害が強まっている気がする。なんでこうなるのだろう。
そこはここを脱出した後の雑談配信とかでしっかりと誤解をといておく必要がある。
俺が特に強いわけでも、遠野がおかしいわけでもなく、妖怪はちゃんと見極めて適切な対処をすれば結構簡単にやっつけられるものだって。
あと食べられる妖怪しか食べないということも。
「さて、というわけでマヨイガダンジョン、深層ですが……」
相変わらずの入り組んだ和風邸宅の中だ。だが、空気は冷たく淀み、建物も所々が痛み、腐り落ちたりしている。
まるで廃墟だ。
周囲を見回す。そこには、無数の亡骸が転がっていた。
『死体だらけやん』
『地獄かな?』
『先に入った探索者?』
『今までマヨイガで迷った……』
「いや……ダンジョンであるなら、ここで死んだ探索者達の遺体は消えるはず」
ダンジョンは人を喰らう。
モンスターが生息し、魔石やその他様々な宝物があるのは、それを餌として人を呼び込み、その中で死んだ人間を喰らって力にするからだという。
「マヨイガは、そんな食虫植物みたいな邪悪なものじゃないよ」
千百合がぼそっと言う。その通りだ。
だから俺たちはマヨイガを元に戻すために、攻略に挑むわけだ。
そんな千百合に、リスナーたちがコメントをする。
『知ってる』
『わかってる』
『ググってみたけど確かにマヨイガに人を殺すって伝承無いしな』
『俺たちはちゃんとわかってるから』
リスナーたちも賛同してくれる。みんなわかってくれてるんだな。
「うん……みんなありがと」
千百合が目じりに浮かんだ涙をぬぐいながら笑った。
『ホアアアアアアアアアア!!!!!』
『ダイヤモンドの涙!』
『尊い』
『千百合ちゃんかわええんじゃ~』
『かわいい』
『かわいい』
『千百合ちゃん可愛い』
『千百合ちゃんかわいい』
『千百合ちゃん好き』
『千百合ちゃんprpr』
『千百合ちゃんは俺の嫁』
『千百合ちゃんhshs』
……。
うんわかってた。お前らのそういう所嫌いじゃないよ。
ただちょっとさみしいだけだ。
『じゃあこの死体は?』
『死体じゃないとか』
「おそらくそれが正解だと思います」
俺は畳に転がっているそれらを見て言う。
そう、きっとこれは……
「! 来たよ!」
千百合が叫ぶ。死体たちが飛び跳ね、起き上がってきた。
「餓鬼だ!」
「骸骨もいる!」
ようするに、死霊系の妖怪ということだ。
餓鬼。子供、という意味ではなく、餓えた鬼。餓死して浮かばれぬ者たちが化けて出る妖怪だ。
骸骨。まあ、そのまんま動く骨。
「死んでいる、ということは……」
『いうことは?』
『手が出ない?』
「まあ肉体はあるから大丈夫でしょうね」
ゾンビ映画とかだと定番だ。体がある死者はぶっ壊せば動かなくなる。
ましてや、こういう連中は動きが鈍いし。
「行きます!」
俺は畳を踏み砕いて走る。まずは一番近くにいた、餓鬼に拳を叩き込んだ。
「ゴボァ!?」
それは一発で吹っ飛んだ。
やはり脆い。餓鬼って食っても食っても飢えたままだというからな、そりゃ弱いか。
「ゴガァ!!」
続いて襲いかかってきた餓鬼を蹴飛ばす。
「ゴァァ!!」
それでその体は粉々になった。
「ほっ、ふっ、はっ、やっ!」
次々と襲いかかってくる餓鬼や骸骨を殴っていく。
「ゴァァァ!!」
最後の一匹が飛びかかって来たのを、俺は手で受け止めた。
「ゴブッ!?」
「まあこんなもんですかね」
そのまま握り潰す。
『一発で全滅とかさせてない事にびっくり』
『足を踏みしめたら全員吹き飛んだりするかと』
『手加減してるんじゃね?』
『いや、あいつなら余裕だろ』
『普通に雑魚だっただけ』
俺を何だと……いややめておこう。
「……まだいるな」
障子が開いていく。
その向こうから、鎧を着た骸骨の群れが。
ざっと100匹は超えているだろうか。
流石に多いな……こうなったら。
俺は部屋の襖を外す。たくさんあるから困りそうにない。
「何してるの?」
「見ての通りだよ、手伝ってくれ」
「あ、うん……」
俺は取り外した襖を持って構える。
そして……
「ふんっ!!」
横にして投げる。襖が回転しながら飛んでいき、周囲の敵をなぎ倒した。
『投げワロタwwwwwww』
『何やってんのwwwwww』
『脳筋プレイキタコレ!』
「これくらいしないとキリがないですからね、数の暴力って危険なんです!
……千百合、次!」
「あ、うん」
千百合は襖を外して俺に渡してくれる。俺はそれを次々と投げる。
「ゴァァァァ!!」
「グギャァァァ!!」
「ゴァァァァ!!」
次々に薙ぎ倒していく。
「ゴァァァァァァ!!!」
「うおっ」
一際大きな叫び声が聞こえたと思った瞬間、何かが俺に飛びかかってきた。
咄嵯に身を屈め、回避する。だが、畳に叩きつけられたそれは、俺に覆いかぶさるように倒れてきた。
「こいつ……」
巨大な餓鬼だ。他の奴と比べても明らかに大きい。
「でかいな……!」
「ああ、それは大餓鬼だね」
千百合が解説する。
「そのまんま!」
俺は大餓鬼を押しのけて立ち上がると、その巨体に向き直る。
「グォルゥウ」
大餓鬼は、まるで威嚇するように、低く喉を鳴らした。
「ゴォオオオオッッ!!!」
凄まじい雄たけびと共に、大餓鬼は向かってくる。その腕を振り上げた。
「おおぉっ!」
俺はそれを、あえて受ける。
その衝撃を逃さず、全身で受け流す。
「だっしゃぁあ!」
そのまま、カウンターの蹴りを入れた。
「ゴアアアッ!?」
その体が宙に浮かぶ。
「ふんっ!」
俺はジャンプすると、空中でその体をキャッチした。
「グゲェエエッ!」
「あばよ」
そのまま地面にたたきつける。
「ゴッ」
「ゴバッ!」
「ゴバァ!」
周囲にいた餓鬼達を巻き込んで、吹き飛ぶ。
……これで一掃できたか。
「よし」
俺は部屋を見渡す。もう動くものは見当たらない。
「やったね、お疲れ様」
千百合がねぎらいの言葉をかけてくれる。
「まあ、この程度ならなんとか。さあ、行こう」
そして俺たちは進んでいく。
餓鬼や骸骨たちの他にも、鬼火や幽霊も出たが特に問題は無かった。
鬼火は吹き消せばいいし、幽霊なんて「幽かな霊」と書く文字通り、実体も力も無い奴らだからスルーしてれば問題ないし。
そして俺たちは進み、降りていく。
やがて――。
引き戸を開けると、そこは。
巨大な空間になっていた。
じめっと濡れた空気。零度以下にも思える、怖気を誘う冷気が満ちていた。
そして。
「……いるよ」
「ああ」
闇の奥から、白い巨体がゆっくりと現れる。
それは、全長十数メートルをゆうに超える……巨大な白骨だった。
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