第4話 マヨイガダンジョン、突入。

「さて、初めましての方は初めまして。常連の方はこんにちは……って常連なんてたぶんおそらくいない零細配信者ですけどね! どうも菊池修吾です!」


 自虐と共に配信が始まった。


『こんにちはー』

『何のゲームやるの?』

『誰?』

『チェンジ』

『千百合たんは?』

『座敷わらし出して』


 ……。


 心がヘシ折れそうになる。

 いや、負けないぞ。俺は遠野の人間だもの。


「ボクもちゃんといるよー」


 横から千百合が顔を出した。


『ホアアアアアア!千百合たんキタアアア!!!』

『わ ら し 降 臨』

『待ってた』

『この子見に来た』

『推しオバケ』


 一気にコメント欄が沸きあがる。

 お前らわかりやすすぎ。


「あはは、みんなありがとー」


 千百合が照れくさそうに手を振る。


「……えーっと、千百合は俺の相棒なので一緒に配信します」

「よろしくね」


『どういう関係?』

『まさか恋人とか』

『許さんぞてめえ』

『通報しました』

『ロリコン死すべし慈悲は無い』

『ドーモロリコンスレイヤーデス』

『警察です』

『おまわりさんこっちです』

『おさわりまんこっちです』

『ロリコンのキチク修吾でしたっけ』


「違うよ!? 昨日のアーカイブ見たらわかると思うけど、道に迷った俺を助けてくれたのがこの千百合でね」


『知ってたwwwww』

『わかってるけどそれはそれこれはこれ』

『俺もマヨイガ行きたい』


 こいつら……。

 しかしアーカイブも見てくれてるのなら、話は早い。


「俺は千百合から聞いたんだけど、このマヨイガは本当は迷った人の前に現れて、招いてもてなして時々からかって遊んで、そして無事に返すという不思議な家なんです。

 だけど、十年前のダンジョン事変で、それが変わった。

 マヨイガはダンジョンに侵食され、大部分はダンジョンとなって、迷い込んだ人を取り込んで逃がさない、「攻略しないと出られないダンジョン」になったんです」


 俺の言葉に、コメント欄は静まり返る。

 しかしそれも一瞬だった。


『ちょっと待って初耳』

『マジなら洒落になってない』

『国に連絡した方がよくない?』

『それ立ち入り禁止指定ダンジョンじゃん』

『初めて見た』

『流石にネタでしょ?』


 コメントが爆速で流れる。みんな騒いでいる。


「ホントだよ」


 千百合が言う。その口調は真剣だ。


「ボクも十年前までは町に出て遊んだりしてたけど、もうマヨイガから出られなくなったんだ。幸いにも危険な妖怪はボクが住んでる部屋には出てこないけど、でもそれも……マヨイガがダンジョン化に抵抗してるからなんだよ。

 たぶんあと少し……数年もしたら、もう完全にダンジョンになってしまうかもしれない」


『マジか』

『それやばい』

『どうすんのそれ』

『すぐ逃げて』

『でもどうやって?』

『通報するしかない、プロに頼もう』


「うん……それで、このままだと、マヨイガは人を襲って殺してしまうダンジョンになってしまう。だから……それを阻止して、元に戻すために、俺と千百合はこのマヨイガの攻略に乗り出す事にした」


 ……。

 一瞬の間。


『マジか』

『やめたほうがいい』

『がんばれ』

『いや洒落になってないぞ、普通に立ち入り禁止指定だろそのダンジョン』

『俺も探索者だし助けに行こうか?』

『岩手遠い』

『アーカイブ見たけどお前不適格者だろ絶対やめとけ自殺か』

『えっ不適格者なの』


「ああ、俺はダンジョンに入っても、ステータスも伸びないしスキルも得られないダンジョン不適格者です。

 だけどだからといって、このままにしとおくわけにはいかない」


『自殺志願者wwwww』

『自分を英雄と勘違いしてる?』

『ピンチにスキル覚醒とか無いぞ、現実見ろ頼むから』

『自殺配信とかやめて』

『国にに通報したんで助け待ってて』

『マジなら場所教えて、助けに行くから』


「いや、それは……ありがとう。だけど……それは、出来ない」


 俺はリスナーたちに言う。

 その心配は本当にありがたい。

 ……だけど。


「俺がマヨイガに来たのも偶然というか事故で、マヨイガ本人は今はとにかく人を巻き込みたくない、傷つけたくないって感じで人を拒んでる。

 だから助けに駆けつけてくれても無理だし、そもそもどこにあったかさえわかんないんです」

「マヨイガだからね。場所は常に変えて、彷徨ってるもん」


 千百合も補足する。


「大丈夫、安心してほしい。

 だって俺は……遠野の人間だから。

 遠野の民は、ずっと昔から……妖怪と一緒に生きてきた」


『???????』

『意味わからん』

『その理屈はおかしい』

『気が振れたか』

『やっぱりCGのヤラセ動画じゃね?』

『モンスターいても妖怪いないだろ』

『千百合ちゃん妖怪じゃん』


 コメントが湧きたつ。

 否定、半信半疑、応援、嘲笑、様々な反応だ。

 だけど……。


「ふふふっ」


 改めて……俺の配信をこれだけの人が見てくれているんだな。そう思うと勇気が湧いてくる。

 千百合に感謝だ。


 後は、無事ダンジョンを攻略して、マヨイガを開放し、配信を成功させて彼らを俺のリスナーとして取り込むんだ。



 俺と千百合は、マヨイガの奥へと進む。

 そこには、木の観音開きの扉に、何重にも鎖が巻かれていた。

 これが……マヨイガが自身に課した封印なんだろう。

 俺たちに、行くなと言っているのか。


 それとも……。


「開けてくれ」


 ……。

 マヨイガは答えない。


「頼む。お前を助けたいし、俺もここから出たいんだ。ここを出て、そして必ずまた、お前のメシを食いにまた来るから。

 だから……頼む」


 その言葉に。

 マヨイガは、扉を開けてくれた。


「……では、行きます。マヨイガダンジョン、攻略開始です」

「うん、行こう」


 そして俺と千百合は、ダンジョンと化したマヨイガへと足を踏み入れた。

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