第3話 初バズり、そして攻略の決意表明
「はあああああああああ!? な、なんだこれ……?」
俺は朝一番で絶叫した。
チャンネル登録者数18000。
同接数一万越え。
バズってやがる。
俺が寝てる間に何が起きたの!?
「……なにこれ、どういうこと?」
「ああ、シュウゴおはよう」
千百合がひょっこりと顔を出す。
「おう、おはよう……ってそうじゃなくて、これなに?」
「これって?」
「これ」
俺はスマホを千百合に見せる。
「ん?……あー、昨日の」
「なんでお前勝手に何やってんの、ていうか切り忘れてた俺が悪いけどさあ、なんでお前がちょっと出ただけでバズってんの、俺の存在価値何!?」
確かに俺は配信者として才能無いけど。
さすがにこれは凹む。
やはり女の子か。
何処にでもいそうなモブ男子より和服少女の方がバエるからかよ。ちくしょうめ全く持ってその通りです。
「まあボクって座敷わらしだし、あれだよ。幸運にもみんな見てくれた、ってヤツ」
座敷わらしは幸運と幸せを呼ぶ、って奴か。
「……」
俺はスマホでネットをエゴサしてみる。
“切り忘れ配信に現れた妖怪座敷わらし”
“座敷わらしが配信を始める”
“座敷わらしに乗っ取りを喰らったダンジョン配信者”
そんな記事が出てるんですけど。
自分の望んでた方向と別の方向でバズるととても複雑だという話はよく聞くけど、マジだな。
いや、落ち着け菊池修吾。これはチャンスかもしれないんだ。
これを機に、自分のダンジョン攻略配信で、ゲーム配信を、というか千百合を見に来たリスナーを俺に取り込めばいいんだ。
というかそうするしかない。
それが出来なければ……マジで乗っ取られ、俺のダンジョン配信チャンネルは千百合のレトロゲーム配信・雑談配信のチャンネルになってしまうだろう。
これは俺の魂の尊厳の問題である。
俺はダンジョン配信者なのだ。
「負けないからな」
「ん? うんそうだね」
しかしここで気づく。
つまり俺は……このマヨイガを攻略するしかないということか。
まあ、昨日も寝ながら考えていたことではある。
俺はこのマヨイガで一生、寝てゲームして食べて寝るだけの生活を送る気はない。
いやそれはニートからしたら夢のような環境だろうけど、あいにくと俺はニートじゃないしな。
そもそも普通に遠野の高校に転入する予定だったし。
実家は今頃どうなってるやら。いや遠野だし、なんか神隠しにあってんじゃない? で終わってそうな気もするけど。遠野だし。
「……千百合」
「ん? 何かな」
「俺は……このマヨイガダンジョンを攻略するぞ」
「うん……って、ええええええええ!?」
今度は千百合が絶叫したのだった。
「考え直そうよ」
マヨイガが出してくれた朝食を美味しくいただいた後、千百合が言う。
ちなみに献立は白米と味噌汁、納豆と海苔、焼き鮭だった。
実に美味かった。
「迷宮になったマヨイガは本当に危険なんだよ? 危険な妖怪が出てきて、本気で命を狙ってくるんだよ」
「だろうな」
俺は頷く。そういうのは東京のダンジョンで見た光景だ。
ダンジョンに現れるモンスターは、人間を敵視している。自分たちが、ダンジョンが喰う餌としか見ていないのだ。
かつて人権派というか動物愛護派というか、そういう人達がダンジョンのモンスターと共存共栄の道を探ろうと友好的に接触を試みたが、全て悲劇的な結末で終わった。
唯一の例外が、ダンジョンスキルの【モンスターテイミング】であり、それで数匹程度のモンスターならテイムして仲間に出来る。
そのモンスターはダンジョンの外に連れ出す事も許可されている。ただしちゃんと責任は負うのが条件だが。
しかしそれでも懐く程度であり、マスターとなった探索者とのテレパシー的な意思疎通はなんとなく出来ても、人間たちとの言語による意思疎通は不可能であった。
モンスターとは殺し合い、食らい合うしかない……それが鉄則である。
「だけど俺もダンジョン攻略は東京でやってきたよ。そりゃスキルもステータスも発現しなかったけど、なんとかやってきた。だったらなんとかなるさ。
それに俺は遠野の人間だ。昔っから妖怪を相手にしてきた民族の血が流れてる」
「いやでも、うーん……そりゃ遠野物語でもさ、そうだけどさ……」
「それに」
俺は懸念を口にする。
「時間、無いかもしれないんだろ」
「っ……」
千百合が黙る。
千百合が昨日言ったのだ。このマヨイガはダンジョン化に抵抗していると。
だから、かつてのマヨイガの性質を残した安全区域があり、俺に食事や寝床を提供してくれる。
だけど、もし。
その抵抗が……力尽きたらどうなる?
抵抗できなくなり、完全にダンジョンになってしまったら。
「今俺たちがここにいる、この部屋も……安全じゃなくなる。モンスターが出没し、俺たちを殺しに来る……だろう?」
「それは……そうかもしれないけど。だけど、今まで無事だったし、これからだって……」
「今日まで元気だからって、明日も生きていられるとは限らないんだよ」
ダンジョン探索者が、配信者が、あっさりとモンスターに殺されることはある。
そうでなくても、不意に病気で、不慮の事故で……そうならないとは限らない。
「メシ、美味かったよな」
「え?」
俺は言う。
このマヨイガが出してくれた食事だ。とても美味かった。
「真心がこもってた。この家、きっといい奴だろ」
「う、うん。そりゃそうだよ。何十年何百年と、ずっと遠野にいて、人と妖怪と神々を助けて、楽しませてきた家だもん」
千百合は言う。俺よりずっと長くこの家にいたんだろう。自信をもって言っている。彼女にとって自慢の相棒だろう。
だからこそ、だよ。
「だったら、このマヨイガが、人を襲うダンジョンになるのは……嫌だろう」
「……うん」
それに、このマヨイガが完全にダンジョンになってしまったら。
きっと、自分の意思で旅人の前に現れて人を飲み込み続ける最悪のダンジョンになってしまうだろう。
ダンジョンどころではない、もはや動き回る巨大なモンスターだ。探索者じゃないただの普通の人々も襲って、ダンジョンに飲み込み、モンスターがそれを殺す。
危険度S級どころじゃない災厄だ。
その危険を放ってはおけない。
「ダンジョン最深部、深層のコアを破壊したら、ダンジョンはダンジョンではなくなる。マヨイガは元のマヨイガに戻る……はずだ」
「うん……そりゃボクもそう思うけど」
「だったら、そうするしかない。それに……」
「それに?」
「その攻略を配信する。もし俺が失敗しても、その光景が残っていたら……後に続く誰かが何とかしてくれるだろ」
俺の言葉に、千百合は俺をじっと見て言う。
「……犠牲になる気?」
「なりたくねえよ? だけどさ、どっちみちここに迷い込んだ時点で俺もう詰んでるんだよ。死ぬか進むかしか残ってない、だったら進むさ。
何より……」
「何より?」
俺は一度大きく息を吸って、そして真っすぐに言う。
「俺は配信者で探索者だ。ワクワクするんだよ、正直。
前人未到のダンジョン、そこの攻略を独占配信だぜ?」
そう。
最後はそこに行きつくんだろう。
登山家に何故山に登るのかと聞くと、そこに山があるからさと答えが返ってくるように。
ダンジョン探索者というのは、そういう……イカれた奴らなんだ。
こう言った攻略しないと出られないダンジョンは、公になると封鎖される。
千載一遇のチャンスなんだ、ただの零細配信者、それもダンジョンスキルもダンジョンステータスも無い、不適格者がこんなダンジョンに挑むなんて、この機を逃したら……絶対に、二度と訪れない。
偶然ダンジョンに飲み込まれた第一発見者。これはダンジョン攻略したとしても緊急避難で致し方なく、罰せられる事は……無い。
今しかないんだ。
乗るしかない、このビッグウェーブに。
「逃がす手は無いんだよ」
その言葉に。
千百合は呆れたように、諦めたように息を吐いた。
「……やっぱり君、遠野の人だね」
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