第2話 座敷わらしのゲーム実況初配信
攻略するまで出られないダンジョン。
〇〇しないと出られない部屋、というトラップがあるが、それがダンジョンそのものだと考えてもらったらいい。
一度誰かが攻略……深層にたどり着きボスを倒して攻略すれば出られるようになり、以降【攻略済み】となれば誰が入っても自由に出られるようになるのだが、逆に言うと攻略されない限りは誰も出られない。
出られないと言う事は、そこで一生過ごすか、殺されるか、餓死ということになり、非常に危険である。
なのでそういうダンジョンは入場規制が行われ、一般人は入れなくなる。
攻略に挑めるのは、プロの一流探索者だけだ。
「つまり、俺は……ここで一生暮らすしかないということか」
「うん。まあ、マヨイガは元々、惑わすと同時にもてなす家だから、ここのマヨイガも頑張って異界の迷宮に抵抗しててね。
迷宮化したところに足を踏み入れない限り、迷う事はあっても襲われることは無いよ」
「……というと、意思がある家なのか」
「うん。元々は旅人で思いっきり遊んで……もとい。旅人と楽しく遊んでそして帰ってもらうそんな楽しい場所だったけど」
「今、旅人でって言ったよね」
「だけど迷宮化の影響で、安全地帯以外では、悪質な妖怪、魑魅魍魎が出てくるようになったんだよ。君が迷い込んだのも、本当はマヨイガは君を入れたくなかったんだけど、入っちゃったから仕方なく、ってかんじだね」
誤魔化したな。
「だけどちゃんと人間が大好きな家だからね、ご飯も出してくれるし、生きるだけなら安全な家だよ」
出られないけど。
千百合はそういって笑ったのだった。
結局、俺はここで一泊することになった。いやまあ出られないしな。
黙ってても食事は勝手に出てきた。
献立は山女魚の焼き魚、せんべい汁、ほうれん草のおひたし、白飯。
「……これ食べたら、もう二度と生者の世界に戻れなくなる、とかないよな?」
「なにヨモツヘグイの事? 無いよそれ」
ヨモツヘグイとは、死者の世界や異界の食物を生者が口にしてしまったら、二度と元の世界に戻れなくなるという伝説だ。
「ならいいけど。いただきます」
「いただきます」
食事は美味しかった。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさま」
「さて、これからどうするか」
「シュウゴはさ、ゲームとかする?」
「ん? ああ結構好きだぞ」
「なら、この家にゲーム機あるから、それやろうよ。
なんとプ〇ステ3だよ!」
「レトロだな」
「……え? 最新じゃん!」
「え?」
「え?」
……ジェネレーションギャップがすごいようだ。
まあそれでも、御手玉やめんこやおはじきじゃなくてゲーム機ってあたりは随分とハイカラな座敷わらしではあると思う。
「で、何やるんだよ」
「んー、F〇ⅩⅢかな」
「十年以上前のゲームだな……懐かしいな。よーし配信するかどうせだし」
「配信って?」
「ネットに動画上げることだよ。ほらこれが配信画面」
「おー! 凄い! こんな小さな画面に映るんだね」
そして俺はゲーム実況プレイ配信をすることにした。
こういう普通の配信は久々だ。なにしろダンジョン配信が大人気だからな。でもこういうのも気分転換になっていい。
「さーて、やるか。えーと、菊池修吾です。さてさっきもちょっと配信してましたけど、俺は遠野で遭難して、マヨイガに迷い込んでそこで座敷わらしとゲーム実況することになりました。
自分で言っててなんだこれって感じだな。まあいいか。それじゃあやっていきましょう」
◇
夜も更けてきた東京にて。
一人の少女が、なんとなしにその配信を見た。
「ん? 座敷わらしとゲーム配信……何これ? つかゲームやってないじゃん」
動画には、暗くなったテレビ画面が映っているのみ。
「配信の切り忘れかな」
そういう切り忘れで配信が続いていることは時々ある。
だいたいの場合、視聴者はそれを見つけてもすぐにその場を離れる。稀に女性配信者の切り忘れ事故によりあられもない姿が配信されてしまうこともあるし、それによるバズりを期待してわざと切り忘れを演出する配信者もいるが……。
彼女もすぐに切ろうとしたが、何故かその気になれなかった。
なんとなしに画面を見ていると……それは起きた。
『ん? えーと、これシュウゴが言ってた、ハイシンってやつ? ボクが映ってるじゃん。今のビデオカメラすごいねー、もしもし?』
和服の少女の姿が、空間からにじみ出るように、すっ……と現れたのだ。
横からカメラの視界内に映り込んだのではなく、空中にすっ……と出てきたのである。
「えっ……?」
それはいわゆる心霊現象のように見え、少女は恐怖に震えた。
だが、それ以上に……彼女は、目の前に現れた存在に見惚れてしまった。
まるで妖精のように美しい、着物姿の美少女が現れたからだ。
「きれい……」
CGだろうか、合成して作られた動画なのか?
それとも……。
少女は確かめたくなり、画面にコメントを書き込んだ。
◇
「あ、なんか誰か書き込んできた。
『こんばんわ』……って書いてるけど、これは挨拶されてるのかな? こほん。
どうも、わらわは座敷わらしの千百合じゃ」
千百合はスマホに向かって返事をする。
言葉遣いを正すのも忘れない。
『あ、返事帰って来た。これ配信なんですか?』
「うむ、そうじゃ。わらわが座敷わらしの千百合じゃ」
『うおお、マジで返事きた』
『さっきのCG?』
『着物ロリじゃんマジか』
コメントが流れていく。
同接の数字は25。千百合は知らないが、修吾にとってこの数字は珍しい。いつもスルーされているばかりだからだ。
ちなみに修吾は今、寝ている。
「うむ、わらわは座敷わらしじゃ。ふふん、凄いじゃろ?」
千百合は得意げに胸を張る。そしてコメント欄の流れる速度が速くなる。
『可愛い!』
『座敷わらしって何?』
『えっ妖怪? いやいや無いでしょそういう設定?』
『バーチャル座敷わらしか』
「いや、わらわは本物じゃよ。遠野に生きる屋敷神、由緒正しき妖怪じゃ。ここ十年、色んな所で迷宮が生まれ異界と通じて、魔物たちが出て来ておるのはわらわも知っておる。
もんすたー、と言うんじゃったか。
魔物がおることを知っているなら、妖怪がいることも理解できるじゃろ」
『確かにwww』
『正論で草』
『いやモンスターって意思疎通出来ないだろ』
『なりきりかわいいです』
「んー、どうやら理解してくれたようじゃな。ならば良し。
で、お主らは誰じゃ?」
『通りすがりのロリコンです』
『ゲーム配信と聞いて来たけど予想外の展開で面白そう』
『妖怪ってマ? 証明して』
「証明か……こうか?」
そして千百合はすっと姿を消す。
『え?』
『消えたwwww』
『CG乙』
「ほれ、これでどうじゃ」
そして再び姿を現す。
「わらわは消えることも出来るのじゃ。すごいじゃろ」
『スゲー!』
『本当に消えてるのか?』
『どうなってんだ……』
「あとはあれじゃな、ぽるたーがいすと? と人間は言っておったが……」
そうすると、画面に映っているテレビががたがたと揺れる。
テレビの上に置いていた籠と、そこに乗っていたみかんも宙に浮いた。
「このくらいなら余裕じゃな」
『うおっ!? 何これマジック?』
『魔法みたいだな』
「そうじゃな。魔法というよりは呪術とか神通力とか言った方がしっくりくるが、そんなものじゃ。わらわに備わった権能じゃな」
そしてみかんはゆっくりと机の上に降り立ち、籠はテレビの上に戻る。
「どうじゃ? わかったか?」
『すげええええええ!!』
『やっぱいるんだな、そういうの……』
『妖怪初めて見た、チャンネル登録します』
「わかってくれたか。ならよかろう」
千百合は胸を張る。
『ドヤる座敷わらしちゃん可愛いです』
『この子くそちょろい』
「むう、うるさいのう」
『あ、今のコメントに怒ってますね。可愛い』
『ごめんwwwwww』
「……別に怒っておらぬわ。わらわは長生きした大人じゃからの。そんな事より、お主らの名前を教えてくれぬか」
『名前……』
『視聴者の個人情報聞くのご法度ですよ』
「む、そうなのか? それはすまなんだ」
千百合は頭を下げる。
『素直wwwww』
『配信初めてなの?』
「うむ、そうじゃな。シュウゴから少し聞いたが、こういう配信というのは初めて見たぞ。
色々と作法があるのじゃな。教えてくれると助かる」
『おk』
『いいよ』
『任された』
『配信は全裸でやりましょう』
「うんうん……ってそれは嘘だよね流石にボクでもわかるよ!」
『ボク?』
『ボクっ娘?』
「あっ」
『え? 男の子なん?』
『男の娘キタ』
『女装似合ってますねwww』
「ちちちち違うよ、女の子だよ!」
『草』
『ボクっ娘いただきました』
『属性過多わらし』
「……もう、みんな意地悪だなあ。
とにかく、これからよろしくお願いするよ、するのじゃ」
『おけまる』
『こちらこそ』
『言い直したwwwww』
「……もういいや。じゃあみんなもいるしゲームやっていこ」
『開き直った』
『何するの?』
「そうだねえ……どれがいっかな」
千百合はゲームのディスクを漁り、選ぶ。
それら画面に映り、リスナーたちがざわめいた。
『今見えたそれもしかして?』
『プ〇ステ3じゃんwwwレトロゲーマニア』
『初めて見た』
『平成の遺物キタコレ』
『5の時代に3wwwwwww』
「レトロって言わないでよ。最新のゲーム機だよ!」
『時代錯誤……』
『ここは平成ですか』
『昭和だろjk』
「ええい! うるさーい! じゃあもうこれいくよ!」
そうして座敷わらし千百合が乗っ取った修吾のチャンネルでゲーム実況配信が続く。
この夜の同接は、最終的に一万。
修吾がそれを知るのは、翌朝になってからだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます