第2話 薫子の死刑宣告。
ログインしたマモルは、少しばかり感動している。
――す、凄い没入感だ……。
周囲には格納庫のような映像が映し出されていた。
このエリアは対戦相手が見つかるまでプレイヤーが過ごすロビーだ。
自由に動き回って武器の換装や機体の操作感を確認したりすることも出来る。
ただし、マモルが感動しているのは、現実と見紛う精緻な映像ではなかった。
――リアル手足の感覚が無いっ!
弐脚式装甲機――
――ホントの
――HIBIKI電算のアクセラレータ効果だろうねっ。
と、マモルはBCI-VRギアの性能が向上したのだと喜んでいた。
なお、原作アニメ『弐脚式装甲機 南方蛮機・
運動神経と感覚神経の一部をD-BMIがインターセプトして、機体を自由に操ることを可能としていた。
自分自身の肉体は動かせなくなってしまうが――。
「これなら反応速度がもの凄く上が――ん!?」
ロビー内に耳障りなブザー音が鳴り、薄暗かった照明が紅く明滅した。
「いつもと違うけど、変わったのかな?」
対戦相手が決まった際のエフェクトだろうとマモルは解釈したのだ。
普段ならば何もせずに待っていても強制移動となるのだが、ステージ遷移が発生しないため円形のステージリフターに飛び移った。
機械音を鳴らしリフターが上昇してゆき、左右にスライドして開いた天蓋部からは眩い照明が射し込んで――、
「「「うおおおおおおお!」」」
怒声の混じる大観衆の声が、圧倒的ボリュームでマモルの脳内に響き渡った。
――こんな演出あったっけ?
――いや、もしかしたら、オーディエンスチャットが音声変換されるようになったのかもなぁ。
対戦中の試合を、他のユーザは閲覧しチャットで感想を共有できる。
――BGMだけより盛り上がるかも!
――ん、いや――そもそもBGMが無いよね?
そんなマモルの感じた小さな違和感は、地上へ完全に姿を現した彼の
原作アニメでも何度か舞台となった浜名湖闘技場は、ローマのコロッセウムに似せた円形闘技場で天蓋部はドームに覆われ人工照明となっている。
この場所で、ヒトが操縦する二足歩行ロボット同士が戦うのだ。
向こう正面には、対戦相手となる漆黒の
全高六メートルほどの標準サイズだが、ハッチバック付きの脚部を太くして重心は低く設計されている。
「あはっ」
マモルは相手の
――
彼の言う「薫子ちゃん」とは、原作主人公と敵対する勢力の
ようは、主人公の
だが、没落した令嬢として懸命に戦う姿が人気を博しながら、非業の死を遂げたためにファンの間ではヒロインを上回る人気を誇っていた。
ゆえにゲーム内でも、彼女の乗った各機体は厚遇されており、相当の時間とリアルマネーを捧げなければ手に入らない。
――凄いなぁ。どうやってポイントを稼いだんだろ?
俄然、マモルの中で、相手プレイヤーに対する好奇心が湧き上がって来ていた。
――インフォが表示できないけど――女の子アバターなんだろうな。この人気ぶりは。
普段ならば呼び出せるシステムメニューが網膜に照射されないため、現在のマモルはゲームのメタ機能が全く利用できない。
――あ、でもゲーム内通信は出来るのか。
プレイヤーとしてのメタコミュニケーションは不可能だが、ゲーム内の――つまりは、弐脚式装甲機に備えられた通信機能は利用できると考えたのだ。
対戦開始まで数十秒の間に、簡単な挨拶だけでも交わすことにした。
基本的に彼は礼儀正しい男なのである。
浮かび上がった小さなウインドウに「Sound only」の文字列が点滅する。
「こんにちは、
常に本名プレイなのだ。
「お手柔らかにお願いしますね」
数舜だけ待ったが何の応答も無い。
「えと、その
数舜だけ待ったが何の応答も無い。
「
『――ちゃん?』
ようやく相手の返事が返ってきたことをマモルは素直に喜んだ。
「え? あ、うん。だって薫子ちゃん――」
だが――、
『気に入らんな』
二人の出会いは、友好的なものとならなかった。
『賊らしく、蛮機を枕に死ぬが良い』
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