§✿ 令嬢🎀独裁 ✿§

砂嶋真三

第1話 今際の言葉。

「ファシスト? 笑止、連帯ではない。伏して我に総和せよ」


 彩杜若あやかきつばた 薫子かおるこ


 ◇


 八剱やつるぎマモルは、小柄で童顔な高校二年生だった。

 

 なぜか入学時よりも身長が低くなってしまい、近頃では小学生の高学年と間違われることも多い。

 

「お~い、コナ〇」


 クラスメイトから某チビッ子探偵の名前で呼ばれているが、クヨクヨしない性格のお陰であまり気にしていなかった。

 

 あるいは、少しばかり恵まれない境遇にある彼にとって、幼過ぎる容姿など些細な問題だったのかもしれない。


「今日は剣道部も休みだし、どっか行こうぜ。あ、バイト入れてる?」 

「ゴメン、今日は早く帰るよ。じゃあね!」

 

 と、言い終えるや否や、マモルは脱兎の如く教室を立ち去った。

 

 クラスメイトの誘いを断り早く帰りたかったのは当然ながら理由がある。


 古びたアポートまでの40分を走り抜けたマモルは、玄関先の郵便受けに大判のレターパックが入っているのに気付くと嬉しそうな笑みを浮かべた。

 

「ふぅ、良かった。届いてるっ!」

 

 株式会社HIBIKI電産と記載されたレターパックを取り出し部屋に入った。

 

 紅い西日の当たるワンルームの壁には、ロボット物アニメと思しきポスターが貼られている。


 どのポスターにも、Ϝディガンマというロゴが入っていた。


「ただいま」


 諸般の事情から独りで暮らす彼には、応えてくれる家人は居ない。


 とはいえ、気にする様子もなく、マモルは省スペースのみを追求したデスク前に座ると、BCI-VRギアを頭部に装着してゲーム機の電源を起動した。


 数秒後、網膜に彼が待望するタイトルが浮かび上がる。


『弐脚式装甲機 南方蛮機・Ϝディガンマ  浜名湖闘技場∞バトル編』


 原作アニメでは敵勢力となる西日本国境近傍の闘技場で、他プレイヤーの操作するロボットと対戦するという格闘型PvPである。


 VR技術とBCI技術のブレイクスルーがゲームを根本的に変えて久しい。


 もはや、コントローラーなどの外部デバイスは不要となり、「思う」だけでVR世界の操作が可能となった。


 この思うだけで操作――というインターフェースが、ロボットを題材としたゲームの一大ムーブメントを巻き起こす。


 アバターキャラを直接操作するFPSやファンタジーRPGより、ゲーム中のマシンに乗るというシチュエーションの方が没入感を高めたのである。


 ――今日こそ十人抜きを達成して、ポイントボーナスが欲しいなぁ……。

 ――あっ! 忘れてた。


 サービスにログインしようとしたところで、苦労して手に入れたレターパックの存在を思い出す。


 BCI-VRギアのゴーグルを片方だけ上げたマモルは、レターパックを封切って中身を慎重に取り出した。


 ――これでボクの量産機だって、少しは反応が良くなるはず!


 その小さな基盤は、BCI-VRギアの操作性を向上させるアクセラレータである。


 彼はこれを手に入れるために、バイトを増やし食費を減らしたのだ。


 ギア側面にある拡張スロットに基盤を差し込むと、ハードウェアを認識したことを示すメッセージが流れドライバのインストールが始まる。


 数秒後、幾つかのワーニングメッセージは表示されていたが、最終行の「install completed」という文字列をマモルは信用した。


 何よりゲームを早く始めたかったのだろう。


八剱やつるぎマモル、行きますっ!」


 と、元気一杯にログインをした。


 なお、これが少年の現世における最後の言葉となる。

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