第5話 人間不信

終わった。

完全に終わった。

婚約破棄まっしぐらだお姉ちゃんごめんなさ

「申し訳無い⋯!」

あれ?

「やはり、私が君の婚約者になろうなど、愚かな考えだった。」

ヴィクター様は俯いてしまった。

「ヴィクター様?」

「やはり私は⋯」

「ヴィクター様、申し訳ありませんでした。」

私は頭を下げた。

平常心を忘れ、ただただ自分の考えだけを真っ向からぶつけた私にも非がある。

「本っ当に⋯」

「謝らないでくれ、私が悪かった。」

「えっ⋯?」

「私の性格が悪いから、何の罪も無い君を傷付けた。」

ヴィクター様は俯いたまま、か細い声で呟いていた。

「⋯ヴィクター様は性格が悪いのですか?」

「ああ、自覚はある。」

「私はそう思いませんけれど?」

一瞬、ヴィクター様が私を見た。

「⋯⋯何故?」

「本当に性格の悪い方は、貴方のようにすぐ謝りません。」

「⋯そうなのか?」

ヴィクター様はキョトンとした顔で私を見た。

「ええ、貴方は優しいのかも知れません。」

「そうか⋯。そんなこと、世辞でも言われたことが無かった⋯君は優しいな。」

「⋯お口、開けて下さい。」

「はっ?」

ヴィクター様が顔を上げる。

私はすかさずその口にスコーンを入れた。

「んっ⋯」

「えへへっ。」

「⋯アルノメア、口を開けろ。」

「へっ?」

ヴィクター様が私の口に入れたのは、クッキーだった。

「おいひぃ⋯!」

私は自然と笑顔になった。

「良かったな。」

「ん〜〜!しあわせぇ⋯」

「⋯ふふっ、そうかそうか⋯。」

「はいっ!すっごく美味しいです!」

「⋯可愛らしい。」

ヴィクター様はぼそりと何か呟いた。

「どうされました?」

「いや、独り言だ⋯アルノメア、君に出会えて本当に良かったよ。」

「こちらこそ。」

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