第3話

「燃えろよ燃えろ〜」


最近、黒装束の経験値係の人達が連日のようにマイハウス前まで押し寄せてくるようになりました。何処ぞの誰か?と問いかけても「大人しく着いて来い」としか返事をしないので、説明出来る人間を寄越せと言いましたら襲いかかって来ましたので全員経験値になってもらいました。それで死体処理にアナ掘りの歌とキャンプファイヤーの歌を歌いました。ついでにアンデッド防止に外なる神の聖歌を歌ったところ空間に穴が開きまして、形容し難い腕のようなものが経験値さん達の魂をお持ち帰りして行きましてね、はい。4日目にナイアラル様にバレて怒られました。対価が足りなかったら私がお持ち帰りされていたかもしれなかったほど危険な状態だったらしいです。つまり、見合う対価が支払えそうなら歌っても大丈夫ってことですね。分かりました。


とりあえず、今回は般若心経デスメタルバージョンで経験値さん達の魂を散らします。あら?悪魔閣下風メイクのお釈迦様が経験値さんの魂を串刺しにしていますね。あの世でBBQなさるのかしら?


「ふぅー、初めてのデスボイスは喉が辛いですね。ナイアラル様印の飴ちゃんでケアしましょそうしましょう。」


私、前世は安価な飴ちゃんばかり舐めていたので貧乏舌になっていたと思いましたがナイアラル様の飴ちゃんは毎回素晴らしいですね。少し痛めた喉も飴ちゃん舐めてるとあら不思議治っているんですよ。ついでに疲労感も無くなってますので連戦連戦の日は助かっています。


さて、そろそろマイハウス設置場所の引越しをしませんとね。私育ち盛りなのに、連日の戦闘で魔物食肉が怖がっちゃって寄ってこなくなって困ってます。だから、その為に移動しなくてはいけません。街道を歩いていれば経験値と物資が手に入りますので、まずは街道を目指しましょう。新鮮なお野菜もあれば最高ですね。




「そこの子供、やめたまえ!」


私が街道をテクテク歩いていたところに、盗賊とど腐れ商人の混合コンビに出くわし見事に殲滅。戦利品の物色をしていたところ、ハスキーボイスに声をかけられました。物色を一時中断して、声の主を確認したところ茶色の馬に騎乗した全身鎧の性別不明の人でした。何やら奥の方にも団体さんがいらっしゃるようで、声をかけてきた鎧さんは事情を調べにいらっしゃった感じですかね?


今度こそまともな現地人であれば良いんですがね。孤児院の院長先生は蒸発してしまいましたが、比較的まともな現地人でした。虐待などされませんでしたし、蒸発するまでは私をごみ溜めから拾って名付けをして5歳まで育ててくれましたから。蒸発してしまいましたが、元気で過ごされておられると私は安心します。ま、領主様に捕まって処刑されてそうですがね。


「子供、これらをやったのはお前か?」

「襲われて仕方なく殲滅させてもらいました。今、勝利者としての権利で物資をちょうだいしてるところです。」

「襲われて仕方なく?勝利者としての権利?何を言ってるんだ?お前が卑劣な行為をして商人と護衛に襲いかかって盗賊行為したんだろうが!!ふざけた事を抜かすな!」


はい、この人もまともじゃない現地人でした。残念賞です。はぁー


「何をため息を吐いてる?お前、まさか自分がやった事がわかってないのか?」

「うるさいので話しかけないでください。」

「お前!!」


ハスキーボイスが全身鎧で反響されて耳がキンキン痛いです。今すぐ物言わぬ経験値に還元したいです。でも、私は何でもかんでもデストロイするような蛮族ではないので相手さんが越えてはいけないライン・・・・・・・・・・・を越えない限り何もしません。


「フラン、何を騒いでおる。貴様の声がキンキン響いてうるさいぞ。 」

「ヨーゼフさんまでうるさいって言うんですか!?」

「うるさい。興奮するな。で、何があったんだ?」

「この子供が卑劣にも商人とその護衛に襲われたから殺したと偽証したのを認めようとせずに、勝利者の権利などと言って商人の荷を物色しているんですよ!」

「うちのフランがこう言ってるが本当か?魚の坊主。」

「違いますね。盗賊とど腐れ商人が街道を1人歩いてる自分を食い物にしようと襲いかかってきたので仕方なく殲滅しました。戦利品の物色は勝利者として権利を行使したまで。それとも、無抵抗にやられていれば正解だったと?それでは、あなたがたが後ろで守ってる方が襲われてもあなたがたは抵抗しないのが正解ですか?違いますよね?」

「図に乗るなよ!子供!!」

「それがあなたがたの答えだと言うなら私は向かい撃つのみ。」


フランと呼ばれていたキンキンうるさい鎧が激高したので、こちらは腰に提げたマイウェポンちゃんの柄に手を添えて何時でも抜刀出来るように準備をします。


今日は6本ある内の1本、2歳の誕生日にナイアラル様から下賜されたプレゼント銘を『漣』さざなみという小刀を使っております。刀身は海を閉じ込めたかのように透き通った碧海が細かい波を立てさせ、見ていると心穏やかな気持ちになります。ちなみに、ナイアラル様から下賜された刀剣全て私しか持てません。他の人が持とうとしても悪意がある人は手が消失します。0歳の生誕祝いに下賜された守刀を私から奪って売り払おうとしたスラム住民と孤児院の年長さん数名と酔っ払った前院長先生は両腕が消失しました。手が消失した時にやめておけば良かったのに欲かいて両腕を使って持ち去ろうとしたため両腕の消失。悪意がなくて守刀や他の刀剣が私の物だと認識していた蒸発なさった院長先生は持ち運びは出来るけど私から離れた場所に持って行くことが出来ないのを確認してから常に私の傍に置いてくださる気遣いにいつも感謝しておりました。


さて、相手さんはどうなさるおつもりかしら?ヨーゼフと呼ばれたヒゲモジャおじさまが止めてくれれば私は何もしません。黙ってフランと呼ばれた方が私の経験値にされるのを待ってるようであるなら殲滅させてもらいましょう。1人で死ぬのは寂しいでしょう?仲間仲良く送って差し上げましょう。


「おい、フランやめろ。貴様は俺達や主を道連れに死ぬつもりか?巻き込み自殺はせめて主に類が及ばない立場になってからしてくれ。」

「は?ヨーゼフさん何を冗談言ってるのですか?私がこの卑劣な魚人の子供に殺されると?私はエーゼルハイム侯爵家に忠誠を誓った騎士ですよ?そんな私が何故死ぬと?」

「貴様、魚の坊主の力量がわからないのか?本気でわからないのか?」

「何を言ってるんですか?こんな正々堂々と複数人を相手に立ち向かうことが出来ない子供が私より強い?ははは、何を…」

「フラン、この死体を見てみろ。大した外傷がない綺麗な死体に首の中ほどまで入ってる切り傷を。しかも、正面側だ。」

「そんなのは、後ろから不意をついて卑劣な暗殺をした証拠になるじゃないですか。」

「なら、全ての死体が同じようにされている説明はどうなる?1人2人ならまだしも34名も同じ首の切り傷の死体っていくらなんでもおかしくないか?しかも、俺達が来た方向に身体を仰向けにして倒れている。魚の坊主、お前はどっち方向から来た?」

「街道に出るまでは森を歩いてましたが、街道に合流してからはあなたがたと同じ方向からこちらに差し掛かりましたよ。」

「ん?なんで森を歩いていたんだ?」

「今まで森で暮らしていましたが、来客が鬱陶しいのと魔物が寄って来ないので場所移動ですね。街は種族税と年齢税で金貨以上払わないと入れませんので。」

「もしかして、バラムの街の衛兵数人を切り捨てたのって魚の坊主か?」

「バラムとは何処か知りませんが衛兵なら何人か斬ってますね。入街料が金貨1枚と言われましたので大銀貨10枚払ったら90枚足りないと言われましてね、アホくさくなって先に払った大銀貨10枚を返してもらおうとしたら手間賃として取られてしまったので衛兵の命を対価に返して頂きました。その際に、数人の衛兵が襲いかかってきたのでついでに切り捨てました。」

「「…」」

「私は子供だからと異種族だからと食い物にしようとする人を許しません。特に人売りは絶対許しません。ですが、私は蛮族ではありません。相手が私を尊重していただけるなら武を全面には出しません。これでも、私は歌と踊りが好きなただの5歳児ですから。」

「見た目と言動がちぐはぐなところ…魚の坊主、お前転生者か?」

「そうですよ。」

「あっさりと認めるんだな?」

「誤魔化しても私が隠してないのですから必要ないでしょう?それにあなたがたを消せば良いだけですから。」

「出来れば穏便にしてほしいな。」

「それはあなたがた次第ですね。私達、転生者がどういうものかご存知でしょう?縛られることを1番に嫌います。特に私はそういう傾向が強いです。それが無理矢理奴隷に落とされたとしても神ナイアラル様が許しませんよ。あなたがたの主人が愚かでなければ良いのですがね。」

「お前!!侯爵様を愚弄するか!?不敬だぞ!!」

「ふん、たかが貴族の犬が神ナイアラル様の使徒である私に不敬だと?図に乗っているのはそちらでしょう?」

「この…!!」

「フラン、やめろと言ってるだろ!!」


ガッ、ィィィン!ヒゲモジャに兜の左頬をぶん殴られるフラン


「ぐがぁ!?」

「ヒヒィーン!?」

どしゃっ!


殴られて高音を発する鎧に驚いた馬が暴れて、フランを落馬させる。馬にふるい落とされたフランは何が起こったのかわからなくフリーズ状態。


「魚の坊主、うちの若いのを挑発するのはそこまでにしてくれ。」

「仕方ありませんね。そちらから仕掛けていただければ、こちらは気兼ねなく切り捨てれたんですがね。」

「恐ろしいことは言わないでくれよ。俺はまだ死にたくないし家族を残して死に別れしたくない。」

「お子さんはいらっしゃるんですか?」

「ん?あ、ああ、息子と娘が1人ずついるぞ。」

「そうですか。お子さん達のために命は大切にしましょうね。私は今世では親に捨てられましたので失った気持ちは前世の分しかありませんが良いものではありませんからね。」

「…わかった。なるべく死なないようにする。」

「騎士という仕事をなさってるので難しいでしょうけど。」

「確かにな。魚の坊主みたいなおっかないのに出くわすこともあるからな。」

「ふふふ、少し・・だけ強い5歳児がおっかないとは酷いことを言いますね。」

「何処が少しだけなんだ?大の大人数十人を一方的に殲滅出来る5歳児なんて聞いたことがない。魚の坊主が初めてだぞ?」

「ま、そういうことにしておきましょうか。それでは私は戦利品の回収をしたら行きますね。」

「後片付けしないのか?」

「何もないと誰も気付かないでしょ?私がいる・・・・って」

「…わかった。こちらで通行の妨げになる場合のみ退かすことにする。」

「ええ、そうしてください。」


その後、私は大量の野菜と衣類を回収してヒゲモジャさん達の先を歩み途中から森へ入ってマイハウス設置場所を探し歩いた。




sideエーゼンハイム侯爵家


ハーラン宿場町、貴族向け高級宿の一室に初老の男と跪いた髭を生やした鎧姿の騎士の2人がいた。


「ヨーゼフ、楽にせよ。」

「はい。」

「して、報告を聞こうか?何があったのだ?」

「はい、魚人族の子供の姿をした転生者と邂逅しました。」

「まことか?」

「間違いございません。話を聞くに街道を1人で歩いて移動していたところに商人とその護衛を含めた34名が件の子供に襲いかかったところを一方的に殲滅され、戦利品を物色してるところに騎士フランが話をろくに聞かずに難癖をつけてました。私が両者の間に入って行かなければ、私達全員が商人達の後を追う形になっておりました。」

「それは何故だ?」

「あの子供は自身を"蛮族ではない"と理性的に語っておりましたが、言葉の節々に好戦的な面が隠せてませんでした。終いには挑発スキルで騎士フランから仕掛けてくるように誘導しておりました。私がフランを止めたことに残念がっていました。」

「…だが、たかが転生者の子供だろう?我が騎士団が負けるとは思えないが?」

「話はこれだけではありません。件の子供はバラムの街で衛兵を数十人殺害しております。恐らく、他の街でも衛兵を殺害してるはずです。」

「それは何故だ?」

「衛兵を殺害したのにも関わらず一切感情の変化が無かったからです。アレは殺し慣れております。」

「危険だな。」

「確かに危険です。ですが、こちらから手を出さない限り安全とも言えます。あの子供は必ず相手が仕掛けてから行動に移しています。」

「ふむ」

「それとあの転生者はただの転生者ではありません。ナイアラル神の使徒・・だと名乗っていました。」

「何ぃ!?ただの加護ではなく使徒だとぉ!?まことか!?」

「間違いありません。驚くのはまだ早いです。鑑定をした結果がこちらになります。」




名前:イサナ

年齢:5

性別:男

種族:?族

Lv:??

職業:剣舞士


ユニークスキル

???、???、???、???、???、???…


スキル

???、???、???、???、???、???、???、挑発…


魔法

水魔法、海魔法、氷魔法、???、闇魔法、暗黒魔法、龍魔法


加護

創造神・・・ナイアラルの使徒

芸術の神の愛し子

戦神の寵愛




「…」


そこには、あまりにも非常識な内容が記されていた。種族が魚人族だと聞いていたが鑑定でも表示出来ないというものは基本的に混血児である証拠だ。だが、Lvが表示出来ないのは鑑定した者よりもはるかに上回る高Lvである証拠になる。


極めつけはユニークスキル、スキルの大半が表示不可なのと使用可能魔法の中にどの種族の血筋か分かる魔法が記されており、創造神ナイアラル神の使徒だけではなく芸術の神の愛し子と戦神の寵愛という部分に侯爵は激しく頭を痛めた。


「…我の手に余る案件だ。皇帝陛下にこの鑑定結果と件の転生者の情報を1字1句漏らさずに報告する。良いな?」

「はい。」


少しだけ老け込んだ侯爵は就寝する間際に「早く代替わりして隠居しよう…」と思った。


side終

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