第1話

転生してから5年が経過した。今世での私の名はイサナ、前世の言葉だと鯨の和名だ。名付け親は意味は知らずに響きだけで名付けたらしい。多分、転生者がニワカ知識で広めた前世の言葉だろう。はぁ。


「おい!そこの魚人モドキ!なにため息吐いてんだ!舐め腐ってんのか!?ぶち殺すぞ!!」


うっわぁ、めんどくさいのに見られた。ここは逃げの一手だ。


「あ!おい!魚人モドキ!!逃げんじゃねぇ!!待てコラ!」


待てと言われて待つやつはおらんよ。スタコラサッサ〜




私、捨て子から孤児スタートしました。しかも、つい先日までお世話になっておりました孤児院の院長先生が領主から支給されていた孤児院運営費を持って蒸発してしまいスラム街の住人にクラスチェンジしました。孤児もスラム街の住人も変わらないって?棲家とご飯が確実にあるかないかの違いですからだいぶ違うと思います。


で、先程の口が悪い方はスラム街を牛耳っているマフィア?いえ、この場合は半グレグループの方がしっくり当てはまりますね。その半グレグループの下っ端さんですね。私のスラム街での役割は物乞いです。何故かみかじめ料がスラム街では発生するとのこと。領主に税払えないのにみかじめ料とは如何に?という気持ちです。


たまにスラム街を見学なさる高貴な方が足を運ぶらしくて、可哀想な子供を演じると銀貨1枚落としていただけるらしいです。必死になって拾う様を見て愉悦感を得ているとのこと。ストレス発散ですかね?娼館で女の子とイチャイチャした方がストレス発散になると私は思います。


半グレグループが私のことを"魚人モドキ"と口になさっておりましたが正確には違うんですよね。現在の私のステータスを見ていただけると理由が分かります。"ステータス"




名前:イサナ(前世:田中太郎)

年齢:5歳

性別:男

種族:龍人族(龍神)×鯨人族(海神)×人魚族(海神)×魔族(公爵)=?族

Lv:14




はい、種族のとこがエラい内容が表示されてますね。そうです。4種族のクォーター種族です。で、()内は多分ですが龍神様や海神様の血筋の方が親戚にいるということだと思います。性に奔放な血筋なんですね。でも、私捨て子なので血筋のルーツを知ったところで仲良くなど出来ませんし。何故なら、この世界の混血児って自然の摂理に反するものらしくて忌み嫌われてます。なら、何故私が生まれたのか?異種性交は背徳的だけど禁止されていないからですね。あと、避妊という概念がありません。娼館などどうしているのか?出来ちゃったら産んで育てるかポイ捨てにするか、らしいです。多分ですが何処ぞの娼館に今世での私の母親が務めていると思います。あと、父親はお客様でしょうね。誰が母親なのか分かりませんから最悪、近親相姦になってしまうので娼館には私は通えませんね。とほほ。


で、血筋に海由来の種族が2つもある関係で見た目は魚人に近くなっております。背びれと水掻きはありませんし肺呼吸ですがね。配色的には体の内側が色白美肌で外側が淡い蒼系の硬い鱗ですが今は薄汚れていて黒っぽくなってます。目立つ色は良からぬ者を誘惑してしまうらしいので、わざと汚泥を全身に塗りたくっております。見目はそこそこ良いらしいですが汚泥のおかげでマイナスになっております。悲しくありません。あと、尻尾あります。海洋哺乳類の。尻尾にもびっしり鱗があります。ちなみに、私の鱗は剥がすことが出来ないタイプですね。何度かスラム街の人達に羽交い締めにあって剥ぎ取りされそうになりましたが相手の獲物を全てを破壊するだけで傷1つつきませんでした。あと尻尾も頑丈でした。ナイアラル様、ありがとうございます。


さて、そろそろこの街を出て外で生活を視野に入れなくては。スラム街に利点なんて1つもありませんからね。孤児院よりも食べるものないのは当たり前ですが街の人々の目が気持ち悪い。汚泥まみれなので汚物扱いされるのは一向に構わないんですが、なんと言いますかね?殺意が混じってるんですよね。私、何かしましたか?ということで、いざと言う時に隠しておいたマイウェポンちゃん達と共にいざ街の外へ...


「おい!そこの子供」

「?」

「その腰の武器は何処で盗んできた?」


なんと、数人の衛兵に私の私だけのウェッポンちゃん達を盗品だと言われました。ナイアラル様から下賜された私だけのウェポンちゃん達を!許せませんね。ですが、話せば意外と...


「お前のような子供は犯罪者になるのが生まれた瞬間から神によって決められている。この場で成敗してくれよう。」


あ、この人達ダメだ。ど腐れ信者の臭いがする。正当防衛はこの世界にありませんが致し方ないですね。とりあえず、何本かのウェポンちゃん達は物置へ避難しておいてもらいましょう。また後で出してあげますからね。


「貴様ァ、収納スキル持ちか!」

「売れば良い小遣い稼ぎになるな。」

「今夜はパァーと飲めるぞ!」

「...」


この際、バレても良いので全力出しますか。人売りは絶対許さん。


私は全身の汚泥を綺麗にするために全身を包み隠すように水魔法で洗浄、ついでに綺麗な水で喉を潤して汚水を衛兵にぶっ掛けます。


「おぇぇ!くせ!うげぇ」

「おろろろ」


いい気味です。ですが、私の怒りはまだまだこれからですよ。


まず、そうですね。この曲にしましょうか。前世で動画を視聴して気に入った血濡れたお嬢様のワルツを歌った曲を。ナイアラル様から授けていただいたスキルを御照覧あれ!




その日、とある貴族が治める街で衛兵数人死傷と多数の住民の恐慌状態という前代未聞の騒ぎで数日にわたって事態を収束するのにかかった。調査によると魚人族の子供がいたとか、血濡れた公爵令嬢が衛兵を切り刻んだとか、笑い声と衛兵の叫び声が街中に響いていたとか事態の真相に迫るような証言が取れず調査は途中で打ち切られた。

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