幕間:卑怯っしょ
……遠見君、あれは卑怯っしょ。
隣に並んだ遠見君をちらっと見たあたしは、さっきの彼の笑顔を思い出してニヤケそうになるのを隠さなきゃって、思わず顔を背けちゃったんだけど。
「……あの、やっぱり何かあった?」
「ないないないない! 絶対ないから!」
横目で見えた少し不安そうな遠見君を見て、慌ててまた彼に向き直って、両手を振って否定した。
「そ、そっか。なら、いいんだけど」
って、あたしのバカ!
こんなキョドってたら、余計遠見君に変に思われるじゃん!
「ご、ごめんね! あたし、その、あんまし真面目な話、得意じゃなくってさー」
「そうだったんだ。やっぱり気を遣わせちゃった──」
「違う違う! あたしは遠見君の事色々知りたいんだよ? だから話してくれたのはちょー嬉しいの。ただ、あたしが真面目な顔してるのって全然似合わないじゃん。それで、ちょっと気恥ずかしくなっただけ。だから、心配しなくっても大丈夫だかんね?」
「本当に?」
「うん! グラ友なんだからさ。そういう所はちゃんと信用してよね!」
うわぁ……下手な言い訳。
無理矢理感がぷんぷん漂う酷い理由に、内心自分でも内心呆れちゃったんだけど。遠見君はそれを聞いたら「そっか。わかった」ってまた笑顔を見せてくれた。
もう……やっぱ遠見君、優しすぎじゃん……。
あたしは正直、嬉しさで内心その場で悶えたい気持ちを必死に抑えてた。
……正直な話。
今日のあたし、朝から少しおかしかったと思う。
学校じゃ遠見君と話せるチャンスが増えたけど、MINEは送っていいのか迷っちゃってたし、そもそも美香の恋愛相談とか、他の子とのやりとりで、全然遠見君にメッセージを送る暇も取れなくってさー。
だから、何とかまた話をしたいなーって、あたしから今日出掛けるのも誘ったけどさ。
ずっとメッセージしてもいいのかな? 通話してもいいのかなー? ってめっちゃ悩んだしー。今日遊びに誘うのだって、ちょー緊張したんだよねー。
友達と話そうとするだけで、こんなに緊張したのって何時ぶり!? ってくらい。
だから、昨日遠見君が通話してくれて、遊ぶのをOKしてくれた時は、めっちゃ嬉しくってさ。
それまでの鬱憤もあったせいで、今朝はかなり気合入っちゃってたんだよねー。
──「ねーちゃん、今日変に気合はいってね?」
なんて、
弟にこういうのがバレるのなんて、今までなかったっしょ……。
まあ、優しくってあたし好み全開の眼鏡男子。そんな彼を一日堪能できるって考えただけで、めっちゃアガってたのもあるし。あたしだって、眼鏡女子として遠見君によく見てもらいたかったしさー。こればかりは仕方ないっしょ。
遠見君からちゃんと似合ってるって言ってもらえたし、気合い入れた甲斐があったけどねー。
でもさー……グラ友だからって信頼もあったけど。あたし、遠見君に心許し過ぎじゃん。
逢って話するのだってまだ二回目なのに、初恋の話をしちゃうなんてさー。
遠見君だったらきっと、あたしの気持ちをわかってくれるとは思ったよ?
でも、あそこでノーコメって言うこともできたわけ。
大体普通、急にあんな話したら、絶対空気悪くなるって思うじゃん?
普段のあたしなら、絶対ごまかして話さなかったっしょ。
それなのにポロっと話しちゃったのは、きっと初めて話した時から、遠見君の優しさにやられちゃってたんだと思う。多分……ううん。絶対。
ま、まあ、流石にこの理由は、バカ正直に話せなかったけどねー。
でもでも。
そんなあたしに共感してくれてたのはめっちゃ嬉しかったし、あそこで話せて楽になったのも確かなんだよね。
それにさ。遠見君も、昔の辛い事話してくれたじゃん。
それって何か、心開いてくれてるなーって感じがしたしさー。
ほんと、やっぱ遠見君って最高のグラ友だよねー。にししっ。
……って、あれ?
ふとした違和感に、あたしはちらりと横を見る。
隣を歩く遠見君の様子を伺うかのような表情……ってヤバッ! あたし、ぼんやりしてて何も話してないじゃん!
「あ、ごめんね! 急に黙っちゃって」
「ううん。話すのだって疲れる時あるし、大丈夫だよ」
眼鏡も引き立つ優しい笑顔を見せてくれる遠見君。
だけど、これって絶対気を遣わせちゃったじゃん。
「そ、そういうわけじゃないんだけど。ほんとごめん」
「気にしなくていいよ。何か楽しそうな顔してたし、きっと何か楽しい思い出してたんでしょ?」
……へ?
ちょ、ちょっと待って。あたし、表情ダダ漏れだった!?
「も、もしかしてあたし、顔に出てた?」
「うん。何かにこにこしてたよ」
「うわぁ……それ、ちょっと恥ずいかも……」
一気に顔が火照っちゃって、あたしは目を泳がすと手で顔をパタパタと仰いじゃった。
ちらっと横目で見ると、遠見君がくすくす笑ってる。
「ゔー。何でそんな顔してるわけー?」
「だって、何かとからかわれてばっかりだったから。こうやって動揺する近間さん見るの、ちょっと新鮮で」
……あー、やっぱ遠見君、卑怯だ。
あたしは遠見君の嫌味のない笑顔に、はっきりそう思っちゃった。
勿論、嫌な気持ちなんて全然ない。
むしろ彼の笑顔が見れて、ちょーハッピーな気持ちになってる。
でも、そんなの当たり前じゃん。
好みの眼鏡男子にこんな顔されたらドキっとしないわけないしー。嬉しくならないわけないっしょ。
そりゃあたしだって、ニヤけもしちゃうって。
……ほんと。
あたし、まだちゃんと逢って話すの二回なのに、どこまで遠見君にやられてるんだろ。
嫌じゃない。
っていうかあたし、もっと色んな遠見君を見たいって思ってるし、眼鏡なあたしをもっと沢山見てほしいなって思っちゃてるんだよね……。
そういえば、やっぱり遠見君の好みって、あのサーラって子とかなのかなー。
さっきも文系の眼鏡女子がいいって言ってたけど、それって間違いなく、あたしと真逆なんだよね……。
やっぱ、ギャルだと眼鏡なんてしてても、眼中になかったりするのかなー。
んー。なんかグラ友とはいえ、そうだったらちょっと複雑かも……。
……そっか。
だったらさー、意識させたらいいじゃん?
眼鏡ギャルだって可愛いんだよーって。
うん。そうしよ!
そう思い立ったあたしは、遠見君に笑顔を向ける。
「ね。遠見君」
「ね? ね? ただ歩いてもつまんないしさ。折角だしー、昼食を賭けて『好み当てゲーム』しよ?」
「え? ゲーム?」
「そ。どうする?」
「うーん。まあ、いいよ。どんなルール?」
きょとんとしながらも受け入れた彼に、あたしは平常心を装いゲームのルールを説明したんだけど。
内心はめっちゃほくそ笑んでた。
よーし。このゲームで遠見君に、少しはあたしを意識してもらおーっと。
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