第70話 ボコす③

「全く、1人で突っ走り過ぎ。ま、お陰様でこっちも準備出来たんだけどね。」


「準備……?」


 不思議そうな顔をした俺にキララは腕であっちを見ろといったような合図をする。

 それに従い指された方向を見ると、そこには20体はゆうに超えるモンスターの数々がいた。


「まさかこいつら!?」


「そう!ぜーんぶ私の可愛いモンスターたちよ。実はクロの影に入れるってわかった後から色々私なりに調べてたの。そしたら他のモンスターも入れる事がわかってね。コツコツ準備してたんだ。」


 影に潜むモンスター軍団。

 このスキル、思ってた以上にヤバい能力かもな。


「さあて、お披露目会よ。出て行きなさい、影の魔物軍団シャドウパレード!!」


 合図と共に20を超えるモンスターが影から地上へと一気に溢れ出す。

 足元から一瞬で現れたモンスター達には流石の巨人も対応が追い付かず、モンスターに足を取られ倒れ込んだ。


「質が足りないなら量で押せってね。さ、今のうちにやるわよ。あの子達もそう長くは持たないから。」


 キララが準備したモンスター達は言い方は悪いがダンジョンの序盤に出るような雑魚ばかりだ。

 正直、あの巨人にで通用する様なモンスターじゃない。巨人が足を取られたのだって不意打ちのお陰。

 真正面から戦えば殲滅されるのは時間の問題だ。


 気を引き締める為に自身の両頬を叩く。

 パァーンという気持ちのいい音と共に痛みが襲って来る……が、なるほど。これは確かに気が引き締まるな。


 心機一転

 気を新たに巨人の元へ攻め込む。


「もう大丈夫だ。悪い、助かった。」


「気にしないで。私も沢山助けて貰ってるからお互い様。それに……それが仲間ってもんでしょ。」


“仲間”

 以前の何処か一歩引いたところにいたキララはもう居ない。

 今この時、キララは完全に銀狼の牙フェンリルファングの一員となった。


 そう感じた俺は自然と口元が弛んでしまう。


「ああ、そうだな。」


 キララと2人でクロの背に乗り影から飛び出る準備を整える。


「それじゃあ私たちも行きましょうか。テイムの発動条件は直接右手でモンスターの額に触れる事。少しの間、足止めよろしく!」


「任せとけ。お前には手を出させねえよ。」


 その言葉を最後にクロは飛び立った。




 影から飛び出た瞬間、俺はクロの背から飛び降りる。


 勝負は巨人が地面に倒れている間。

 俺はこいつを立ち上がらせない様にしつつ、キララに手出しさせないようにしないといけない。

 となると今度は……


「脚だけじゃ足りないよな。」


 剣は折れている。

 ではどうすればいいか?

 そんなの答えは一つに決まっている。


「剣が無ければ拳を使えばいいってな!」


 勿論、剣と比べて殺傷力も何もないただの拳で敵うはずもない、というのは至極当然だ。

 だがこの場にはキララが出したモンスターの残党がいる。

 俺がやるのはキララに当たりかねない攻撃を防ぐ事。後の足止めはモンスターたちがやってくれる。

 あくまでサポートに徹する。

 それが今の俺に出来る精一杯。


 そしてその作戦は予想より遥かに上手く行き、遂にキララの右手が巨人の額に触れた。


「スキル発動“和衷協同”。お願い、仲間になって……!!」


 キララの願いと共に右手から放たれた眩い光が包み込んだ。


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