第56話 九死一生

 シェリアの一撃必殺で敵の残りは半分。

 これなら俺たち3人で押し切れるか。


「シェリア。2人で前線に出るぞ。シルはサポートを頼む。」


「はい、わかりました!」


「ごめん、私無理。」


 力強く返事をするシルフィード。

 それに対し、先程までの戦いぶりに反してシェリアは頭を掻きながら恥ずかしそうにそう答えた。


「あはは、一撃必殺使うと動けなくなっちゃうんだよね〜。ほんっとにごめん。」


“一撃必殺“

 文字通り、一撃でどんな敵をも屠り去る攻撃を放つスキル。

 その代償は大きく、一日(24時間)に一度しか使えない他に約一時間の間身動きが取れなくなる。


 何かしらのデメリットはあると思っていたがまさか動けなくなるなんて……


「そんなスキルならもう少し使う場所考えろ!」


「ごめーん!!」


 思わず怒鳴ってしまったが済んでしまった事は仕方ない。


 シェリアが戦闘不能って事は俺とシルでこの数をやるのか。

 俺が知ってるシルフィードという男はそこまで強い訳ではない。

 期待は出来ない……か。


 横目でシルフィードを見ると、彼の顔には笑みが浮かんでいた。


「進さん、今度は僕の番です。シェリアがこんなに頑張ったんだ。兄として良いとこ魅せなくちゃ。」


「おい!ちょ、人の話を——」


 静止の声虚しく、モンスターの群れへと走り出してしまう。


「あー、くそ!ったく、しょうがねえな。」


「待って待って。」


 シルフィードを止めに行こうとするも、シェリアがそれを静止する。


「邪魔だ。このままだとあいつ死ぬぞ。」


「まぁまぁ。馬鹿兄貴だけどさ、あれでも私の兄貴なんだよ。兄貴はさぁ、私より強いよ。」


 シルがシェリアより強い!?

 レベルもランクも下。

 その上、以前戦闘を見たがあいつは点で使えなかった。

 そんな奴がシェリアよりも……


「ま、見てなって。正直、私は兄貴とだけは戦いたくないって思っちゃうんだ。だってあいつ——絶対倒れないんだもん。」


 モンスターの群れへと突っ込むシル。


「行くぞ、スキル“自業自得”」


 自業自得の効果を自身にかける。

 以前は日頃の行いの悪さで逆にデバフがかかっていたが、今回は上手くいったようだ。

 動きの質が1段階上昇している。

 手際よく、モンスターを処理している。

 だが——


「あれじゃ無理だろ。」


「うん、無理。そろそろやられるんじゃない。」


 確かに前よりはいい。

 だけど所詮はその程度だ。

 一対一なら余裕で勝てても今は集団戦。

 一度でも捕まれば、後はじわじわと削られるのみ。


 案の定、ボロが出始めシルの体は徐々に傷付いていく。


「加勢に行く。今度こそ止めるなよ。」


「駄目駄目。こっからが良いとこなんだから。進は何があってもそこに居て。兄貴だってそれを望んでる。」


 妙に落ち着いているシェリアに促され、助けに行くのを止める。


 次々と迫り来るモンスターの群れ。

 シルは既にぼろぼろで立っているのがやっとの状態となる。


「まだなのか!?あいつ、死んじまうぞ。」


 何度も助けに行こうとしたが、その度にシェリアに止められた。


「進、まだわからないの?本来なら兄貴はとっくに死んでるよ。あれは兄貴のスキル“九死一生”、兄貴は私の前じゃ、絶対に死なない。」


 確かに死んでてもおかしくないダメージだ。

 それによく見れば急所に受けた傷だけいつの間にか無くなっている。

 だけど——


「死なないからって勝てるわけじゃないだろ。」


「うん。だからあれを倒すのは別のスキルだよ。」


 モンスターの攻撃を耐え続けるシルフィード。


 そろそろか…


「スキル“因果応報”」


 次の瞬間、シルフィードを襲っていたモンスターたちはその身にダメージを受け、次々と倒れて行く。

 その数はシェリアと同様で群れに残ったモンスターの数は10体にも満たない。


 これなら俺一人でも余裕でやれるな。


「お前ら、よくやった。」


 力尽き、動けない2人を安全な場所へ運び残りのモンスターを狩る。

 予定とは違ったものの、進はモンスターの群れを退ける事に成功した。

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