第49話 アイドル
ギルド『叡智の女神』
叡山の目の前にはムスッとした表情の進が座っていた。そしてそんな彼の頬は赤く腫れ上がっている。
「どうして止めなかった。」
「私は止めたけど君たちが話を聞かなかったんだ。だから私は途中で帰らせて貰ったよ。」
叡山の話によると俺たちは何軒か居酒屋をはしごした後、あのジジイ2人がキャバクラに行きたいと言い出したらしい。
そういう空間を好まない叡山は断ったらしいのだが、酔い潰れていた俺はなんとなくでついて行ってしまったのだろう。
その結果が今朝のあれだ。
まあ、幸いな事に無くなったのはギルドの運営資金だけ。俺のポケットマネーには何のダメージもない。
「その頬は金川くんの仕業かい?」
腫れ上がった俺の頬を見てくすくすと笑っている。
こいつ、人の不幸を喜んでやがるな。
「キャバクラなんて行く人だと思わなかった。最低だ。って言われた。朝帰りだったし服はキスマークだらけ。何の言い逃れも出来なかったよ。」
「まあ金川くんはそういうのは嫌いだろうね。ただ……なんというか、恋人同士のやり取りの様だ。」
「そんなんじゃねえよ。ビジネスパートナーがそんな男でも嫌だろ。男女パーティだからその辺もう少し気にするべきだったかなぁ。」
「大丈夫だよ。金川くんは馬鹿じゃない。今は少し機嫌が悪いだけ。すぐに元に戻る。」
なんでもわかった様な顔しやがって…
こいつもついて来てれば何とかなったかも知れないものを。
八つ当たりだとはわかっているが唯一の常識人であったこいつには、あいつらを止めて欲しかった。ついでに言えば、俺だけでも避難させておいて欲しかった。
それなのに自分だけ逃げやがって。
不機嫌そうな俺の顔を見て少し困った様な顔をしている叡山。
「そういえば、知ってるかい?アイドル冒険者の話は。」
こいつ……今露骨に話題変えたな。
だけどアイドル冒険者??
なんだか気になる単語だ。
「なんだそれは?」
「1ヶ月前までアイドルとして活動していた
冒険者からアイドルになってまた冒険者か。
前途多難な人生を歩んでる奴もいるもんだ。
「そんな経歴だと結構歳なんじゃないか?そいつ何歳だよ。」
「25歳だそうだ。君と同い年だね。18〜20まで冒険者として活動し、その後芸能界へ。アイドルとしての限界を感じ、再度冒険者に戻って来たという感じかな。」
同い年ねえ。
って事は同期って訳か。
俺の同期でまだ冒険者を続けてる奴らには三進二退のせいで随分と差をつけられてるから、なんだかこいつには親近感を覚えてしまう。
同年齢・同ランクで頑張ってる奴がいるのか。俺も負けてられないな。
進は席を立ち上がった。
「おや、もう行くのかい?」
「ああ、悪かったな。仕事の邪魔して。」
「構わないよ。大した仕事じゃない。また時間があったら飲みにでも誘ってくれ。」
「今度は2人でだな。あいつらと行くのはごめんだ。」
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