第48話 酒の勢い
大手ギルド『叡智の女神』ギルドマスター片桐叡山、同じく大手ギルド『狂暴な鬼人』ギルドマスター阿知羅鎧武、そして弱小ギルド『銀狼の牙』ギルドマスター明神斗真、同ギルドメンバーである俺、前山進。
何とも奇妙なメンバーでの飲み会になってしまったもんだ。
鎧武は見た目通りビールをがぶがぶ飲んでいる。どうやら斗真とは気が合うみたいで2人だけで会話を広げていた。
そして意外なのは俺の目の前に座っているこの男、片桐叡山だ。
「何かな?そんなに見られると気になるのだが。」
「ああ、悪かったな。お前がビール飲むなんて意外だったもんで。」
俺のイメージだとこいつは高級フレンチみたいな店でワインを飲むイメージだったが、目の前の男は焼き鳥と枝豆を片手にビールを飲んでいる。
「君は私をなんだと思ってるんだ。そういう店に行った事はあるが普段通いする場所じゃない。こういう居酒屋の方が性に合ってるんだ。」
「お前くらい大手なら毎日行っても余裕だろ。」
「私だって冒険者だよ。生まれが裕福だった訳でもない。今は軌道に乗れているが、駆け出しの頃からこの店には世話になってる。結局、何処まで上り詰めようとも味覚までは変わらないからね。」
そう言いながらビールを飲む姿はなんだかさまになっていた。
「ところで聞いたよ。金川くんとミカエラ兄妹の話。彼女は優しい性格をしていたからね。自分の意見で他人が不幸になるかも知れないという状況では決断を下せないと思っていたが……成長したんだね。」
「……なんかお前、保護者みたいだな。」
「そういう君も同じだろう。自分を棚に上げるのは良くないよ。」
そんな他愛もない話をしていると隣ではしゃいでいた酒飲み供が俺たちに絡み出して来た。
「なんだなんだ。しんみり飲みやがって。酒ってのはもっと騒ぎながら飲むもんだぞ。」
「そうだそうだ。こんなとこでまでかっこつけてんじゃねえよ。飲め飲め。」
結局、その後は大盛り上がりで2時間近くこの店に滞在していた。
時刻は22時を回っている。
そろそろお開きの時間だ。
「そろそろ時間だね。今日は楽しかった。ここは私が払わせて貰うよ。」
懐から財布を取り出そうとした叡山の手を斗真が止めた。
「な〜に言ってやがんだ。此処は俺が払わせて貰うぜ。」
「お、言うねえ。大丈夫なのかい?お前さんのギルド、まだ小せえじゃねえか。自慢じゃねえが金なら俺とこいつの方が持ってるぜ。」
「安心しな。臨時収入が入ったばかりだ。」
自慢じゃないと言いながらも自慢げに自身と叡山を指差した鎧武に対し、斗真は懐に忍ばせた分厚い茶封筒を見せびらかす。
あれはシェリアの件で貰った金だ。
あの後俺は100万だけ貰い、残りはギルドの資金として預けていた。
あいつ……勝手に持ち出しやがったな。
俺は斗真に近付き、耳打ちする。
「おい、それギルドの運営資金だろ。勝手に使うな。」
「お前なぁ。こんな大手ギルドのマスターとコネ作れるチャンス早々ねえぞ。共同依頼とか回してくれるかも知れねえんだ。後の事考えたら此処で多少金を使っておいた方がいい。」
俺は斗真の話を聞いて意外にも感服した。
こいつも偶にはまともな事を言うもんだと。
これが全ての間違いだった。
酒で酔っていたせいもあるだろうが、俺はなんであいつを信じたんだろう。
斗真なんて信じるべきじゃなかったんだ。
翌朝、気がつくと叡山以外の3人はキャバクラで眠っていた。
服には大量の口紅が付いておりなんとも恥ずかしい姿。
そして何より……テーブルの上に置かれていた領収書を見て俺は絶句した。
はぁ……せっかくの金が……
俺たちが手にした金は一夜にして全て消え去っていった。
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