第47話 意外な選択

 時刻は午後20時

 日は落ち、すっかり暗くなった街を進は歩いていた。

 進が今いる場所はダンジョンから少し離れた位置に建っている冒険者御用達の繁華街。

 その中にある居酒屋へと入って行く。


「いらっしゃい。お一人で?」


「いや、先に連れが来てる筈なんだが。明神って人はいないか?」


「ああ、明神さんね。奥の座敷の部屋にいますよ。こちらです。」


 店員に連れて行かれた座敷部屋を開けるとそこには既に頬を赤く染めた斗真の姿があった。


「よう、進。遅かったな。」


「あの後ダンジョンに行ったからな。すみません、生一つ。」


 取り敢えずドリンクの注文だけ終わらせ、席に着く。

 店員の行動は迅速であっという間にビールが届いた。


「お前とこうして飲むのは久しぶりだな。」


「美玖ちゃんが来てからそういう機会は減ったからな。あの子まだ飲めないだろ。俺らだけで行くのも悪いしなぁ。」


 まあ飲める年齢でも酒は好きじゃ無さそうだ。それにおっさん2人に囲まれてってのもあの子が嫌だろうし。


「で、今日はどうした?わざわざお前から誘って来たんだ。なんか話でもあるんだろ?」


「いや、大した事じゃないんだが…美玖ちゃんがああいう決断をするのは意外だなって思ってな。」


「ああ…シェリアの件か。確かにあれは意外だった。てっきりあの性格だから何やかんや加入を許すんじゃないかと思ってたんだけどな。」


 時は数時間前に遡る。


 ◇◇◇◇◇◇◇


「……私はシェリアさんの加入に反対します。」


 美玖ちゃんの発言に誰もが驚く。

 他人の事を嫌ったりしない、そんな性格の彼女が反対するとは誰も思っていなかったのだ。


「え?いや、冗談…ですよね?」


 見るからに焦り出すシルフィード。

 しかし、そんな彼に美玖は追い打ちをかける。


「冗談なんかじゃありません。詳しい話は知らないけど…シェリアさんが進さんに迷惑をかけた事だけはわかります。」


「それは……」


 シェリアは言い返そうとするが何も言えない。


「私自身が被害に遭った訳じゃないから何も言いませんでした。……今朝、進さんが傷だらけでギルドに来ました。貴方の仕業ですよね。」


 シェリアは黙って首を縦に振る。


「だったらやっぱり私は貴方を許す事は出来ません。人に優劣を付けるなんて事はしたくないけど……それでも私は貴方より進さんの事が大切です。」


 誰もが唖然とした。

 あの大人しそうな子がここまで言い切ったのだ。


 静寂な空気の中、斗真が手を叩き皆の注目を集める。


「決まりだな。賛成1、反対2。シェリア、悪いがうちのギルドは無理だ。他を当たってくれ。」


「そんな!シェリアだって反省してるんです。もう少し考えて——「やめて!」


「私が悪かったの。だから兄貴ももうやめて。」


 悲しげな表情をしながら一礼するとシェリアはギルドを去って行った。


「シェリア!そんな…せっかくまたシェリアと一緒に居られると思ったのに……こんなギルド、僕も辞めてやる!」


「おうおう何処へなりと行け。っていうかお前、まだうちに加入してねえし。辞める以前の問題だ馬鹿タレ。教養身につけて出直して来い。」


 こうしてシルフィードとシェリアの2人は去って行った。


 ◇◇◇◇◇◇◇


「お前は本当に良かったのか?うちみたいな弱小ギルドはメンバーが増えるだけでも利点だろ。特にシェリアは強かったしな。」


「お前と2人だけで何年やったと思ってんだ。別に大手になりてえなんて夢、持ち合わせちゃいねえよ。」


「それもそうだな。」


 他愛のない話をし、時間が過ぎて行く。

 すると1時間は経っただろうか。

 部屋の扉が開き、扉の向こうに見覚えのある連中が立っていた。


「やあ、久しぶりだね。偶然通りかかったのだが……同席してもいいかい?」


「今朝ぶりだなお前ら。2人だけなんてつまんねえだろ。パーっと楽しもうぜ。」


 その人物達とは片桐叡山と阿知羅鎧武だった。

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