第43話 猛虎

 ヤバいな。

 戦いが始まってからずっと防戦一方だ。

 隙を見つけて反撃しないと…このままじゃジリ貧でやられるだけだ。


 見かけに寄らずシェリアの戦い方は狡猾で、彼女は超接近戦を仕掛けていた。


 距離を取ろうにも持ち前の素早さで自分の間合いまで詰め寄ってくる。

 剣も近距離戦用の武器だと思われがちだが、相手が拳となれば話は別だ。

 シェリアは剣よりも更に短い間合いで仕掛けてくる為、剣より短い間合いでの戦闘経験が少ない進はやりづらさを感じていた。


 間合いをとって仕切り直しをする。

 その為には……


 短剣をシェリア目掛け投擲する。

 しかし案の定躱されてしまい、隙が出来た進の体にシェリアの拳が突き刺さる。


「何処狙ってんの……っと!」


 全身に衝撃が走る。


 なんて威力だ。

 これが本当に拳の破壊力なのか?

 一体、どんな鍛え方してやがる。

 そう何発も食らっていては身が持たない。

 耐えれて後2発……それまでにケリをつける!


 目の前まで接近していたシェリアが再び拳を振り上げている。


「どうしたの?こんなもんじゃないでしょ!」


 振り下ろされる拳。

 しかしその拳が進に当たることはなかった。


「へえ、それが噂のワープ能力か。本当に一瞬で移動出来るんだね。」


「俺のスキル、誰から聞いた?シルフィードか?」


「ううん。そんな事しなくても普通に噂になってるし。」


 噂になってる?

 叡智の女神での決闘でか?

 全く、こんな厄介な事になるんだったら受けるんじゃなかった。


「進はさあ、自分が有名になってる事もう少し自覚した方がいいよ。名の知れた冒険者は基本的にスキルは隠すもの。じゃないと進みたいに他ギルドの冒険者にスキルがバレちゃうからね。」


 こいつ、脳筋かと思ったらちゃんと下調べまでしやがって。


「別にバレたからといって対処出来る訳じゃないだろ。」


「わかってないなぁ。知ってるんだよ。そのワープ能力は短剣の位置にしか飛べないって。」


「……そうか。だったら、これならどうだ。」


 10本の短剣を周囲にばら撒く。


「俺が何処に飛ぶか当てれるもんなら当ててみろ。」


 シェリアを惑わす様にワープを繰り返す。


「ほんとに何もわかってない。スキルを知った上で勝負を挑んでるって事は……それを討ち破る術を持ってるって事だよ。」


 空気が震える。

 シェリアの周囲から得体の知れないエネルギーが放たれているような感覚だ。


 一体何をしようとしている。


「行くよ。スキル『猪突猛進』発動。」


 シェリアが一瞬で俺の前に移動する。


 さっきよりも早い⁉︎

 だけど、神出奇没なら避けられ——


 進は確かにスキルを発動した。

 転移は確実に成功した筈だった。

 しかし、進の目の目には先程と変わらずシェリアの姿がある。


猛虎翔掌もうこしょうしょう


 拳に纏われていたオーラが虎の形へと変化し、進へと襲いかかる。


 その威力は先程までの攻撃とは桁違いの威力を誇っており、進の体は遥か彼方へと飛ばされていった。


 その場に残されたシェリアは進が飛んで行った方向を眺めながら呟いた。


「あちゃー、やり過ぎちゃった。」






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