第42話 戦闘狂

 背後から嫌な視線を感じる。

 野生の獣が獲物を見定めているかの様なそんな視線だ。

 この視線はダンジョンに入る前から少し気になっていたが、ダンジョンに入ってからはより鋭さを増している。


 誰かが俺を狙ってる?

 だが恨みを買う様な真似はしてない……とは言い難いな。

 つい先日、叡智の女神のメンバーが俺との決闘が原因で追放されてしまった。

 だけどあいつの姿が見当たらない。

 まだあいつの逆恨みとかなら納得はしないが理解は出来るんだが……一体何だ?この視線は。


 視線の正体がわからない。

 周囲を常に警戒しながら暫くの間歩いていると、とうとう何者かが襲いかかってきた。


 やっと来たか。


 その場から飛び退く事で初撃を回避する。


「へぇ、やっぱりやるね。手は抜いたけどランク2の冒険者が躱せる一撃じゃなかったんだけどなぁ。」


「その声、シェリアか。」


 視線の正体はシェリアだった。


 思い返してみれば視線を感じ出したのはシェリアと出会った後から。

 まさかこいつが俺を狙ってるだなんて思いましなかったが…一体なぜだ?


「なんで俺を狙う。俺たちは初対面、今まで一度も面識はないはずだ。俺はお前に何かしたのか?」


「別に。ただ戦いたかったから襲っただけ。私強い人見つけると戦わずにはいられないんだよねぇ。進が叡智の女神のギルメン倒したって聞いてからさ。すっごく興味あったんだぁ。まさかあんなにタイミング良く出会えるなんて——運命的だよね。」


 シェリアの顔が光悦とした表情へと変わる。


「いいのか?こんな所で冒険者同士が戦って。俺が通報したらお前、冒険者資格剥奪されるぞ。」


「別にいいよ。警察はダンジョン内に入って来れないから戦いの邪魔はされないし。それに戦いたい時に戦って何が悪いの?資格剥奪はまあ嫌だけど…また取り直せばいいし。」


 これが鎧武が言ってたシェリアの厄介なところかよ。

 まさしく戦闘狂。

 後先考えず好きなタイミングで襲いかかる厄介な性格。

 全くシルフィードといい、こいつら兄妹はどうしてこうも面倒なんだ。


 言葉は無意味。

 そう悟った進はバッグから短剣を取り出す。


「それが進の武器なの?腰につけてる刀は?」


「素手相手に刀なんて使えるか。」


「へえ、そっか。それは——私の事ナメてるって事だよね。」


 シェリアの姿が消えた。


 次の瞬間、腹部に強烈な痛みは走ると同時に体が猛烈な勢いで飛ばされていく。


 何だ今のは。

 全く見えなかった。


 立ち上がろうとしたその時、こちらに迫る気配を感じ取る。


 ——マズい、また来る。


 頭で考えるよりも先に体が勝手に動いていた。


 シェリアの拳を辛うじて刀で受け止める。


「どうせ抜くんだったら最初から抜いてれば怪我しなかったのに。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る