第41話 悪癖

 ダンジョン9階層


 目の前では数十体のモンスターを相手にシェリアが蹂躙している。

 彼女の武器はシルフィードと同じく拳。

 彼との相違点は威力を高める為にメリケンサックの様な物を装備している点だ。


 俺はそんなシェリアの戦いぶりを観察していた。


 強いな。

 俺や美玖ちゃんなんかよりも遥かに上だ。

 少なくともランク4、下手したらそれ以上かも知れない。

 9階層程度のモンスターでは相手にならないと言わんばかりの戦いぶりだ。


 考え事をしている間に、全てのモンスターを倒し終えたシェリアがこちらに向かい歩いて来た。


「お疲れ様、流石だな。お前、一体ランクはいくつだ?」


「うん?ランク4だよ。レベルは確か…6だったかな。」


 ランク4か。

 俺よりも2個も上…っとなると、一緒にダンジョン探索するのは難しいな。


 ダンジョン探索をする場合、ランクが近い者同士で行く事が鉄則だ。

 理由は単純に階層によってモンスターの強さが違うから。

 上の者に合わせてしまえば、下の者は力不足で死んでしまう。かと言って、下に合わせると上の者は大した経験値稼ぎにもならず、ただただ時間を無駄に消費してしまうからだ。


 これは返って都合がいいな。

 ランクの差を理由に別行動させて貰おう。


「そうか。俺、ランク2なんだよ。俺に合わせてるとシェリアの為にならないしやっぱりここは別行動にしよう。」


「大丈夫だよ。シルに聞いてたから。元々ランク知ってる上でついて来てるんだからそっちに合わせるよ。高ランク冒険者が低ランクに合わせるって言ってるんだから問題ないよね。」


 シルフィードの野郎…妹とはいえ他ギルドだぞ。人のランク勝手にペラペラ喋りやがって。


 シルフィードの口の軽さには腹が立つが言ってしまったものは仕方ない。


 それにしても……なんでシェリアは俺なんかとダンジョンに潜りたがったんだ?


 シェリアが進についた来たのには理由があった。


 それはシルフィードが進達『狂暴な鬼人』のギルドに連れて来た日の事だ。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 シェリアは兄であるシルフィードを何とか追い返した後、ギルドマスターである鎧武に詰め寄っていた。


「私言いましたよね!馬鹿兄貴が来たら追い返せって!どうせ私をここから脱退させようとしてるだけなんだから。」


「まあまあ落ち着けって。仮にも元ギルメンだぜ。話くらいしてえじゃねえか。それに妹想いのいい兄貴だと俺は思うけどなぁ。」


「マスターは私の事厄介払いしたいだけですよね。わかってるんですからね。」


「わかってんだったらギルメンに喧嘩売るの辞めろ。大変なんだぜ。治療費とか修繕費とか…」


 鎧武がシェリアを厄介と言っていた理由はただ一つ。シェリアが戦闘狂だからだ。

 自分が興味を持った相手と戦いたくなる悪癖があり、相手がその気になるまでしつこく追いかけ回す。そして相手が乗った瞬間にその場で決闘を始めてしまうのだ。

 なんとか路上でやるのを改善させたはいいものの、ギルド内で暴れ出す機会が多くなり、シェリアが来てから狂暴な鬼人は何度も建て直しを行っていた。


「お金は私の給料から引いてるじゃないですか。」


「そういう問題じゃねんだよ。ハァァァァァ、俺んとこにも進みてえな冒険者来ねえかなぁ。こんな荒くれ者ばっかじゃ気が滅入るぜ。」


「進?ってさっきシルが連れて来てた冒険者?あんなのがうちに入れる訳ないじゃない。どう見ても弱そうだし。」


「お前、知らねえのか?あいつ叡智の女神のランク4冒険者と決闘して圧勝した男だぞ。お前もそんなんだと足元掬われるかもな。」


 鎧武のこの発言が決め手となった。

 この発言のせいで進に興味を持ったシェリアはどうにかして進と戦えないか機会を伺っていた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 そして偶然ではあるが今現在、真夜中のダンジョンに二人っきり。

 周囲に気配はない。

 今が絶好チャンスだ。


 さあ、どうやって決闘を始めよう。


 シェリアは獲物を見るかの様な目で進の背中を見ていた。

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