第34話 厄介

 早く起きたので時間を持て余した俺はなんとなく外に出て散歩をしていた。

 普段とは少し違い、人が少なく涼しい風が吹く街並みを歩く。


 あ〜、なんかこういうのもいいな〜。

 ぼーっとしながらただ歩いてるだけだけど、なんだか癒されてる気がする。

 そういえば、ここ最近変化があり過ぎたせいかずっと仕事の事ばっか考えてたし…

 冒険者稼業は好きでやってる事だけど、考えすぎってのもダメなんだなあ。


 そんな事を考えながら静かな街を歩いていると途端にドアを開ける大きな音がした。

 音の方向に目を向けるとそこには20歳くらいの金髪碧眼の眼鏡をかけた青年が倒れ込んでいた。

 その青年が小さな声で何かを呟いている。


「なんで……なんでだよ。シェリア。」


 なんだ?こんな朝っぱらから揉め事か?


 ぱっと見青年が追い出された?建物は普通の一軒家。

 だとすると彼女と喧嘩をしたってところか。

 イケメンだし優しそうに見えるがあんな優男でもフラれる事あるんだな。


 その場をそっと立ち去ろうとしたその時、青年と目が合った。

 何故か青年は俺を見ると目に涙を浮かべながらこちらに向かって来る。


 えぇ……なんだか面倒ごとに巻き込まれそうな気がする。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 ギルド『銀狼の牙』


「それで…僕は弱いから要らないって……でもあそこには妹が居るから……妹だけは取り返さないと…」


 泣きながらそう話す青年。

 美玖ちゃんはその話を聞きながら貰い泣きしている。

 だがそこ一方、俺と斗真は冷めた目で青年の話を聞き流していた。

 何故なら——


「おい、なんであんな奴連れて来た。あの話、もう何回目だと思ってんだよ。」


「俺1人じゃ持て余すんだよ。それに全っ然離れてくれねえし…厄介な拾いもんしちゃったなぁ。」


 青年の話によれば、どうやら彼は冒険者で彼女に捨てられた訳ではなくギルドを追放されたらしい。

 理由は弱いから。

 所属していたギルドは『狂暴な鬼人バーサクオーガ』。

 荒くれ者が集う戦闘特化型ギルドとして有名だ。性格には難がと言われているがその実力は本物。

 戦闘力に関していえば全ギルド中トップのギルドだ。

 追放された事自体は彼にとってどうでもいい事らしいのだが、問題は妹が残っている事。

 彼は妹と2人で海外から来ている。

 たった1人の肉親だそうでどうしても一緒に居たいそうだ。しかし彼の妹は強いみたいでギルドは妹を手放す気がないらしい。


「お願いします!どうか妹を……妹を助けて下さい!あんな厳つい男しかいないギルドに妹1人置いていったらどうなるか……」


 まあ確かにそんなギルドなら不安になる気持ちもわかるけど……関わりたくねぇ〜。


 そんな事を思っていると、先程まで貰い泣きをしていた美玖ちゃんが俺の服の裾を引っ張った。


「進さん、行きましょう。」


 決意の籠った眼差しで俺を見つめて来る。


 これは俺が行かないって言っても、美玖ちゃんは1人でついて行く気だな。

 はぁぁぁ、仕方ない。

 こうなったら行くしかないよなぁ。


 俺は青年の方を向く。


「ギルドはどこだ。案内しろ。」


「ありがとうございます!こっちです!」


 勢いよく飛び出す青年の後を俺たちは追う。


「頑張れよ〜」


 1人ギルドに残り俺らに手を振る斗真。


 あの野郎——

 いつかギルド抜けてやる。


 イラッとした俺はそんな事を考えてしまった。

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