第31話 第二の魔法

「進さん、大丈夫ですか?」


「まあ何とかね。ありがとう、美玖ちゃんのお陰で助かったよ。もう魔法覚えたんだね。」


「はい。まだ2つしか覚えてないんですけど…。進さんが居なくなってる事に気付いて跡を追って来たんです。そしてらこんな事になってて……」


 俺が勝手に出て行ったのに追って来てくれてたのか。

 美玖ちゃん……なんて良い子なんだ。


「でもよく此処がわかったね。10階層なんて1人じゃ危ないのに。」


「斗真さんも一緒に着いて来てくれたんです。今は9層でモンスターを引き付けてくれてます。進さんの居場所を教えてくれたのも斗真さんなんですよ。」


 斗真が⁉︎

 あの面倒臭がりが俺を心配してダンジョンまで来るなんて……ありえないな。

 俺の為…というより、美玖ちゃんが1人で行こうとしたから仕方なく着いて来たって感じか。

 あんなんでも一応ギルドのマスター。

 美玖ちゃんを守ろうという気はあるのだろう。

 あわよくば少しはその気持ちを俺にも向けてくれるとありがたいもんだ。


 ユニコーンの目が美玖ちゃんを見据えている。

 ターゲットを雨太から美玖ちゃんに代えたか。美玖ちゃんはそれほどの相手と認められたって訳だ。


「美玖ちゃん、あと何回魔法使える?」


光の矢シャイニング・アローなら何回でも大丈夫です。ただ、威力が低いので大したダメージは与えられません。もう一つの方は1回が限度かと……」


 光の矢シャイニング・アローというのはあの矢の事だろう。

 美玖ちゃんが使っている魔法弓の矢に光属性を付与させ速度と威力を上昇させたってところか。


 そしてもう一つの魔法。

 それがどんなものか俺にはわからない。

 だけど今はそれに賭けるしかない。


「俺は何をしたらいい?」


「……1分…いや、30秒でいいのでユニコーンの動きを止めて下さい。そしたら私が必ず当てます。」


 決意の籠った強い眼差しだ。

 そうか…美玖ちゃんは本当に強くなったんだな…

 こんな眼を見せられたら俺もやるしかないじゃないか。


 痛む体を無理矢理動かす。


 30秒か……長いなぁ。

 でも、やれない事はない。

 今の俺が足止め出来る現実的な時間だ。


「俺を信じて、何があってもあの場所に魔法を撃って欲しい。」


 そう伝えると同時に俺はユニコーン目掛けて駆け出した。


 ユニコーンはまだ俺の起死回生を警戒しているのか全く近付こうとしない。

 距離を開け、上空から再び雷撃を放つ準備を始めた。


「ったく、野生の勘って奴かよ。そう何度も食らってたまるか!」


 3本のナイフを投げ、上空へとワープする。


 俺の剣ではユニコーンの皮膚は斬れない。

 だけど、奴の攻撃を止めるくらいなら可能だ


 雷光を放つ角目掛けて剣を振る。

 予想通り、その角を折る事は出来ないが集中力が乱れたのか光は収まっていった。


「あんま連続で使いたくないんだけど…お前には特別だ!」


 俺がナイフを3本投げた理由。

 それはワープ先を増やす為だ。


 別のナイフへとワープし、ユニコーンの背後を取るとその体には触れた。


「捕まえた。」


 次の瞬間、俺とユニコーンの姿は上空から消え美玖ちゃんの正面に移動する。


 美玖ちゃんの魔法を当てる為にユニコーンを30秒も同じ場所で足止めする必要はない。

 要は美玖ちゃんの魔法が確実に当たるタイミングでユニコーンがその場所に入ればいいんだ。普通の奴には無理な話だろうが俺にはワープスキルがある。


 俺が指差した位置、そこには俺のナイフが落ちていた。


「美玖ちゃん、今だ!」


 俺の合図と同時に美玖ちゃんの周囲に複数の魔法陣が現れる。


「行きます。艶美な閃光グロリアス・レイ。」


 魔法陣から無数の閃光が襲いかかる。

 俺は神出奇没を発動し、美玖ちゃんの側へと移動する。


 ユニコーンの体が閃光に包まれている。


 なんて綺麗な光なんだ。


 俺が見惚れている間にも閃光はユニコーンを襲い続けている。


 閃光が当たった箇所が徐々に焼き焦がされている。光の矢では何のダメージも負っていなかったが今度の魔法はそれとはレベルが違うらしい。


 ユニコーンの体は少しずつ欠けていった。


「凄いな…それにしてもこれ、いつ止むんだ?」


 もうかれこれ1分間は撃ち続けてる気がする。

 こんなにして美玖ちゃんは疲れないのか?


 そう思い隣にいる美玖ちゃんを見ると彼女の顔からは大量の汗が流れていた。


 美玖ちゃんもキツいんだ。

 だけど途中でやめてしまったら今までの努力が台無しになる可能性がある。

 だから美玖ちゃんは攻撃の手を緩めない。


 俺もやるしかないな。

 ダメージは十分。

 後はユニコーンに近付くだけ。

 大丈夫、美玖ちゃんのこの魔法は一発に威力がある訳じゃない。

 数発ならまだ今の俺でも耐えられる。


「俺がユニコーンに触れたら魔法を解いて。」


「え?それってどういう——」


 俺は彼女の疑問の声に応えることなく、ユニコーンの元へ歩き出す。

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