第30話 救援

 遠吠えと共に雷撃が降り注ぐ。


 俺はナイフを投げると雨太を抱え、神出奇没を発動し雷撃が届かない岩陰へと移動した。


「雨太、お前は此処に隠れてろ。」


「でも、進さんが……」


「大丈夫だ。時間稼ぎくらいなら俺でも出来る。晴太が回復するまでの間、なんとかやってみるさ。」


 今、俺に出来る事は晴太が回復するまでの時間稼ぎ。

 大丈夫だ、俺には神出奇没がある。

 機動力だけなら俺はそこいらの冒険者より上だ。


 雷撃が鳴り止むのを確認すると神出奇没を発動し、ユニコーンの視界に入るよう移動した。


 まずはユニコーンの意識を俺に向ける事。

 話はそれからだ。

 今のユニコーンは俺なんか相手にもしていない。雨太の居場所を探してる様で首をキョロキョロと動かしている。


 俺なんか眼中にもないって訳か…

 ふざけやがって。


 ナイフをユニコーン目掛け投げる。

 しかしそのナイフが当たる事はなく最も容易く角で弾かれてしまった。

 だが——


「弾く意味はないんだよなぁ。」


 弾かれたナイフの位置へワープすると、勢いそのままユニコーンの首めがけ剣を振り抜いた。

 


 進は山岸隆二との勝負に勝っている。

 山岸隆二のランクは4。

 それに対してユニコーンの強さはランク2〜ランク3の冒険者パーティで挑めば勝てる程度の強さだ。

 単独での討伐となるとランク4以上の強さが必要とはなる。

 では、ランク4の冒険者である山岸隆二を倒した進なら勝てるのか?


 答えは否だ。

 対人戦と対モンスター戦では勝手が違う。

 進が山岸隆二に勝てたのは、彼が防御系統の力を持っていなかった事が大きい。

 山岸隆二は火力特化型の冒険者。

 パーティメンバーが囮の役割をしている間に高火力のスキルを使い一撃で倒す。

 それが山岸隆二パーティの戦い方だった。


 進ではユニコーンを絶対に倒せない。

 何故なら進にはユニコーンの強靭な皮膚を撃ち破る攻撃を持ち合わせていないから。


 進の剣はユニコーンに当たった。

 確かに当たったが、ユニコーンの皮膚が斬れる事はなく表面で刃が止まっている。


「嘘……だろ……」


 ユニコーンと目が合う。


 ——しまった、やられる。


 次の瞬間、俺の体はユニコーンの角で引き裂かれた。


 宙に浮いた体は地面に落下して行く。


 マズい…この高さから落ちたら……


 薄れていく意識の中、神出奇没を発動しダメージを軽減させる。


 激しく打ち付けられる体。

 だが、なんとか生きている。

 まだ体も動く。

 最悪の事態はなんとか避けた。


 俺の剣は通用しない。

 普通の攻撃じゃダメだ。

 だけど俺にはまだ——起死回生が残っている。

 このダメージなら使える筈だ。


 ユニコーンが大地に降り立ち、ゆっくりと俺の元に歩み寄って来る。


 よし、来い。

 そのまま起死回生の射程範囲内に入れば……


 あと一歩。

 しかし、何かを感じ取ったのかユニコーンはそこで足を止めた。


 角が光り輝く。


 マズい、またあの雷撃が来る。

 俺の起死回生は敵が近くにいないと届かない。つまり、あいつが雷撃を放った場合俺はただ一方的にやられるだけだ。


「はっ、少しは時間稼げたかな…後は上手くやれよ、お前ら。」


 目を閉じ衝撃に備える。

 その時、背後から何か声が聞こえた気がした。


 美玖ちゃんの声…?

 いや、気のせいか。


「進さん、避けて下さい!」


 今度はハッキリと聞こえた。

 間違いない美玖ちゃんの声だ。


 俺は彼女の声に従い身を伏せる。

 すると俺の頭上をもの凄い速さで何かが通り過ぎた。


 ユニコーンに目を向けると、その体には光の矢が突き刺さっている。


 あれは…美玖ちゃんがやったのか?

 光…という事はあの魔導書で身に付けたのか?だとしたら彼女はたった数時間で魔法を覚えたって事になる。

 一体彼女にはどれ程の才能が眠ってるんだ。

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