第24話 落とし物

 ダンジョン6階層


 進は少年の後を追ってダンジョンに入ったが、肝心の少年がなかなか見つからない。


 あの子、何処まで行ったんだ?

 武器も無しに6階層だなんて…もしかしてあの子滅茶苦茶強いなんてパターンじゃないよなぁ。まあ、どうせいつか渡さなきゃいけないからいいんだけど……


 なんだか無駄足みたいな気がしてしまったけどここまで来た以上意地でも少年に渡したい。なんとしてでも見つけないと……


 そんな時、視界の隅に大きなリュックが映る。


 あれって……もしかして……


 近付いてみると

 ——居た、あの少年だ。


 進が声をかけようとしたその時、少年の前にライオンの様なモンスターが飛び出して来た。


 あのモンスターは確かヘルタイガー。

 炎を纏う獅子型のモンスターで高い攻撃力が持ち味だ。

 その機動力と一度噛み付くと離さないといわれている炎の牙が脅威。

 群れで行動する事が多く、注意しなければいけない。


 ——マズい。

 あの子の周りに仲間は見当たらない。

 それに対してヘルタイガーは背後に6匹、身を潜めている。


 少年はどう見ても戦闘向きではない。

 今、目の前にいる少年の姿はどう見ても怖がっている。


 ——間に合うか。


 俺と少年までの距離は少し遠い。

 神出奇没を使えば多少は早く着くだろうがナイフを投げるまでの間、少し時間がかかってしまう。

 その間、少年一人だけでやり過ごせるだろうか?


 そんな進の不安は杞憂に終わった。


 少年は両手を前に翳すと大きな声で叫んだ。


大水流ビッグウォーターァァァァァ!!!」


 少年の前方に津波と表現するに相応しい程の大規模な水流が発生する。

 水流はヘルタイガーを呑み込んで行く。

 少年の魔法が消えた頃にはヘルタイガーの姿は無くなっていた。


「あの子、魔法使えたのか。俺の助けなんか必要なかったみたいだな。」


 ヘルタイガーを倒した後、何故かその場で腰を抜かしていた少年の元へと歩み寄り短剣を差し出す。


「よ、さっきぶり。これお前のだろ?」


 腰を抜かしていた少年は短剣を見るや否や立ち上がり、深くお辞儀をしてきた。


「あーー!!!僕の莫耶ばくや。探してたんです。拾って下さったんですね。良かったぁ〜。ありがとうございます。」


 どうやら相当大事な物だったらしい。

 後を追って来た甲斐があるというものだ。


「いいよ。元はと言えば俺がぶつかったせいで落ちたんだし。」


「それでも本当に助かりました。僕、空野雨太そらのうたって言います。」


 人懐っこい笑みを浮かべながら手を差し出す少年。

 俺はその手を取った。


「前山進だ。よろしくね。」

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