第23話 定例会議

 結局、居た堪れなくなった俺は1人ギルドを飛び出し、ダンジョンへと向かっていた。


 美玖ちゃんが読める分にはいいんだ。

 元々あの子にあげるつもりだったし、そういう目的で預かった物だから。

 だけど問題は斗真、あの野郎が読めるのだけは納得いかない。

 そりゃ拾って貰った恩はあるけどここ数年あいつが働いてる姿なんて見た事もない。

 銀狼の牙に入って2年くらい経った時に俺は気付いたんだ。


 あ、俺騙された。

 こいつ俺に自分の世話をさせる為に雇いやがった、と。


 あいつが読めるのだけはなんか腹立つ…普段寝てばかりの癖に……


 考え事をしながら街中を歩いていると誰かとぶつかってしまった。


「おっと…悪い、俺の不注意だった。怪我はないか?」


 ぶつかった相手は小柄な少年だ。

 俺とは体格差があった為、少年は地面に倒れ込んでしまっていた。

 背中に背負った大きなリュックからは少し物が出てしまっている。


「本当に悪かった。何か壊れたりしてたら弁償する。」


「いえ、大丈夫です。僕、急いでますんで…それじゃあ!」


 少年は慌てた様子で溢れたリュックの中身を拾い集めるとダンジョンのある方角へと走り去って行ってしまった。


「あいつ……何処かで見た様な気が…」


 一瞬だったのでよく顔が見えなかったけど、何処かで会った気がする。

 走り去る少年の後ろ姿を見ながらそんな事を考えていると道端に短剣が落ちているのを見つけた。


「これってまさか…あいつのなんじゃ…」


 少年が走っていったのはダンジョンの方角だ。恐らくだが少年も冒険者である可能性が高い。

 だとしたら、この短剣は少年の武器という事になる。


 非常にマズい。

 もしあの子が武器を落としている事に気付かずダンジョンに潜ってしまっていたら……

 考えるだけでゾッとする。

 あの子がこれで死んだら……俺のせい…だよな。

 急いで届けないと。


 落ちている短剣を拾い上げ、進は少年の後を追う。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ギルド『叡智の女神』


 この日は『叡智女神』ギルドマスターである叡山と5人の幹部が月に一度集まり行われる定例会議の日だった。

 開始予定時刻は14時。

 開始時間と同時に叡山が会議室へ姿を現すとそこには既に4人の幹部たちが集まっていた。


「みんな揃ってるね。それじゃあ会議を……《晴太せいた》はまた来ていないのかい?」


 辺りを見回し幹部が1人足りない事に気付く。

 叡山の口ぶりからするに常習犯の様だ。


「数日前から雨太うたと代わっていたからな。何処かのチームの荷物持ちでもやってるのだろう。」


「ああ、そうだったね。何処のチームに入れていたかな?」


 叡山の言葉にいち早く反応した光流がパソコンを開き、雨太が入っているチームを調べ出す。


「ちょっと待って下さいね。……見つけました。山岸隆二のチームですね。」


「隆二はこの前追放したじゃろ。ほれ、あの進とかいうのに負けて。」


「だったら雨太は今、何処にいるんだ?もうそろそろ晴太に戻るタイミングだろう。」


「それならいいさ。晴太になれば勝手に戻って来るだろう。それじゃあ、定例会議を始めようか。」


『叡智の女神』の会議が始まった。

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