第21話 幹部たち
進がいなくなった後、叡山を囲むように八尋雅康・久々利莉音・阿頼耶光流の3人が集まる。
「残念でしたね。彼、うちに来たら楽しそうだったのに。」
「うむ。あの者は非常に良い太刀筋をしていた。実に惜しいな。」
「良いライバルが出来ったって事でええじゃないか。負けてられん。俄然、やる気が出てきたのぉ!」
各々が進を話題とした雑談を交わす中、叡山は俯いたままだ。暫くすると突然、叡山が腹を抱えて笑い出した。
いきなり笑い出した叡山に3人は戸惑いながらも光流が意を決して話しかけた。
「ど、どうしたんですか?僕達、何か変な事でも言いましたか?」
「ああ…いや、君たちに対してじゃないんだ。悪かったね。」
“じゃあなぜ?”
3人が共通して思っていた事の答えをすぐに叡山は話してくれた。
「山岸隆二のレベルを覚えているかい?」
「確か先月ランク4に上がってましたよね。だとしたらランク4の1だと思います。」
「正解だ。そして進はランク2だった。僕は彼を君たちに並ぶ幹部級の強さだと見たんだけどね……参ったな、ギルドマスターが人を見る目がないなんて…」
叡山の台詞に3人は驚きを隠せない表情だ。
通常、ランクが一つ違うだけで強さは相当変わる。ランク2の差がある状態で圧倒するなんて事は信じられない所業だ。
「それは……本当なのか?もしかしたら彼が嘘をついただけかも知れない。我々とは別のギルドなんだ。教える必要もない。」
莉音は進の発言を疑う。
実は前山進はランク4以上の冒険者。
その方が納得がいくからだ。
しかし、そんな莉音の言葉を知って叡山は否定する。
「いや、その可能性は低い。進の事を調べたんだが彼は一度ギルドを追放された過去がある。その原因が彼のスキル三進二退だそうだ。」
聞き覚えのないスキルに疑問を浮かべる3人。そんな彼らを無視して、叡山は話を続ける。
「三進二退はレベルダウンが発生するスキルだ。通常の3レベルアップが彼にとっては1レベル。他人の3倍努力しなければいけないスキルだ。」
「なるほど…それは不憫だ。だが、それがなぜ追放される羽目に?他人に迷惑をかけるような奴には見えなかったが…」
扱いづらいスキルなど山ほどある。
叡智の女神にも戦闘に不向きなスキルや特殊な状況下でしか使用できないスキルを持った人間は存在していた。
だが、冒険者は基本的に自分の命は自分で守るもの。弱いからという理由で追放される事は殆どない。追放の対象となるのは山岸隆二のように、ギルドメンバーを蔑める行為をするなどといった仲間に迷惑をかけた者だ。
「そのギルドは彼のスキルを信じなかったんだ。強さに違いはあってもスキルを持つと強くなるのが当たり前。レベルダウンするスキルを信じられなかったらしい。
結果として進はレベルに見合わない階層まで連れて行かれ、戦力不足に陥った仲間たちは重傷を負ってしまった。その結果、故意に戦わなかった罰として追放という訳だ。」
「それは酷いのう……」
雅康が進に同情する中、他の光流の反応は少し違った。
「そのギルドを責める気にはなれないですね。僕も叡山さんの口から聞かなければ彼のスキルを信じませんから。」
「そうだね。まあ、最適ではなかったとはいえ、ギルドマスターとしてはギルドに不利益を与える人物は放っては置けない。私にはなんとなくだけど気持ちがわかる。」
「冷たいのう。お前さんらには思いやりっちゅうもんがないんか。」
普段から人を纏める立場の2人の発言に感情で行動するタイプの雅康が苦言を漏らす。
「私たちが昔の事を気にしても仕方ない。それに今はあれほど強くなっているのだ。いいギルドに出会えたのだろうな。」
「それもそうだ。『銀狼の牙』……か。今後が楽しみだね。」
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