第20話 無垢
どうして俺は気付かなかったんだ。
普通に考えたらわかる事じゃないか。
美玖ちゃんはランク2の冒険者。
ランクアップボーナスは既に獲得している筈だ。
だとしたら四面楚歌の他にあと一つ、スキルや魔法を持っていないとおかしい。
だけどどうしてだ?
なんで美玖ちゃんは俺に教えてくれなかった?
ギルドメンバーだからといって手の内を全て曝け出す様な真似をしろとは思わないが、彼女が隠すようなタイプには見えなかった。
演技……なのか?わからない。
俺が悩んでる様子を見て叡山は何かを察し口を挟んだ。
「言っておくが金川くんに悪意はない。恐らく彼女は自分の力を理解していない……いや、スキルの影響で本人すらも忘れているのかも知れない。」
悪意はない…それに本人の記憶がなくなるスキルだと?
その上で叡山が欲しがる力を持っている。
記憶を代償に強大な力を放つスキルなのか?
だめだ。考えてもわからない。
「教えてくれ。美玖ちゃんのスキルってなんだ?」
「金川くんのスキルは『
1日でランクアップしただと?
一体、どれほどのモンスターを倒せばそれ程のレベルアップが可能なんだ?
「私も人伝てに聞いただけだが、純真無垢は光を放ち、その光を浴びた敵を消滅させる力だそうだ。」
「なるほどな。だから光の魔導書を美玖ちゃんに…」
『純真無垢』が光属性の魔法にあたる部類のスキルなら、他の光属性魔法を覚える事で多少のコントロールが効くようになる可能性がある。
「その通りだ。それとついでに教えておくが、金川くんは純真無垢を使用した後、1週間寝込んだ。目が覚めた時には自身がダンジョンに潜った記憶も失くしていた。もし、仮に彼女がまた純真無垢を使えばどういう影響が出るかわからない。気を付けて見てあげて欲しい。」
そう伝える叡山の顔はまるで父親の様な優しげな表情をしていた。
なんで美玖ちゃんを気にかけているのかと思えば…
叡山は叡山なりに自身のギルドメンバーと向き合っていただけなんだろうな。
精神的にも未熟でまだ幼い少女が強力な力を持ってしまったから、誰かに迷惑がかかる前に自分のギルドに戻って欲しかった。
ただそれだけだ。
まだ数回しか会っていないけど、俺にはこいつが悪人だとは思えない。
性格は決してよくないが、何百人もの団員を纏めるギルドマスターならそれくらい思慮深くなくては務まらない。
片桐叡山は信用出来る人間だ。
「ああ、しっかり見守っておくよ。」
本を受け取り、用事を終えた俺は闘技場を後にしようとするが、出口直前で叡山に呼び止められる。
「進、君さえ良ければ私のギルドに来ないか?君になら幹部の席を用意出来るよ。」
全く、呼び止めてまで何を言うかと思えば…
「行かねーよ。それに、俺はランク2だ。そんな奴が大手ギルドの幹部だなんて冗談も大概にしろよ。じゃあ、またな。」
背中を向けたまま叡山に手を振り、俺は闘技場を出て行った。
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