第19話 もう一つのスキル

 前山進VS山岸隆二

 2人の戦いは進の勝利で幕を閉じた。


 戦いを終えた進の元に叡山が歩み寄って来る。


「実に素晴らしい戦いだったよ。良いものを見れた。ところで…君が使ったスキルだが、あれは『神出鬼没』かい?」


 確信的な笑みを浮かべ問いかけて来る。


 やっぱり気付かれたか。

 こいつがこの決闘を仕組んだのもあの日俺が見せたワープ能力の真意を探る為に違いない。


 元々、俺の神出奇没は『叡智の女神』ギルドメンバーが所有していたスキルだ。

 その事をギルドマスターであるこいつが知らない訳がない。

 似通った……というより、叡山から見たら全く同じスキルだろう。そんなものを使う人間を見つけたら気にしない方がおかしい。

 良くも悪くも目をつけられてしまったか…

 あの時は美玖ちゃんを一刻も早くこのギルドから出してあげたかったからスキルを使ったけど、もう少し考えて行動するべきだったなぁ。


 過ぎた事を悔やんでも仕方ない。

 片桐叡山は食えない男だ。

 大事なスキルの情報を簡単に教える訳にはいかない。


 因みに俺が叡山を倒したからくりは単純。

 俺は三位一体が当たる直前、神出奇没を発動して攻撃から逃れていた。

 事前に投げたナイフは神出奇没を発動させる為のマーキングだ。


「さあな。お前が何を想像してるかは知らないけど、あれはお前が知ってるスキルじゃないよ。」


 嘘はついてない。

 全て真実を伝えた。


 片桐叡山が言っていたのは『神出鬼没』、俺が使っているスキルは『神出没』だ。

 スキルの効力違うし、便宜上は別物の扱いだろう。


「ふむ…嘘ではない様だが、何か隠してはいるね。まあ良いだろう。そもそも私と君とは別のギルドの者同士。スキルを教え合う必要はない。」


 俺の思惑を見透かしていながらも敢えて深く追求はして来ない。それは恐らくこれ以上問いただしたところで無駄だというのがわかっているからだろうな。

 つくづく頭のいい男だ。


「そういう事。そんな事より、報酬はちゃんと準備してあるんだろうな?」


「勿論だとも。こちらが約束の金額だ。」


 少しだけ膨らんだ茶封筒を手渡される。

 中身を取り出し確認すると約束通り、10万円が入っていた。


「後これも受け取って欲しい。元々、これを渡したくて君を呼んだんだ。」


 そう言って渡して来たのは1冊の本。


「なんだ、これ?魔導書か?」


 魔導書とはその名の通り、魔法の使い方が記された本だ。

 しかし、その効力は非常に微妙なもので別に読んだからといって魔法が使えるようになるわけでもない。

 まだスキルが詳しく解明される前は活躍していたそうだが、現代では廃れた品物。

 ランクアップボーナスやスキルによっては魔法の力を扱えることが判明してからは魔導書を読む者などいない。


「それは光属性の魔法が記された魔導書だ。元々、金川くんにあげようと思っていたのだが…君の方に行ってしまったので渡しそびれていた。」


「ああ、美玖ちゃんにね。まあ、預かっとくけどいいのか?もうギルドメンバーじゃないんだから渡す必要ないだろう。」


「いいんだ。どうせ読む者など誰もいない。それに、そこに記された魔法は彼女にしか扱えない。私が持ってる意味などないよ。」


 叡山の言葉が気にかかる。


 美玖ちゃんにしか使えない?

 一体、どういうことだ?

 前々から気になっていたが、叡山は美玖ちゃんの事を異様に気にかけている。

 わざわざ自分のギルドに連れ戻そうとしたり、今回の件もそうだ。

 他ギルドである俺らに力添えをするような真似、本来ならする筈がない。


「……なあ、気になってたんだが、なんでそんなに美玖ちゃんを気にする?あの子に何があるっていうんだ?」


「——驚いた。君なら理解していると思っていたが……もしかして彼女から何も聞いていないのか?彼女のスキルの事も。」


「スキルなら知ってる。四面楚歌だろ。それがなんだっていうんだ。」


『四面楚歌』

 使い方次第では非常に強力なスキルだという事は理解出来る。だが、これに叡山がそれほど興味を示すとは思えない。

 言い方は悪いが、四面楚歌を超えるスキルなどいくらでも存在する。


「そちらではない。だ。」

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