第16話 ガラスの向こう

 片桐叡山side


 闘技場の最上部にある一室。

 ガラス張りの窓から2人の戦いを観察していると何者かが部屋の中に入って来た。

 私は背を向けたまま、彼らに語りかける。


「君たちを呼んだつもりはないが……どうして此処に?」


「そう堅いことを言わんで下さい。俺らもあんたが気にしとるっちゅう男を見とうなったとですたい。」


 八尋雅康やひろまさやす

 訛りの強い話し方が特徴の男だ。

 常に無邪気な笑みを浮かべていて、今も食いつくように2人の戦いを観戦している。


「クエストも終わって暇だったのでな。近頃はこのギルドの風紀も悪くなって来ている。私が躾けてやろうと思っていたら見知らぬ男に先を越された。ならばせめて行く末だけでも見ようと思ったまでだ。」


 久々利莉音くくりりおん

 160後半の長身にすらっとしたモデル体型。

 女性の理想ともいえるスタイルと美貌を持つ女性。


「へえ、結構善戦してますね。隆二は若手の中じゃトップなのに……あの人、どのギルドメンバーですか?」


 阿頼耶光流あらやみつる

 金髪碧眼の美少年。

『神童』の二つ名を持っており、全冒険者最強候補の一人だ。


 彼の視線の先には2人が剣を打ち合う姿が映っている。

 両者の実力は互角。

 力は隆二の方が上だが進はそれをカバーする様に剣技で補っている。


「あの男、なかなか出来るな。近頃はレベルアップすると自然と強くなれるので技を磨かん奴が多過ぎる。その点、あの男は太刀筋に努力が見える。素晴らしい。」


「へえ、莉音が人を褒めるなんて珍しい。彼を気に入ったのかい?」


「まあな。ああいう努力出来る人間は尊敬に値する。同じ人間として敬意を払わねば。」


 そんな雑談を交わしていると、どうやら戦況に変化が起き始めた様だ。


 進展しない状況に我慢の限界が来たのか、隆二が遂にスキルを発動させた。


 隆二の周りに炎・水・雷の塊が漂う。

 それを見た光流が少し険しい顔になる。


「マズイな。隆二のスキルは『三位一体』。

 異なる三属性を一つに合体させる事で爆発的に威力を増幅させた魔法を放つスキルだ。

 あのままでは彼が耐えきれない。」


 慌てて決闘を止めに行こうとする光流の手を掴む。


「叡山さん⁉︎何をしてるんですか、急がないと彼が!」


 抵抗するがびくとも動かない。

 叡山の顔は真剣そのものだ。


「見ておくと良い。面白いものが見れると思うよ。」


 そう言って軽く微笑みと掴んでいた手を離し、元いた場所に戻り一人観戦を再開する。


 あまりの落ち着き様に、その場にいた3人もまた彼と同じ様に2人の戦いを見守る事にした。

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