第11話 叡智の女神
スキルを作り始めてどれくらいの時間が経っただろうか。
俺は漸くワープスキルを完成させる事が出来た。
よし、後はこれが上手くいけば美玖ちゃんの元に行ける。
ワープスキルに与えた条件はワープ先は俺の私物がある場所にしか飛べないというもの。
なぜこうなったのかといえば、単純に他の条件では換骨奪胎の条件を満たさなかったからだ。
この場から出る方法を考える上でワープ先は非常に重要だ。最初は自分が今まで行った事のある場所などでチャレンジしていたが全て却下された。これは俺の勘だが本来のスキルである神出鬼没もワープの条件がそれなりに厳しいのだろう。
換骨奪胎、便利なスキルではあるが劣化版になる可能性が非常に高いスキルだ。
それに一度作ったスキルを元にもう一度作り直す事は出来ないらしい。
中々に使いどころが難しいスキルだ。
折れた剣の代わりにバッグから短剣を取り出し腰につける。
これで準備は整った。
オーク戦でのダメージも回復している。
美玖ちゃんが今持ってる弓は元々俺が持っていた物を貸し与えているだけ。
あの弓はまだ俺の私物だ。
ここから出たら美玖ちゃんの元に辿り着く。
最悪、あいつらと戦闘になるかもしれない。
気を引き締めないとな。
自分で自分の両頬を叩き気合いを入れる。
よし!行くぞ!
俺は『神出鬼没』改め『神出奇没』を発動させた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
これは——部屋…?
ワープ先の光景は特に何の飾り気もない部屋。広さはそれなりにあり、窓際に置かれた机には一人の男性が手を組み座っている。
その男性は俺を見て少し驚いた顔をしていたものの、すぐに平静を取り戻した。
「君は誰だ?一体どこから入って来た。」
「これには色々事情があってね。それより…この辺に金川美玖って子がいないか?彼女を探してるんだ。」
「金川くんなら君の隣だ。」
男性が指差す方を見るとそこにはオバケでも見たかのような目で俺を見る美玖ちゃんの姿があった。
「進さん……生きてたんですね。」
「まあ、なんとかね。それより早くギルドに帰ろう。いつあいつらが襲ってくるかわからないし。」
彼女の手を引きこの場を去ろうとするが、どうにも美玖ちゃんは動こうとしない。
「美玖ちゃん?一緒に帰ろう。」
しかし彼女はずっと俯いており、何も声を発してくれない。
「そうか。君が金川くんの新しいギルドメンバーか。彼女が世話になったね。だけど彼女は私のギルドに戻ってくるという事で先程話がついた。お取き引り願えないかな。」
にこやかに丁寧な言葉遣いで語り掛けてくる。
はっきり言って胡散臭い。
別に悪い奴だとかそういう感じじゃないが、どうにも信用出来ない。
そんな感じがする。
「はいそうですかっていう訳ないだろ。こっちはさっきまであんたのギルドメンバーのせいで散々な目に遭ったんだ。あんな奴のいる所に美玖ちゃんを任せれる筈がない。」
「ああ、彼らか。彼らなら既に警察に引き渡している。君には大変な思いをさせたね。
だがこれに関しては完全に彼らの独断だ。
その上、この事件が起きる前に私のギルドから除名している。私に責任は一切ないよ。」
こいつ…何が起きるかある程度想定した上であいつらを放置してやがったな。
しかも何があったか知ってるって事は俺が死ぬかもしれなかったのにそれを見過ごしてたって訳だ。益々信用出来ない。
「別にお前を責める気はない。こうして生き残れたし収穫もあった。だけど美玖ちゃんは返して貰う。彼女はうちのギルドメンバーなんでね。」
一歩も退くつもりはない。
俺は美玖ちゃんに話しかける事にした。
選ぶのは——彼女だ。
「美玖ちゃん、自分が行きたいギルドを選ぶんだ。決定権は美玖ちゃんが持ってるんだから。」
ギルドを抜けるのも、別のギルドに入るのも本人の自由。
俺たちがどれだけ争おうと美玖ちゃんが全てを決める権利を持っている。
彼女は内気だから周りに流されてしまう。
あの男はそれを利用してこのギルドに彼女を戻そうとしてるだけ。
美玖ちゃんの一言で全てが決まる。
暫くの間、無言の状態が続いた。
誰も話さない。
ただ、彼女が答えを出すのを待っていた。
そして遂に、美玖ちゃんが口を開いた。
「わ…私は……『銀狼の牙』に戻りたい…です……」
小さな声だが確かに聞こえた。
「聞いたか。美玖ちゃんは返して貰うぞ。」
「仕方ないな。金川くんがそういうのであれば私が口出し出来る事ではないからね。」
俺は美玖ちゃんの手を握り神出奇没を発動させようとする。
「最後に君の名を聞いてもいいかな。君に興味が湧いて来た。」
「銀狼の牙所属、前山進だ。」
「そうか。私は
その会話を最後に、俺と金城さんはその場から消えた。
一人残った部屋の中で叡山はポツリと呟く。
「今のスキルは『神出鬼没』。前山進か……面白い。」
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