第8話 ランクアップボーナス

 蹴り飛ばされた反動で地面に数回バウンドしながらも何とか受け身を取る。


 倒れてなんかいられない。

 一瞬でも気を抜けば死ぬ。

 そんな状況だからだ。


 ざっと見渡すと大半のモンスターには見覚えがある。

 1階層から3階層までで出会う程度のモンスターばかりだ。


 当然といえば当然か。

 モンスターを捕獲するなんて芸当は普通に討伐するよりも遥かに難しい。

 俺の見立てだと奴らはランク2後半の冒険者だ。せいぜい6〜7階層の実力。

 安全圏で捕まえれるモンスターは俺でも勝てるような奴らに限られて来る。


 まずは数を減らす事が先決。


 そう考えた俺は近くにいたゴブリンに斬りかかる。

 出来る限り一太刀で終わらせれるよう首を狙って。


 ゴブリンの首が落ちる。


 よし!いけるぞ。

 この調子なら何とかなりそうだ。


 この時の俺は忘れていた。

 俺には人より大きなハンデがある事を。


 丁度半分くらい倒しただろうか。

 その時は突然訪れた。


『経験値が集まった為レベルアップします。』


 頭の中に響く声。

 何度も聞いたレベルアップの合図だ。


 ——しまった!

 このレベルアップで三進二退の発動条件が整った。

 俺のレベルが下がってしまう。


 今までの感覚からすると1レベル下がるだけでもそれなりに身体能力が下がってしまう。

 普段なら調整して弱いモンスターと戦うが、今はそんな事言ってられる状況じゃない。

 この状況において、レベルダウンは命取りだ。


『レベル10に到達しました。ランクアップボーナスとして【一石二鳥】を差し上げます。』


 そうか。

 レベル10になったからランクアップしたんだ。

 ん?ちょっと待てよ。

 ランクアップしたら俺のレベルはどうなるんだ?


 基本的に各ランクごとにレベルは1〜10まで。

 レベル10に到達すると同時にランクアップしレベルは1に戻る。

 つまり俺は今、ランク2のレベル1という扱いの筈だが三進二退は発動するのか?


 その答えはすぐにわかった。


『スキル【三進二退】発動。レベル10から8に下がります。』


 ランクアップしてもレベルはしっかり下がんのかよ。

 最悪の状況だな。


 この時はまだ気付いていなかった。

 ランクアップボーナスが残ったままだという事に。


 鈍くなった体を無理矢理動かし戦い続ける。

 動き続けなければそこで死ぬ。

 ただ死にたくない一心で無我夢中に剣を振り続けた。


『経験値が集まった為レベルアップします。』


 それはそこから更に10体ほど倒した時だった。

 通常ではありえない速さでレベルアップの合図が聞こえる。


 空耳かとも思ったが体が軽い。

 数分前の自分に戻ったみたいだ。

 これは明らかにレベル9の体。


 どうしてこんなに早く…そうか!さっき貰ったランクアップボーナスのお陰か。


 一石二鳥、このスキルの効果はモンスターを1体倒す度に2体分の経験値を得られるというもの。単純に2倍の経験値が得られる能力。

 俺にとって最高のスキルだ。


 これなら——いける!


 俺はモンスターとの戦闘経験が他の冒険者より遥かに多い。

 三進二退のせいで何度も何度も同じ敵と戦わなければいけなかったからだ。

 だが、その経験が今この場で活きている。

 戦い過ぎて敵の行動パターンに反射で反応出来るようにまでなっていた俺は、50体のモンスターに囲まれようとも全ての攻撃を躱せるくらいに動けていた。

 1〜3階層までのモンスターとは何度も戦っている。こんな奴ら、敵じゃない。


 遂に残るモンスターは1体となる。

 2メートルはある巨体に緑の肌、そして手には大きな斧を握っている。

 間違いない。

 奴は5階層以降に出て来るモンスター、オークだ。


『経験値が集まった為レベルアップします。

 レベル10に到達しました。ランクアップボーナスとして【起死回生】を差し上げます。』


 頭に流れるスキルの説明を聞きながら、目の前に敵に集中する。

 オークは5階層以降に現れる化け物。

 気を抜いたら——死ぬ。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 前山進

 年齢 25歳

 所属ギルド 【銀狼の牙】

 固有スキル 『三進二退』『一石二鳥』

『起死回生』

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