第7話 神出鬼没

 美玖ちゃんが銀狼の牙に加入して2週間。

 俺たちは順調にダンジョンを攻略していた。


 現在はダンジョンの3階層にいる。

 今日の目的はモンスターウルフ。

 狼型のモンスターで素早い動きと鋭利な牙が厄介なモンスターだ。


 木の上から矢が放たれる。

 躱されてはいるが目的は当てる事ではない。

 草陰に身を潜めてる俺の元まで誘導するのが目的だ。


 徐々に俺とモンスターウルフの距離が縮まる。


 後少し……今だ!!


 突如姿を表した俺になす術も首を断ち切られる。




 砕け散った体からアイテムを回収する。

 落ちてたアイテムは『魔狼の毛皮』だ。

 これはラッキーだな。

 防具の素材にもなるし、それなりに良い値段で売れるぞ。


「よし!順調順調。美玖ちゃんもだいぶ上手くなったね。」


「そんな、進さんが教えてくれたお陰で……私なんかまだまだです。」


「そう?でも美玖ちゃんが家に来てから稼ぐも倍以上に増えたし、ほんとよかったよ。」


 美玖ちゃんが来る前の俺の稼ぎは月20万円ほどだった。

 しかし、彼女が来てから効率よく働く事ができ、この2週間ですでに20万円を突破している。

 まあ、冒険者は武器や防具の購入に金がかかるのでこの程度の給料はまだまだなのだが、それでも嬉しいものは嬉しい。


「そういえば美玖ちゃんは最高で何階層まで行った事あるの?」


 モンスターウルフを倒した帰り道。

 ふと思いついた俺は何気なく彼女にそう語りかけた。


「そうですね…6階層までは行った事がありますよ。何も出来ませんでしたけど。」


「へぇ〜6階層っていったらどんなモンスターが出るんだっけ?確か5階層を超えた辺りから人型が出て来るって聞いたんだけど…」


 モンスターは一般的に人に近ければ近いほど、知能が高く強いとされている。


「私が見た事あるのはオークくらいですけど…あれは強そうでした。メンバーで一番の力持ちだった人がパワーで押されてたので。」


 オーク。

 人型で最も知能が低いとされるゴブリン。

 そのゴブリンを統率しているのがオークと言われている。

 獰猛かつ凶悪でパワーが持ち味のモンスターだ。


「そうなんだ。今の俺たちが出会ったら一溜りも無さそうだね。」


 何気ない会話のつもりだった。

 まさかあんな事になるなんてこの時に俺は思いもしなかった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ギルドに戻る為に2階層へ行こうとしていると、上層へ登る階段に3名の男が立っていた。


 ダンジョン内で他の冒険者と出会う事など珍しくも何ともない。

 軽く会釈をして横を通り過ぎようとしたその時、美玖ちゃんの肩が掴まれる。


「や…やだ。離して下さい。」


 そう抗議するも一向に彼女を離す気配はない。


「おい!いい加減にしろよ!」


 俺は肩を掴んでいる手を引き離そうとするがびくともしない。


 こいつ——なんて力だ。


 男は俺の事など気にも止めず、美玖ちゃんに話しかけた。


「クソ女が…テメエのせいで俺たちはあのギルドを脱退させられたんだぞ。この責任、どうしてくれんだ。」


 何を言ってるんだこいつは…


 人違いじゃないのか?

 そう思ったがどうやら違うみたいだ。


「ま……正嗣まさつぐさん。それに皆さんまで……」


 知り合いなのか。

 だとしたらこいつらは前にギルドでのパーティメンバーたち。

 だがなぜこんな真似を。


「マスターがテメエを連れ戻すまで俺たちは除名だとか抜かしやがったんだ。どうかしてると思わねえか?テメエ如きのせいで俺達の経歴に傷が出来てしまったじゃねえか!」


 男が美玖ちゃんを壁に叩き付ける。


 この野郎!


 俺は剣を抜き、2人に間に入るが最も簡単に弾き飛ばされてしまう。


「何だ、この雑魚は。テメエこんなんと手ぇ組んでんのか?」


 俺の手をぐりぐりと踏みつけて来る。


「やめて!戻るから…ギルドに戻るから進さんには手を出さないで下さい。」


 美玖ちゃんが泣きながらそう訴える。

 男は口角をあげニヤリと笑った。


 嫌な予感がする。


 美玖ちゃんに伝えたいが声が出ない。

 恐らく奴が次に取る行動は——


「こいつがそんなに大事か?いいぜ、手は出さないでいてやるよ。……手はなぁ。」


 その瞬間、まるで打ち合わせでもしていたかのように残り2人が動き出す。


 1人が美玖ちゃんの体を拘束し、もう一人は何やらスキルを発動している。

 男が何もない空間に円を描くと、円の向こうにモンスターの大群が現れた。


「固有スキル『神出鬼没』。空間と空間を繋げるいわばワープのようなスキルだ。この向こうには俺らが集めたモンスターがいる。

 数にしてざっと50体。本当は金川に使おうと思ってたが、テメエが死ぬところを見せんのも面白そうだ。」


「や……やめ…ろ…」


 振り絞った声も虚しく、俺はモンスターの群れへと消えて行く。


「約束通り、手は出してねえぜ。」


「—————!!!!」


 美玖の声にならない声が響いた。

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