第6話 辿り着くまで
金川美玖side
あぁ…またやっちゃったなぁ。
私は落ち込んでいた。
前のギルドでは私のスキルが原因で沢山の人を怒らせてしまった。
『経験値泥棒』
陰で私はそう呼ばれていた。
スキルの相性を元にギルドが指定したメンバーでダンジョンに潜っていたけど私はいつも護って貰ってばかり。
その上、会話もまともに出来ない。
人と話すのは緊張しちゃうから…
会話も出来ずみんなの後ろを歩くだけの私。
そんな私にとうとう愛想を尽かしたメンバーはチームの解散を上に申し出た。
当然だ。
何もしてないのにレベルだけは上がって行く。
そんな私を見ていい気はしないだろう。
居た堪れなくなった私はギルドを脱退する旨を書き置きして逃げ出した。
これからどうしよう。
私の家は貧乏だ。
物心ついた時からお父さんはいないしお母さんは偶にしか帰って来ない。
帰って来たと思えば菓子パンを大量に置いてまた消える。
時には男の人を連れ込み、私の存在がその人にバレないように隠して部屋で何かをしていた。
後から知った事だけど、お母さんは夜の仕事をしていたらしい。
私は客との間に出来た子供。
お父さんは私が産まれる直前で逃げ出してしまった。
お母さんは私に暴力を振るうことはなかったけど、特に愛情を注がれた記憶もない。
私はその時から人と会話をするのが苦手だった。
誰とも話す機会がなかったからだろうか。
何が影響してるのかはわからないけど兎に角苦手で一日中テレビを見たり、家にあった本を読んだりしてた。
成長してもそれは変わらず、私は優柔不断で引っ込み思案の自己主張が出来ない女の子になってしまった。
友達はいない。
話しかけてくれた子は何人もいたけど、私が返事を出来なかったせいでみんな離れてしまった。
多少は話せるようになったつもりだけど、まだ全然ダメだ。
アルバイトの面接でさえ受かった事がない。
そんな私が働ける場所は冒険者しかなかった。
お母さんがとうとう体を壊して入院した。
私が働かないといけない。
仮にも育ててくれた恩がある。
私がお金を稼がないと……
そんなこんなでギルドを抜けた私が街を徘徊していると知らない男の人に声をかけられた。
『銀狼の牙』?っていうギルドのマスターらしくフリーなら入らないかとのお誘いだ。
言葉を返せなかった私を彼は半ば無理矢理引っ張って行った。
男性は本当にギルドマスターだったみたいで他にも後一人メンバーがいた。
歳上の男の人に囲まれるのは緊張するが他に行き先がないのも事実。
それになんとなくだが、この人たちなら大丈夫。
そんな気がした。
そして今、私は喜びに満ち溢れている。
進さんとダンジョンに潜りスライムと戦う事になり、そこで私は15分も時間をかけるという大失態を犯してしまった。
また見捨てられる。
そう思った私の予想は裏切られた。
何と進さんは私に手を差し出し、一緒にどうすれば私が上手く戦えるのか考えてくれた。
上手に話せない私に対し、進さんは話が終わるまでしっかりと待ってくれる。
優しいな。
今までこんな人はいなかった。
冒険者は血の気の多い人ばかりで短気だから、いっつも早く喋ろって怒られてばかりだった。
でも進さんは違う。
私の言葉をしっかりと受け止めてくれる。
進からしてみれば何気ない行動だったかもしれない。
だが言動が人知れず美玖の心を動かしていた事を彼はまだ知らない。
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