第5話 マナー違反
目の前で繰り広げられる戦いは……なんと言うか…その……酷いものだ。
震える手で短剣を握り、スライム目掛けて切り掛かる。
しかし目を瞑ってしまっているので当たる筈もなく短剣は空を切る。
スライムは体当たりで応戦している。
まあ、彼女のランクは2なのであの程度の攻撃はまるで効いてない。
ランク2だと5階層より下で戦えるレベルだ。
1階層のスライム程度、敵じゃない。
そろそろ援護した方がいいかなぁ。
そんな事を思いながら彼女の戦いを見守る。
あ、また空振った。
時間だけが過ぎて行く。
あれから15分くらい経っただろうか。
たまたま剣を振り下ろしたタイミングでスライムが体当たりをしてきたお陰で何とか1体目を倒す事に成功した。
1体で15分。
俺がいつも受けてるクエストがスライム10体の討伐だからざっと計算して2時間半。
これに移動時間を加えたら余裕で3時間は超えてしまう。
これなら俺がメインで戦った方がいいかもしれない。
そんな事を考えながら倒れている彼女に近付く。
疲れて腰を下ろしている美玖ちゃんに手を差し伸べると彼女はその手を取り起き上がった。
「お疲れ様。援護しなくてごめんね。1人で大丈夫かなって思って。そんなに戦闘経験はないのかな?」
「私、戦うのがまだ少し怖くて……特に目の前に迫って来られると目を閉じてしまうんです。こんなんじゃダメだってわかってるんですけど……」
俺も長年冒険者をやってる身だ。
モンスターが怖い。
そういう奴とは何人も会ってきた。
モンスターを怖がる奴の特徴は2つ。
モンスターとの戦闘で重傷を負い、トラウマになったパターン。
そして、そもそもの性格上争い事に向いていないパターン。
このどちらかだ。
美玖ちゃんは明らかに後者。
彼女はどう見ても普通に女の子だ。
何で冒険者なんかやってるのか不思議で仕方ないくらいだ。
だが、あの歳の女の子が冒険者になるという選択をしているという事は何かしらの事情があるに違いない。
詳しく詮索するのはマナー違反だ。
冒険者になる奴の殆どが一攫千金を夢見てここ場所に辿り着いている。
俺もその一人だからわかる。
要は、手っ取り早く楽して稼ぎたいのだ。
冒険者に資格は必要ない。
やりたい奴がギルドに入り、ステータスの恩恵を貰って戦う。
必要なのは契約書にサインする為の印鑑だけ。
こんな仕事を選ぶ奴はまともじゃない。
みんな何かを抱えて生きている。
恐らく彼女もその一人。
あの年頃の女の子だと親の借金か何かだろう。
大変だろうが口出ししてはいけない。
俺に出来るのは彼女と共に働き、出来る限り収入を増やせるようクエストを沢山受ける事くらいだ。
「じゃあ弓でも使ってみる?これなら遠くから撃てるし怖くないかも。使い方は教えるからさ。」
「は…はい!あの…ありがとうございます!私、頑張ります!」
落ち込んでいた彼女の顔が少し明るくなった気がした。
声もさっきより出てる気がする。
少しだけ仲良くなれた気がした。
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