落ちるオブジェクト

鳩鳥九

第1話

正六面体が垂直方向に落下する


ここは心臓の内側で、絡繰り色を展開する透けるカードリッジ


すべからく滑るよう、吸い込まれるように白かかった窪みを目指す


ボクはその過程を見るだけで心が尖って、けれど楽しくなる


ストンと入るその瞬間を心待ちにしながら、


人懐っこいズボンを振って、束縛とは縁のない脚を出す


何もない広い地面の窪みにようやく、その正六面体は着地する


きっとこれが納まるべき心象風景だったのだ


地に足をつけた正六面体からは女の子が出てくるかもしれない


薄っぺらくて濃厚な最終回答が出てくるかもしれないし、


思想の偏りを許さない不動の天秤が零れ落ちるかもしれない


それならいいなとボクは思った。それなら多分、ワクワクするなと、


見上げても空、面白みのない普遍な空、でも空だ、空っぽじゃない


この正六面体はどこから落ちてきたのだろう


未確認飛行物体を追い落としてきたかのようなキューブ


抱え損ねた無機質を持て余すかのように、


模様の無い完成された正六面体


ボクはそこまで歩いたり、走ったり、駈け寄ったりして、触る。


冷たくて硬くて、時の移ろいとは普遍そうな、


賞味期限の無さそうな正六面体だ


ボクはそれを眺めていた。多分、どうだろう


落ち着くからかもしれない


心を無理に揺れ動かさないボクを内包してくれているかのような、


そんな硬さと柔らかさを両立するかのような落ち着きに、


ボクはいい意味で、ため息を吐き潰したのである。






愛でたし、愛でたし

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落ちるオブジェクト 鳩鳥九 @hattotorikku

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