俺の相棒?

 ――――チラッ。


 黒くつやつやとした毛並みに、丸くふにふにと柔らかそうな丸い前足。

 ふわっふわの毛並みの右耳をピンと立て、ぐるりと大きな右目をじっとこちらへ向けてくる一匹のケモノ。

 鳴き声は、『ニッ』という低い声を一言奏でるだけ。

 長い尻尾はついてなさそうだが、前に半身の後ろ姿を見た時に短く、くるりと丸まっている尻尾のようなものが見えた。


 たぶん、猫。おそらく。

 あくまで推測の域を出ないが。

 何故なら、全身を見たことがないから。


 いつも店の奥にあるプライベートスペースの壁際から、右半身だけをチラリと覗かせるだけのそのケモノ。

 来店客が来ない時間を見計らって、『ニッ』という鳴き声を奏で、俺にエサをねだってくる。

 そのくせ、俺が近づこうとものならサッとどこかへ姿を隠してしまう。

 気分屋なのか、余程の恥ずかしがり屋なのか。

 とにかく、そいつが安心して食にありつけるように、エサを入れた猫用のフードボウルをプライベートスペースに置いたら仕切りを閉めるようにしている。

 だから、俺はこのケモノの全体像を把握したこともなければ、あのふわっふわな毛並みを撫でたこともない。

 自由気ままにチラッと顔を覗かせ、あっという間に何処かへと消えてしまうあのケモノ。

 俺は勝手に、アイツのことを『チラットさん』と呼んでいる。


 ――――チラッ。


「ニッ」

「ちょっと待っててな。今、準備するから」


 相棒と呼べるのかどうかもわからない、一匹のケモノとの短い会話。

 でも俺は、この『チラットさん』との日々のやり取りを結構気に入っているんだよな。




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