俺の食い物

「う〜ん。今回のブツはイマイチ。旨味が最後まで残らなかったな」




 現在の時刻は、午後10時50分。

 今日は午前中に一名来店があったのみ。

 なので一日のほぼ大半を、カウンターテーブルに両肘をつき、コロコロと口の中でアメ玉を転がして過ごすだけとなっていた。

 別に、甘い物が好きってわけじゃないぜ。

 これは、非常食。


 俺の場合、生命を維持するために必要なものは人間が食っているような食料ものではない。

 俺に必要なのは『頭の中で思い描かれた想像物』、つまり客が売ってくる空想が生命線となっているのだ。

 なので、売られたブツは他へ売り払うのではなく、そのまま俺が食ってしまうというわけ。 


『空想=食想(くうそう)』ってな。


 で、今俺が舐めているのは非常食用のものだ。

 客から買い取った空想はその場ですぐに食べることもあれば、立て続けに来店客があった時は買い取った全てのものをすぐに腹に入れることは出来ないため、特殊な装置を使って空想を凝縮する。

 凝縮するとアメ玉サイズ程に小さくなるため、それを大きめのガラス瓶に入れ、依頼がこなかった時用の飢えを満たす非常食にしている。

 まあ、基本は買い取ったらすぐに『食想くうそう』するのがベター。

 なんたって、新鮮なブツの方が味の引き立ちが抜群だからな。


 ちなみに、糖度が高く旨味が強いものはポジティブな感情から作られた空想のものが多い。

 ネガティブな感情から作られた空想も買い取るが、これは正直不味い、ってか激渋。苦味が口の中に物凄く強く残る。

 俺の店での買い取り基準は糖度が高いことが第一条件なため、ネガティブな感情から作られたブツの買い取り価格は、大幅プライスダウンしてしまうしてしまう。

 基本的にはポジティブな感情から作られたアメ玉を食べるが、食うもんが無くなった場合は仕方ねーからネガティブな感情で作られたもの、不味いアメ玉で我慢している。

 体にはあんま良くねーんだけどな。





 ――――チラッ。


 おっ? そろそろ飯の時間か?


 ああ、俺のことじゃなくて、俺の相棒……と言っていいのか、この店に住み着いているケモノのためにエサの準備をする時間のようだ。

 ちょっと、待っててくれよな。


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