その12 守りの力

 レナードは残された力を振り絞って

カイルとドロシーの間に入る。


 そして自分でもほとんど使っていない力に

最後の希望を託した。



「どうかみんなを守れる力であって!

《ソリッド・アウート》!」



 レナードが叫んだ瞬間、彼の体は

緑色の光に包み込まれる。


 そしてその直後、カイルから再び放たれた風の刃が

彼の背中に直撃してしまう。


 目を瞑っていたドロシーは、

鋭い音が聞こえてきたにもかかわらず

予期していた痛みも衝撃も来ていないことに気付く


 そして恐る恐る目を開け、目の前にいるレナードを見て

事態を把握した。



「な、何が起こったんだ・・・? あ・・・!

れ・・・、レナード君!? そんな、私をかばうなんて・・・!

しっかりしてくれ、傷は・・・!」



 自分が助けられたことを理解すると共に、

助けてくれた本人が危険な状態だと悟って慌てて背中を確認する。


 しかしそこには傷など一切なく

せいぜい服が汚れているだけであった。



「き、傷は・・・!? 傷は・・・、ない・・・?

ど、どういうことだい? 私をかばってくれたんだよね・・・?」


「は、はい・・・。 かばいました・・・。

その、直前に最後の祝福の力を使ったんです。」


「さ、最後の? 今までのとは違うということか・・・?」


「ええ。 僕も一回だけ試しに使ったぐらいで

きちんと力を把握してなかったんですが・・・、

どうやら体が頑丈になるみたいですね。」



 そう言うと、レナードは振り返って

カイルの方を睨みつける。


 一方のカイルは、相手がまだ倒れてすらいないことに

いくらか動揺していた。



(どういうことだ、あの小僧が割って入ったかと思えば

風の刃を背中で受けて無傷だと・・・? まさか・・・!?)



 冷静さを失いそうになりつつも、

ふたたび剣を握りしめて風の刃を放つ。


 レナードは手でそれを防ごうとするものの、

反応が遅れてまともに胴体で受け止めてしまった。


 しかし、衝撃で少しよろけた程度であり傷一つ付かない。



「やっぱり体が頑丈になってる・・・。

あとはもう、この力に最後の望みを託そう・・・!」



 レナードは覚悟を決めると相手に向かって歩き出す。


 走るだけの力が残っていなかったが、

結果的には敵に威圧感を与えていた。



「ぐ・・・、来るなっ!!」



 カイルは風の刃を何度も放つが、

その全てがレナードに命中したものの

わずかに歩みを止めるだけの結果となる。


 着実に近づいてくるレナードの存在は

敵を狼狽させ続けていた。



「くぅっ・・・! くそっ、こうなれば・・・!

防げるものなら防いでみろっ!」



 そしてとうとう剣の届く範囲まで近づいたところで、

カイルが鬼気迫る表情を見せながら切りかかる。


 今までとは比べ物にならない速さの一撃に、

レナードはほとんど反応できずに首筋を斬りつけられてしまう。


 しかし次の瞬間、鋭い金属の音が響いたかと思うと

振り下ろした刃の方が折れていた。



「な・・・、な・・・!?」


「はぁっ!!」



 動揺が隠せないカイルの顔面に、

レナードがすかさず拳をお見舞いする。


 ほとんど残ってない力を振り絞っての一撃だったにも関わらず、

敵はまるで大きな鉄塊で殴られたような衝撃を受け、その場に倒れてしまった。



「はぁ・・・、はぁ・・・、た、倒した・・・?

・・・さあ、ズィアークさんと言いましたね、

マイナさんたちを解放してください・・・!」



 相手が倒れたことでひとまず安心したレナードは、

すぐに高みの見物をしていたズィアークに要求をする。


 それまで余裕の笑みを浮かべていた老人は、

怒りの形相を露わにしていた。

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