その10 切り札

 "終末教"の本拠地に乗り込んだレナードたちは、

マイナたちを助けるべく戦いを始める。


 ルビーは多くの人間を相手取って一人立ち回っており、

そしてレナードとドロシーは親玉であるズィアークを守る人間の一人、

カイルと対峙していた。


 構えているだけでも分かる強敵の存在に、

レナードは気圧されそうになってしまう。



(まともに戦っていたらほとんど勝ち目はなさそうだ・・・。

でもルビーさんだっていつまで動き続けるか分からない・・・、

それにマイナさんを助けるためにはとにかくあのズィアークって人に近付かないと・・・!)



 レナードは深呼吸をすると

側にいるドロシーへ小声で話しかける。



「ドロシーさん、目の前にいる人はかなりの強さです。

恐らくまともに戦っては勝てません。

大きな隙があったら魔法で攻撃してください。」


「よ、よし、分かった・・・。 気を付けてくれ・・・。」


「もう魔法を撃つ力はほとんど残ってないんですよね?

確実に当てられると思ったときだけお願いします。

僕もできるだけやってみますので・・・。 では・・・!」



 レナードは剣を握り直すと地を蹴って駆け出し

カイルへ斬りつけた。


 しかし何度も剣を振るうものの、

攻撃は全て冷静に対処されてしまう。


 更には隙をつかれて反撃され、

鋭い突きがレナードの頬を掠めていた。


 咄嗟に距離を取ると、

レナードは頬を拭いながら体勢を整える。



「くっ・・・! やっぱり相当に強い・・・。

だけどたったこれだけで諦めてちゃだめだ・・・!



 レナードは自分を鼓舞しながら

再び敵に切りかかる。


 だが、やはりその攻撃は全て

緑色の刃に全て受け止められてしまった。



「くそっ・・・! 攻撃が通らない・・・!

どうする・・・? どうすれば・・・。」



 目の前に立ちはだかる格上の相手に、

早くも打つ手がなくなりそうになるレナード。


 頭の中で勝つ方法を必死に模索していたが、

それを遮るように敵が口を開いた。



「小僧、諦めろ。 それなりにできるつもりのようだが

お主ごときにやられはせんぞ。」


「そういう、わけにはいきません・・・。

みんなを助けるためにここまで来たんですから・・・!」


「ではそろそろ本気で行かせてもらおうか。

・・・ズィアーク様、この者は供物になりえませんね?

始末しても問題ないでしょうか?」


「うむ・・・。 そやつだけなら問題ない。

そちらの女は供物なりえる資質を持っている、

できるだけ傷つけるでないぞ?」


「承知しました・・・。 いざ・・・!」



 カイルは仰々しく返事をすると、

剣を両手で握り直して腕に力を込める。


 そしてその場で振り下ろしたかと思うと、

風が吹き荒れる音と共に風の刃が飛び出した。


 レナードは咄嗟に剣を構えて防御したものの、

刃を防ぎきれずに手傷を負ってしまう。



「うわっ・・・!? ぐっ・・・、

い、今のは一体・・・!」


「レナード君、大丈夫か!? 傷が・・・!」


「大したことはありません・・・。

でも今の攻撃は・・・。」


「あれも恐らく秘宝の一種だ・・・。

魔法が使えずともああして刃を飛ばせるのだろう・・・。」


「そんなものが・・・。 今のはなんとか防げたけど、

あんなものを何度も使われたら・・・。」



 実力で勝る相手が更に強力な武器を使っているという事実に、

レナードは少しずつ追い詰められる。


 レナードが再び武器を構えると、

相手もまた先ほどと同じように武器を構えた。



「よく防いだな、小僧。 しかし幸運はそう何度も続かんぞ?」


「ええ・・・。 何度も防げるとは思っていません。

だから、その前にこちらから行きます・・・!」


「ほほう、私に風の刃を出させないつもりか?

その傷を負った体で先ほどのように動けるものならやってみるがいい。」



 飛び掛かる準備をしながら、

頭の中である決意を、『祝福』を使う決意をするレナード。


 相手は挑発するような口ぶりではあったが、

その構えから油断していないことは明白だった。


 それでも、ここで退くわけににはいかず

レナードが大声で言い放つ。



「《イヴェイユ・アウート》!」



 レナードの体から、まばゆい光が放たれる・・・!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る