第五話 その1 ルビーのアジト

 ムルの町を騒がせていたおっぱい怪盗ことルビー、

彼女の悩みを解決するべく

レナードたちは彼女のアジトを目指して進んでいた。


 しかし、出発が夕暮れだったため

だんだんと周囲は薄暗くなっていく。



「あの、ルビーさん、もう陽が沈みかかってるんですけど、

どのくらい歩けばいいんですか?」


「今からでも夜にはなんとかたどり着けるはずよ。

月明りを頼りに進めば問題ないわ。」


「ということは、そのアジトで一晩明かすことになりそうね。

宿の人が心配してないかしら・・・。」


「宿はまあ、できたら後で謝るとして・・・。

森の方へ進んでるけど森を進むのかい?

生憎と、こっちは暗い中に歩き続けた経験がないんだよ。」


「冒険者ならそのぐらいできなきゃダメよ?

モンスターの活動が収まってくるこの時間こそ

危険な場所を進む絶好のチャンスなんだから。」


「あの・・・、もしかしてルビーさんって

冒険者なんですか?」


「ええ・・・。 "元"冒険者だけど。

昔は養成所の同期でパーティを組んでたわ。

胸が大きくなってからはバレるのが怖くてやめちゃったの。」


「もしかして、この秘宝もその時に?」


「まあね。 それより足元に気を付けなさい。

森の中はもっと暗くなるんだから。」


「ちょっと不安ね・・・。 置いてかれたら怖いわ・・・。

レナード君、手を繋いでもらっていい・・・?」


「えっ? あ、はい・・・。」



 ほとんど苦も無く前を進むルビーに対し、

レナードたちは歩きにくい道に苦戦しながら進んでいく。


 その間、なんとなく会話が途切れないように

三人はルビーへ声をかけていた。



「ねえ、ルビーさん・・・、ルビーって呼んでいい?」


「・・・まあ、かまわないわよ。」


「じゃあルビー、ずっと聞きたかったんだけど、

あなた怪盗やってたときと話し方が違わない?」


「あんなの演技に決まってるでしょ、

巨乳というだけの理由で私たちを迫害する

町の人間たちに対する挑発よ。」


「それでおっぱい怪盗か、なるほどねえ。

やり返したくなる気持ちは分かるけど、盗みを働くのは

少しやりすぎじゃないかい? ルビー。」


「・・・あんたには呼び捨てを許した覚えはないけど、まあいいわ。

それに全部がささやかな復讐ってわけじゃないわよ。

ちゃんと、って言うのも変だけど理由があるんだから。」


「どんな理由なんですか?

今から行くアジトに関係が?」


「ある、とだけ言っておくわ。 さあ、もう少し先だから

まだ歩いてもらうわよ。」



 四人はどんどん森の奥深くへ入っていく。


 そうしてしばらく歩いていたところで、

ふとレナードがルビーへ質問をしていた。



「そういえばルビーさんは元冒険者さんなんですよね?

僕たちみたいに旅をしていたんですか?」


「いいえ、私はもっぱらダンジョン探索をしていたわ。

もっとも、私の手元に残った収穫らしい収穫は

あの秘宝ぐらいだったけど。」


「ダンジョン・・・、って前も聞いたけど、

結局どういうものなの?」


「マイナ・・・、あんた知らないの?

それでよく冒険者なんかやってるわね。」


「厳密にいうと正式な冒険者はレナード君だけだ、

私とマイナは旅に混ぜてもらってるようなものだね。」


「ふぅん? 訳アリっぽいわね。

まあ後で聞かせてもらうとして・・・。

ダンジョンっていうのはモンスターの巣窟よ。」


「それは二人から教えてもらったわ。

もう少し詳しく教えてもらえない。」


「じゃあどこから話そうかな・・・。

いいわ、一通り教えてあげる。」



 ルビーは少しだけ歩みを遅くすると、

後ろを振り返りながら説明を始める。



「ダンジョンはね、そもそもは地下にあるんだけど、

ある時突然、この地上のどこかに入口が生まれるの。」


「生まれる?」


「理由は分からないけど、一見すると

洞窟のような穴が地面から出て来るわけ。

でもそれが原っぱのど真ん中にあれば怪しさ満点でしょ?」


「それはそうね。 で、そのダンジョンには

モンスターがたくさんいるわけ?」


「ええ。 大きいのはあんまりいないけど、

小さくても地上のモンスターより強いのがいっぱいね。」


「怖いわね・・・。 でもルビーは

そんなところへ潜ってたの? 一体何のために?」


「一言で言えば"お金"のためよ。

ダンジョンにいるモンスターの牙なんかは高値で売れるし、

私が持ってる・・・、今はそこのドロシーに取られた秘宝なんかもあるの。」


「預かってるだけだよ。 まあとにかく、

ダンジョンは危険もあるけど一攫千金が狙えるってわけさ。」


「へ~・・・。 私だったら怖くて入れないわ。

でも、どうしてダンジョンにはそんなに強いモンスターがいるのかしら。」


「知らないわ。 私が興味あるのはお宝だけ。」


「ルビーの目的はともかく、

それについては確かな情報がないんだ。

何せモンスターの巣窟、調査もままならない。」


「確かにそっか・・・。 じゃあ、なんで

ルビーの持ってる秘宝なんかがあるのかしら?」


「それも知らない。 でもお宝があることはみんな知ってる。

下手をすれば一生遊んでくらせるようなお金が手に入るかもしれないって。」


「そのために危険を冒すのはやっぱり怖いわ。

でも・・・、確かに私たちのような人間は

まともに暮らすのも難しいから、分からないでもないかも・・・。」


「でしょ! そうでしょ!?

おっぱいが大きいと隠すのも大変だし、

誰かと会うのも怖くなるでしょ!?」


「それに関しては同意する。 というか今も窮屈だから

早いところこの布を外したいぐらいだよ。」


「あら、外せばいいじゃない。

誰も見てないんだからいっそ下着も外して

楽になっちゃえば?」


「これから不明瞭な目的地へ行こうというのに

そんな真似はできないね。

・・・したいという気持ちはあるが。」



 いつの間にか話の内容が

胸の大きな女性特有の悩みに移り変わり、

レナードは途端に居心地が悪くなってしまう。


 そこでふと、木々の隙間から場所に似合わないものが見えたため、

咄嗟に話題を変えることにした。



「あ、あの・・・、何か見えてきましたけど、

もしかしてあれがルビーさんのアジトですか?」


「ああ、もう見えて来るころだったかしら。

そうよ。 あれが私のアジト。

・・・ほら、そこの木くぐればはっきり見えるわよ。」



 森を抜けたところでルビーがアジトの場所を指し示す。


 月明かりに照らされるそのアジトは、

レナードたちが通って来た廃墟となった町だった・・・。


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