その7 大捕り物

 外壁を超えて町の外へ逃げた『おっぱい怪盗』だが、

そこを三人が、レナードたちが取り囲む。


 人の存在に気付いた怪盗は、警戒しながら声を上げた。



「!! 誰っ!?」


「えっと・・・、初めまして、突然ですが

あなたを捕らえさせていただきます。」


「・・・あら、町の人かしら?

こんなところまで追いかけてくるなんて熱心なファンですこと。

でも町の外はモンスターが出るから危険でしてよ?」



 最初こそ驚いていた怪盗だが、

すぐに調子を取り戻して芝居がかった言葉を投げかける。


 どうやら、レナードの姿を見て

追っ手、あるいは脅威ではないと安心したらしい。


 レナードは腰に携えていた剣を抜き、

見せつけるように構えながら返答した。



「ご忠告ありがとうございます。

ですがこの通りモンスターと戦う心得はありますので。」


「ふふ、ワタクシに刃を向けるとは命知らずな坊やですわね。

やめておいた方がいいですわよ?」


「坊やじゃありません・・・、レナードです!」


「そうですの。 元気な坊やですこと。」



 レナードの名前には特に反応を示すことなく、

剣を構える相手に身構える怪盗


 そこへ、レナードの陰でこっそりと本を取り出していたドロシーが

手を向けながら呪文を唱えた。



「【ルート・バインド】!」



 その瞬間、怪盗の足元から蔓や根が飛び出し

捕えようと襲い掛かるが・・・。



「残念ですが読めてましたわよ! はっ!」



 相手は蔓が絡みつくよりも早く跳び上がり、

ドロシーの魔法を容易くかわしてしまう。


 そのまま囲いを抜けて逃げるつもりなのか、

高く高く上がってから

三人と離れた場所へ着地しようとするものの・・・。



「やっぱり簡単に捕まってはくれないようだね。

・・・レナード君、じゃあ頼んだよ。」


「任せてください・・・! 《イヴェイユ・アウート》!」



 レナードが声を上げた瞬間、

彼の体が青白い光に包みこまれる。


 そして一瞬のうちに光の筋となって

空中にいる怪盗を追い越してしまった。



「な、何よ今のは・・・!

ちょっ、なんであんたがそこに!?

ど、どきなさいよ!」


「はぁはぁ・・・、いけない、通りすぎちゃった、

ええい、間に合え・・・!」



 ほんの一瞬だけだったが、

『女神の祝福』を使ったことで重くなった体に鞭打って

レナードが怪盗の女性に飛び掛かる。


 空中で避ける方法はなかったらしく、

相手は着地と同時にレナードに捕まえられた。



「つ、捕まえた! ドロシーさん、早く・・・!」


「くそっ! 私に追いつくなんて何者よ!

さっさと放しなさい!」


「嫌です! 放しませんよ・・・!」


「だったら放したくなるようにしてあげるわっ!」



 すっかり余裕がなくなってしまったのか、

わざとらしい口調をやめるおっぱい怪盗。


 そして、本人としては相手を怖がらせるつもりだったのか、

逆にレナード君を押し倒すとその豊満な胸の谷間で

顔を押さえつける。



「ほーらどう? あなたたちの大嫌いな巨乳よ?

怖いでしょう? やめてほしかったらすぐに手を放しなさい!」


「うぷっ・・・。 は、はなしません・・・。」


「な、何よこいつ・・・! こんなに押し付けてるっていうのに

怖がらないなんてどうなってるの・・・!?」



 予想と違う反応に困惑しながらも、

怪盗は胸を押し付け続ける。


 レナードは必死で抵抗し、

決して相手を放そうとしなかった。


 そうこうしているうちに目元を隠していたマスクがずれてきたものの、

谷間に顔が挟まれているレナードはそれに気付かない。



「レナード君、よく頑張った!

今度は逃げられないぞ、【ルート・バインド】!」



 そこへ二人が追い付き、ドロシーが魔法で相手を拘束する。


 今度こそ地面から出てきた蔓や根がしっかりと体に絡みつき、

おっぱい怪盗は捕まえられたのだった・・・。



「くっ、抜けられない・・・! わ、私が捕まるなんて・・・。」


「レナード君、大丈夫? ちゃんとこの人は捕まえられたわ。」



 魔法で拘束されて観念したのか

うなだれながら何やら呟く怪盗。


 追い付いたマイナが覆いかぶさる怪盗の体を退かし、

レナードを無事に救出したものの・・・。



「はぁ・・・、はぁ・・・、良かった・・・。

間に合ったんですね。 二人ともありがとうございます・・・。」


「わっ、レナード君どうしたの!?

ものすごい鼻血が出てるじゃない!」


「いえ、それよりも今はこの人の顔を・・・。」



 大きな胸を押し付けられたことで反応してしまったのか、

レナードは大量の鼻血を流していた。


 自分を心配するマイナの言葉も聞こえていないのか、

レナードは目の前の女性が探し人かどうかを

確かめようとする。



「あ、マスクがずれてる・・・。

・・・あぁ、良かった、この人はお姉ちゃんじゃない・・・。

よ、か・・・、った・・・。」



 そして安心したのか、巨乳にぱふぱふされてしまったことが

刺激的すぎたのか、そのまま倒れてしまった。



「きゃっ! レナード君しっかりして!

大変、鼻血が止まらないわ、ドロシー、布! 布!」


「わ、分かったから落ち着いて、

鼻血くらいでどうこうならないよ。」


「こんなところで捕まってしまうなんて・・・、

みんな、本当にごめんなさい・・・。」



 倒れる者、慌てる者、なだめる者、落ち込む者。


 傍から見れば奇妙な人たちがまともに会話できるようになるのは

もうしばらくしてからだった・・・。


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